クエストのクリア報酬が思っていた以上に俺に適したモノだったため、その後は実にスムーズな移動できた。
「ひゃっはっは! マジで使い勝手いいなこの双剣! 最高だぜ!」
特に【
もう十体ほどスライムを倒している。
一応ステータス画面を見てみたが、さすがにスライム程度では経験値が足りないようで特にレベルアップしているようなことはなかった。
「楽しそうね、神崎君」
「ん? ああ、面白ぇだろこの双剣! こんなマジックみたいな機能、《新世界》ならではだよな!」
「そ、そう。……ところで、さっきから気になってたんだけど、クエストって何なの?」
北沢は素朴な疑問をぶつけてくる。
さっきの俺とプリムの会話を聞いていたのだろう。
そう言えば、何も分かっていない北沢が置いてけぼりになっていたなと反省する。
クエストに関しては俺も完全に理解しているかは怪しいので、プリムも交えながら説明した。
ついでに、その他の《新世界》における基礎的な情報なども共有しておいた。
◆ ◆ ◆
俺の家にはすぐについた。
さすが学校まで徒歩三分の好立地。
校門を出て左に曲がって直進、最初の丁字路をさらに右に曲がれば我が家である。
「ついたぞ」
「本当に徒歩三分ね」
「ほへぇ~! ここが遊一のお家ですか~」
俺の家は別に何の変哲もない、どこにでもあるような一軒家だ。
外観は白を基調としていて、駐車スペースと小さい庭がくっついている。
が、駐車スペースは空っぽで車はない。
ということは、恐らく両親は家にいないだろう。
ウチは両親共働きで、毎朝親父の運転する車で母も職場に向かうのだ。
「んじゃ、入るか」
鍵を取りだし、木製の玄関扉を開ける。
すでに敵感知は発動済み。
周辺にぽつぽつとモンスターの反応はあるものの、全て道中で見逃してきたスライムのものだ。
家の中に反応はない。
ガチャリと扉を開け、玄関に足を踏み入れる。
明かりが消された薄暗い廊下と二階へ続く階段、何千回と見た我が家の光景が広がっていた。
だが、ここは完全に日常とは異なる世界だ。
妙な異様さを感じつつ、俺は土足で廊下にあがった。
「ち、ちょっと神崎君! 靴のままよ!」
「ん? ああ、別にいいんだよ。つーか、靴を脱いでたら緊急時にすぐに動けないしな。北沢も土足であがってくれ」
「えっ、で、でも……」
「家主が許可出してんだから気にすんなよ」
「そ、それなら……お邪魔します」
北沢は恐る恐る玄関にあがり、ぐりぐりと靴底を押し付け少しでも汚れを落としてくれた。
そして意を決するように廊下に足を入れ、無事に土足デビューを果たす。
プリムはずっと飛んでいるので土足もクソもない。
「うぅ、人の家に土足であがるなんて、なんだかすごく悪いことしてるような気分……」
「そうか? まあちょっと違和感はあるが、こんなこと普段はやりたくてもできねぇだろ? プチ非日常を味わえて面白くね?」
「全然面白くないわよ。ていうか、土足で家にあがりたいなんて思ったことないし!」
反抗してくる北沢の言葉を背中で受け、俺はリビングへと向かった。
廊下を左に曲がると右側にキッチンが広がり、左側はソファやテーブル、テレビなどが置かれている。
いつも家族団欒の場になっているエリアだ。
「適当に座っててくれ」
「え、ええ」
「私もずっと飛んでて疲れたので助かります~! とりゃあ!」
北沢を押し退けるように上空から飛び立ってきたプリムは、小さな体でソファにダイブした。
北沢も控えめにテーブルの椅子に座る。
俺は冷蔵庫からお茶を取り出しグラスに注いだ。
「あっ、遊一~! 私なにかジュース飲みたいです~! ストローあったら一緒にお願いします! あ、あとお腹も減ったんでいくつかお菓子も持ってきてくださ~い!」
「……へいへい、分かりましたよ」
プリムに言われるまま、追加でオレンジジュースを取り出し、適当にお菓子も付け合わせてお盆に乗せる。
「あ、私も手伝うわ!」
「いや、いいよ。一応お前もお客さんなんだから。そこのちっこいクセに神経だけは図太い駄妖精と一緒にくつろいでてくれ」
お盆を持ったままテーブルまで向かい、北沢とプリムに飲み物とお菓子を提供する。
プリムのオレンジジュースには、ご要望通りストローもぶっ刺した。
「あ、ありがとう。ごめんね、何から何まで……」
「気にすんなって言っただろ。お茶で問題なかったか?」
「うん。大丈夫」
一通りドリンクとお菓子を運び終わり、俺も椅子に座った。
ちょうど北沢の対面の席だ。
ちなみにここは家族で飯を食う時の俺の定位置でもある。
俺たちは各々飲み物を一口含んだ。
何気に《新世界》に訪れてから今まで水分補給をしていなかったので、冷たい麦茶が体を潤していって気持ちいい。
「ぷはー!! オレンジジュースうっまー!!」
プリムもストローからぐびぐびとジュースを流し込み、居酒屋のおっさんみたいな声をあげる。
俺は小袋を開けてクッキーをかじりながら、話を切り出した。
俺がプリムと北沢を家に招いたのは、一休みするというのだけが理由ではない。
「さて、一息ついた所で始めようか。今後の俺たちの話し合いを」
《新世界》を共に生き抜くための、作戦会議だ。