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第14話  際どい状況


「これはどういうことなのか、しっかりじっくり説明してっ!!」


 ジャイアントスライムの本体を討伐した後、ほどなくして正気に戻った北沢。

 彼女はものすごい剣幕で俺に詰め寄り、状況説明を求めてくる。

 が、生憎と俺はその要望に素直に応じれずにいた。


「……ち、ちょっと待て。いま、全身が、バッキバキ、でぇ……!」


 上限突破ハイオーダーの度重なる使用による、全身筋肉痛の代償。

 その痛みを極限まで減らすため、どこぞの芸術家が仕上げた不気味な像のような、あるいは今世紀最大に寝違えた直後のような、体中の間接をカクつかせた奇妙な体勢で言葉を絞り出す。

 ぶっちゃけ声を出すのも辛い。


「あっははははは!! いい気味ですね遊一! この天才的な美貌と頭脳を持ち合わせるプリムちゃんを侮るような発言をするから早くも罰が当たったんですよ! 神様はやっぱり見てくれてるんですねー!」

「テ、テメェこのやろう……!」


 高らかな笑い声を轟かせながら、俺の頭上をひゅんひゅん旋回する妖精。

 俺は歯を食い縛りながら痛みとストレスを堪える。

 と、俺たちの様子を強張った表情で眺めていた北沢が、恐る恐るプリムを指差した。


「さ、さっきから思ってたんだけど、何なのよは……。最先端のAI……とか、じゃない、わよね……?」

「違いますよ。私をそんなハリボテの機械人形と同じにしないでください。私はちゃんと血の通った精霊体でありプリティー妖精であるプリムちゃんです! よろしくお願いしますね、未沙希みさき!」

「せいれいたい……? ようせい……? ぷ、ぷりむ?」

「あー……北沢。そこの浮いてんのも後で説明するから、また頭バグらせんなよ。もうちょいで体も慣れるから……ちょっと、待ってろ」 


 グギギギ……と、錆びついて回らないボルトのように間接を動かしながら、少しずつ体勢を整えていく。

 全身の筋肉が悲鳴をあげる。

 が、奇天烈なポーズで固まっていたのを、何とか直立までは持っていけた。

 あとは徐々に筋肉をほぐしていって、体をストレッチすれば元通りになる、よな……?


 ふと、プリムが大きなため息を吐いて俺から距離を取る。


「全く、しょうがないですねぇ遊一は。上限突破ハイオーダーによる全身の反動で多少は罰を受けたようですし、今回はこれくらいで大目に見てあげましょうか」

「あぁ? プリム、お前なにを……」

「発動が狂うのでじっとしててください。いきますよ――回復ヒール!」


 プリムは小さな手を向けてきた。

 すると、俺の体がほのかな緑色に光る。

 その瞬間、全身の重苦しい痛みが引いていった。


「な、なんだこれ!? 一気に体が楽になってくぞ!」

「私の回復魔法ですよ。簡単なものなんで、あまりの大怪我にはいまいちですが、筋肉痛くらいの軽度のダメージであればたちまち全快するでしょう」

「そんな便利な魔法があったのかよ……! さすがプリティー妖精。頼りになるな」

「っ!! そうでしょうそうでしょう! 私はサポート役として最適な能力を宿してますからね! これくらいお茶の子さいさいですっ!」


 プリムは、えっへんと胸を張った。


 褒められるとすぐ調子に乗るな、こいつ。

 もしヒロイン枠だとしたら相当なチョロインになってそうだ。

 ただ残念ながら、この世界ではマスコット枠である。 


回復ヒール、だったか? それマジで便利だな。本当に体から痛みや強張りを感じなくなったぞ」


 ぐるぐると肩や腕を回し、首をコキコキと鳴らして、手首や足首をぷらぷらさせる。

 筋肉痛の"き"の字も感じない。

 ほどなくして、俺の体から緑色の発光は収まっていった。


 プリムの回復魔法のおかげで想定よりもずっと早く体を本調子に戻せた一方で、あんぐりと口を開けて俺たちを傍観する北沢に気づく。


「ああ、置いてけぼりにしちまって悪いな。それで北沢、お前が知りたいのは……どこから話すかな。多分、この世界から説明することになるかと思うが、大丈夫か?」

「! え、ええ。だ、大丈夫よ。嘘偽りない、真実を話して」


 北沢はハッと意識を取り戻すと、慌てて取り繕うように早口で答えた。

 腹を括ったような固い意志が垣間見えるその表情と対峙し……俺は目の前の光景にどうしたものかと頬を掻く。


「あー……その前に、なんだが。ちょっと言いにくいんだけどよ」

「なによ。もう覚悟はできてるわ。ここが仮装空間なのか、それともただの夢の中なのか、最悪……し、死後の世界であっても! 私はそれを聞き入れる準備は――」

「いや、そうじゃなくて。あの~、スク水ちょっと危ないぞ」

「へ?」


 北沢は不思議そうに自分の体を見下ろした。

 女性らしい起伏の感じられる柔らかなボディを覆うスク水が、一部破れたりくるまったりして通常よりも露出面積を増やしている。

 具体的に言うなら、お腹や胸元に肌色の面積が増えていた。


「――――っ!!?」


 北沢はボッと顔を赤くし、かん高い悲鳴をあげる。

 直後、なぜか俺は盛大なビンタを食らっていた。




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