戦いは徐々に激化の一途を辿っていた。
ジャイアントスライムから伸びる幾本もの触手。
それを俺はナイフや彫刻刀を取っ替え引っ替えし、一本ずつ対処していく。
出し惜しみはしない。
というか、できないと言った方が正しい。
無数の触手が波状攻撃のように迫り、対応するだけで手一杯だ。
「クッソ……! 分かっちゃいたが、マジでキリがねぇな!」
びちゃ! と、アスファルトの地面に粘り気のある液状の触手が飛び散った。
ナイフで触手を迎え討つたび、切断された触手の残骸が辺りに飛散する。
スライムの肉片は千切れた後もヒルのようにうにょうにょと動いていて気持ち悪い。
が、今はそんなことを気にしている余裕はなかった。
それよりももっと
「一個は言うまでもなくナイフの残弾だ。この調子で消費し続けてたら、あと一分保つかどうか……!」
まあ、これは初めから分かっていたことだ。
しかし、忘れてたことがもう一つあった。
「完全に失念してたのが、
派手に動き回る必要がなくなったため一旦両足の
「それに恐らく、
細切れの残骸となって破壊されるのが、自らの肉体の一部だと考えると寒気が走る。
このデカブツ……余裕でオークよりも苦戦させられてるぞ。
「だが、ジャイアントスライム本体がずっとプールの中に収まってくれているのが幸いか。これでスピードも早かったらいよいよ詰んでた可能性が高い。てか普通に撤退を選択してるわ」
触手の攻撃は厄介だが、その代わりとして本体は動けないのか、極端にノロマかのどちらかなのだろう。
俺の鑑定スキルのレベルが上がったらそういった細かい補足情報も追加されたりするのだろうか。
「つっても、これ以上は本格的に不味い……! そろそろ時間稼ぎも限界だぞ……!!」
ナイフの残弾数。
俺の肉体に跳ね返ってくる反動の深刻さ。
そしてジリジリと追い詰めてくる敵の猛攻。
ここまで粘ってダメなら、今の俺達じゃ勝てない。
そう判断し、後方にいるプリムと北沢に撤退の言葉を叫ぼうとした――瞬間。
「フ、ファイアストーム!!」
不慣れな詠唱。
それが何らかの攻撃動作であると理解したのは、俺の真後ろから巨大な炎が濁流のように頭上を通過し、ジャイアントスライム本体に襲いかかったのを目の当たりにしたからだった。
「プギュュウウウウアアアアアアアアアアアアア!!!」
ジャイアントスライムの巨体が炎に包まれる。
二十五メートルプールの中が、一瞬にして炎の海へと変貌した。
熱気が肌をひりつかせる。
俺はバッと後ろを振り返った。
そこには魔法陣を展開させる北沢と、それをサポートするように魔力のようなエネルギーを流し込んでいるプリムの姿があった。
プリムは俺の視線に気付き、空いている片方の手でVサインを送ってくる。
「やりましたよ遊一! この方、かなり魔法に優れたスキルを持っていました! ただ、まだ魔法の扱いが未熟だったので、最低限の発動方法だけ教えて他の部分は私がサポートしています! そうしたらあら不思議! こんなに巨大な炎魔法が完成しましたー!!」
「ひゃぁあああ……!? な、なにこれぇぇ……!!」
得意気に語るプリムとは対照的に、魔法を発動している張本人の北沢は困惑しながら目をぐるぐるとさせていた。
北沢の心中を察すると同情するが、今は無理矢理にでも強力な魔法を発動させてくれたプリムに感謝せねば。
「プギュッアア! アギュアアアアアアアア!!!」
ジャイアントスライムの巨体は炎に飲まれている。
迫ってきていた触手にも炎が燃え移り、バタバタと力なく倒れていった。
この炎は明確にジャイアントスライムにダメージを与えている。
過去一の手応えだ。
「よくやったぞプリム、北沢! これはかなり効いてそうだ!」
「ふふん! 当たり前ですっ! この私を誰だと思っているんですか! こんな炎魔法の拡張サポートくらい、ちょちょいのちょいですよっ!」
「あばばばばばば」
あまりに非現実的な現象に北沢が頭から煙を出している。
完全にショートしちまったようだ。
まあ、北沢のケアはジャイアントスライムを倒した後に考えるとしよう。