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第11話  思わぬ強敵


 間一髪、スク水女生徒の救出には成功した。

 同時に俺以外のプレイヤーがいたこと、そのプレイヤーが同じ高校の学生らしいことも突き止め、これは大きな進展だ、と直感する。


 決してスク水ばかりに目がいっているわけではないぞ?


「つっても、喜ぶのはまだ早ぇがな」


 他プレイヤーと接触できたのは喜ばしいが、問題は依然として眼前に蠢いている。

 プールの中に張られた大量の水。

 その水はぐにょぐにょと軟性を帯びており、こちらを窺うように不規則に波打っている。


「ジャイアントスライム、だったか。レベルは十……つまり、初戦のオークよりも強いってことかよ。てっきりあの豚野郎がこの学校のボスかと思ってたんだが、まだ上がいたとはな」


 俺はナイフや彫刻刀を適当に取り出し、上限突破ハイオーダーを付与。

 ジリジリとこちらに迫ろうとするジャイアントスライムに向けて投擲するが、ぷしゅん、と気の抜けた音と共に粘性の巨体に飲まれる。

 半透明の肉体に取り込まれたナイフと彫刻刀は周辺のスライムの体を切り裂くが、あまり手応えはない。


「チッ、スライムの親玉が! そこらのスライム共は楽に倒せたってのによ!」

「遊一! 小型のスライムならともかく、これほど巨大に膨張したスライムには、たとえ上限突破ハイオーダーを使用しても手持ちのナイフじゃ効きが悪いですよ!」

「みたいだな。つっても、刃物しか武器ねぇんだよなぁ」


 スライムのように柔らかく、分裂してもくっつけば元通りになるような性質を持つモンスターは刃物じゃ相性が悪いってのは理解できる。

 こういう奴に対処するにはどういう武器が適切だろうか。

 スライムの体ごと粉砕するハンマーとか?

 でも、どっちにしろジャイアントスライムは巨体すぎて普通のハンマーで叩いても大したダメージは与えられなさそうだ。

 むしろ接近系の武器はジャイアントスライムからの反撃を食らいやすい分、遠距離攻撃よりリスキーであると言える。


 決め手に欠ける状況で、俺は背後のプレイヤーの存在に意識が向く。

 こいつがプレイヤーなんだとすれば、もしかしたら……!


 俺はジャイアントスライムから目は逸らさず、腰が抜けたように地べたに座る女生徒に叫ぶ。


「おいアンタ! 怪我はないか!」


 女生徒は一瞬驚きに息を呑んだが、はっきりと言葉を返してくれる。


「だ、大、丈夫……」

「なら良かった! 俺は神崎だ。アンタの名前は?」

「北沢よ。北沢未沙希きたざわみさき

「北沢か。もう少しきちんと自己紹介したいところだが、生憎今はそんな悠長なことができる状況じゃねぇ! だからいきなりで悪いんだが、アイツに効きそうな能力なんか持ってるか!?」

「の、能力ってなに?」


 ジャイアントスライムからまたしても触手が伸びる。

 俺はポシェットから追加のナイフを抜き、上限突破ハイオーダー付きで投擲。

 触手はあっさりと千切れ、行き場を失ったようにうにょうにょとアスファルトの地面で踊っている。

 だが、敵もこちらが決定打を持っていないことを悟ったのか、様子見から本格的な攻撃に切り替え始める。

 幾本もの触手がプールの至るところから天高く伸び、次々と迫ってくる。


「ステータス画面開け! それで自分が何の力があるのか把握できる!」

「ステータス……? それどうやって開けば――」

「とりあえずステータスオープン、って言え! ちょっとマジでスライムやべぇから!」


 次から次へと無限に増殖するスライムの触手。

 その全てに対してご丁寧に上限突破ハイオーダー付きのナイフで応戦しているが、マジでキリがない。

 それどころか、戦況は確実にこちら側が劣勢だ。

 ジャイアントスライムは触手が一つ千切れたくらい何ともないかもしれないが、その一本の触手を沈めるために俺はナイフを一本消費しなければならない。

 そして相手の触手が実質的にほぼ無制限に生み出せるのに対し、俺のナイフは明確に本数が定まっている。

 スライムのように足りなくなったら新しいナイフが生えてくるなんてことはないのだ。

 つまり、俺のポシェットの中身がすっからかんになった時、この戦闘の敗北が確定する。

 そうなる前に、このデカブツをぶっ倒すか、撤退するか決断しなければならないんだが……。


 戦闘か撤退かの思考は、驚嘆の声に遮られる。


「あ、あったわ! ステータスって、これのことよね!」


 俺は顔だけ後ろに向けて、様子を探る。

 たしかに、女生徒の前にステータス画面が開かれていた。

 その内容を読み取ろうとした瞬間、勢いを強める触手の嵐。


「クソッ! しつけぇ、触手スライムだな!」


 女生徒のステータス内容をしっかりと確認させてくれるほど、甘い相手ではないらしい。

 そうだ。

 相手の動きが遅く、今は中距離で戦えている心の余裕から忘れていたが、こいつはオークよりも格上なのだ。

 当然、気を抜ける敵ではない。


「ね、ねぇ! それで、このステータス画面? から、どうすればいいの?!」

「くっ、ちょっと待て。プリム! そいつのステータスを見て、あのデカブツに対抗できそうな能力があったらレクチャーしてやってくれ! 俺はちっとばかし迎撃に専念するッ!」

「了解です! この私にお任せあれ!」


 プリムは、ビューン! と女生徒の元まで飛んでいく。

 女生徒は突然やってきた浮遊する小人に仰天していたが、プリムは無理やり自身の存在を納得させ、彼女のレクチャーへ移った。

 プリムなら何とか上手く女生徒の能力を使ってくれる……はずだ。


「あのぶりっ子妖精を信じることになるとは癪だが、俺は自分がやるべきことに専念しよう。こっからは時間稼ぎだ。テメェを倒せば俺のクエストもクリアなんでな。悪く思うなよ、ジャイアントスライム!!」


 その宣言を皮切りに、ジャイアントスライムはさらに攻勢を強めていった。




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