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第18話  仲間が欲しい


「さて、一息ついた所で始めようか。今後の俺たちの話し合いを」


 麦茶で喉を潤した後、飲み干したグラスを静かに置いた。

 俺の真剣さが伝わったのか、対面する北沢は不可解そうに眉を寄せる。


「話し合い?」

「そうだ。まあ、まどろっこしいのも面倒だから、単刀直入に言うぞ。北沢、しばらくのあいだ俺と一緒に組まないか?」


 俺の提案に、北沢は目をぱちくりとさせる。


「組むって……どういうこと?」

「この《新世界》を攻略するには、俺一人だけの力じゃいずれ頭打ちが来る……と思う。だから早い内に仲間を集めておきたい」

「でも神崎君は十分強いじゃない。上限突破ハイオーダー? だっけ? それも凄い能力だし」

「たしかに上限突破ハイオーダーは便利だが、如何せん近接的過ぎる。それに能力の使用後は反動もあるから、無限に使える訳じゃない。実際、ジャイアントスライムは俺だけの力じゃ倒しきることはできなかったと思う。アイツを倒せたのは、お前の炎魔法があったからだ」

「ああ、あれね……。あんまり思い出したくはないんだけど、あの炎魔法もプリムちゃんが手伝ってくれたから出せたものよ?」

「そうだとしても、あれだけの規模の炎魔法を展開できるプレイヤーを放っておくなんてもっての他だ。プリム、お前から見て北沢のポテンシャルはどう思う?」


 プリムはチョコクッキーを頬張りながら、片手間に答える。


「んー、レベルいちにしてはそこそこ有望なんじゃないでしょうか。ステータスを見た感じ、遊一とは違ってスキルも魔法適正が高いみたいでした。魔法のサポートなら私も得意なので、どっちかと言うと遊一よりも未沙希の方が戦闘面では私のサポートを受けやすいと思いますよ」


 だらけきった姿勢で述べるプリムの総括に、俺と北沢は目を合わせた。  


「な? 俺だけが最強ってわけじゃないんだよ。良かったら、お前のステータスを見せてくれないか?」

「え、ええ。構わないけど」


 何気に俺は北沢のステータスをきちんと確認していない。

 ジャイアントスライム戦の際は時間稼ぎの役回りを全うしていたため悠長に人のステータス情報を眺めてる暇はなかったからな。


 北沢は慣れていない様子で「ステータスオープン」と唱えた。



 名前:北沢未沙希きたざわみさき

 レベル:1

 魔力:799

 習得魔法:炎魔法Lv.6、回復魔法Lv1、結界魔法Lv1

 称号:魔法使い



「……なんか炎魔法だけ異様に成長してんな」


 一発目に浮かんだ感想だった。

 あと魔力値も俺と比べて異常に高い。

 数倍の差をつけられている。


 プリムが追加のクッキーの袋を破りながら、補足した。


「スキルも魔法も、基本的に使えば使うほどレベルアップが早まります。未沙希の場合は私がサポートして魔法の威力を底上げして発動させたので、一気に魔法の習得が進んでレベルアップが速まったんだと思いますよ」

「てことは、魔法関係のスキルがあった時は一時的にプリムの力を借りたらレベルアップが捗るってことか?」

「そうなりますね。普通に魔法を使ってレベルを上げるよりも、倍以上の効率性を約束しましょう」


 ええっ、そんなに!?

 この妖精……マジで俺よりも北沢の方がバディとしての相性良いじゃねぇか。

 俺は『スキル』はいくつか持っているものの『魔法』は一個もない。

 一応『スキル』の方でプリムはサポートできないのかと聞いてみるが、できなくはないが魔法ほど効率が良くないのでレベルアップの観点で考えるなら微妙、とのことだった。


 プリムの返答に意気消沈していると、黙っていた北沢が射貫くような鋭い視線を向けてくる。


「……さっき神崎君とプリムちゃんが教えてくれた情報をまとめるなら、この《新世界》は言ってしまえばRPGゲームのような感じに作り変えられてしまった世界ってことなのよね?」

「簡単に言えばな」

「それで、元の世界に帰れるか分からない……そんな状況なのよね」

「現状はそうなる」


 北沢は唇を結び、しばらく黙ると、やがてゆっくりと口を開いた。


「それなら……いいわよ。ていうか、私の方からお願いしたいくらい。誰か見知った人と一緒にいないと、私一人でどうにかできる気がしないし……」

「マジか! 助かるぜ北沢!」


 思わず立ち上がり、バンッ! とテーブルに手をつく。

 もし断られたらどうしようかと思っていたが、これでひと安心だ。

 北沢は少し驚いた様子を見せたものの、小さな笑みで返してくれた。

 が、その表情には陰が差している。

 それに気づいたと同時、北沢が二の足を踏むような口調で言葉を紡いだ。


「あの、さ。神崎君は、元の世界に帰ることができると思う……?」

「――――、」


 弱々しい北沢の問い。

 その表情を見て、思わず言葉が詰まる。

 軽々しく気休めや励ましの言葉はかけない方がいいか。

 一瞬そんな思考が脳裏を掠めるが、俺は少し黙った後、いま俺が確信しているを口にしようと決めた。


「その質問に対して答えは一つだ。俺は――――間違いなく元の世界へ帰る方法があると考えている」




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