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第10話  スク水の女生徒


 悲鳴が聞こえてきた方角へ走る。

 あれは間違いなく人間の声……つまり俺以外のだ。


 ただ少し気がかりなのは、どんどん校舎から離れていっていること。

 てっきり学校内でモンスターに襲われてるのかと思ったが、そうではないらしい。

 さっきから敵感知スキルも発動し続けているが、着実にモンスターの場所には近付いているので方角は間違っていない。

 校舎の側面から迂回し、食堂を抜けた。

 現在地点とモンスターの居場所までの距離を測ると、一つのエリアが見えてくる。


「この先……まさかプールか?」


 食堂の側面を抜けると、太い木々と金属製のフェンスに囲われたプール場が見えてくる。

 それだけではない。

 木々の隙間からは人影のようなものが見え、必死に声にならない声を叫んでいた。


「クソッ、これプール場まで正規のルートで行ってたらかなりの時間ロスになるな……。プリム! 行儀は悪いが緊急事態だ! ショートカットで行くぞ!」

「あいあいさー!!」


 ここは俺の肉体よりも、人命救助を優先すべきだ。

 俺は雑草が生い茂る地面に足を踏み入れ、頭上を見上げる。

 天高く成長した何本もの木が目隠しのように前面に立ちはだかり、その奥に本命である金属フェンスが張られているという二段構えの防御構造。

 普通なら木やフェンスをよじ登るにしても一筋縄ではいかなさそうだが、俺には常人を上回る、それこそ的な能力があるのだ。


「ちょっとばかし能力を使うだけだ。まだ若干痛みは残ってるんだが、どうか持ってくれよ俺の両足――――上限突破ハイオーダー、発動!!」


 ブォン! と脚部から赤いオーラが風に揺れた。

 俺は全速力でプール場に突っ込んでいき、樹木に激突する手前で大きく踏み込む。

 ダァン! と銃声のような破裂音で地面を蹴り上げ、体が数メートル跳ね上がった。

 文字通り、一足飛びの跳躍。

 青空に浮いた俺は樹木の頂点を見下ろし、フェンスを超えて、長方形にかたどられたプールに視線を移した。

 そのプール場の一角、出入口の近くでへたり込む女生徒を発見する。

 プールの授業中だったのか、学校指定のスク水を着用していた。


「居たっ!!」


 まだやられてはいない様子。

 だが、彼女の足首に青緑色の触手がまとわりついている。

 その触手は半透明で、うにょうにょと軟体生物のような挙動で獲物を逃がすまいと絡み付いている。

 そして、その触手はプールの中から伸びていた。

 ……いや、違う。

 プールに張られた水そのものが、ぐにょんぐにょんとダイナミックに波打っている。


「ありゃモンスターか!? 頼むぞ、鑑定!!」


 すかさず鑑定スキルを発動。

 直後、気色悪い巨大な軟体生物の素性が明らかになる。



 名前:ジャイアントスライム

 レベル:10

 多量の水分を吸収して巨大に膨れ上がった、スライムの変異個体。



「マジか!? あれスライム!? 大層ご立派に成長なさってんなァ!」


 盛大に悪態吐きながら、行動を起こす。

 まずは襲われてる女生徒を救出しないといけない。


 肩にかけるポシェットから、俺の動きに合わせてガシャガシャと金属が打ち付け合う音が鳴る。 

 跳躍による上昇が止まり、一瞬の浮遊感。

 そのまま自由落下に転じる前に、そのポシェットからナイフを取り出した。

 刃を保護していたプラスチックの安物カバーを口で噛んで吐き捨て、剥き身の刃物を強く握る。

 俺は自らの右腕と右手に掴む果物ナイフに上限突破ハイオーダーを発動した。


「食らえや、触手野郎がッ!」


 全力でナイフを投擲。

 狙いはジャイアントスライム本体ではなく、女生徒の足首に絡む触手の部分だ。

 俺の手を離れたナイフは荒々しい赤い粒子を迸らせながら、うねうねと蠢く触手に迫り――――


 ザシュン!


 ナイフは触手を易々と断ち切り、ざらついたアスファルトの地面に弾かれながら、上限突破ハイオーダーの反動で砕け散った。

 同時、俺はプール場に降り立ち、ごろごろと転がって受け身を取る。

 慣性の法則を利用しながら華麗に立ち上がり、ポシェットから追加のナイフを取り出して臨戦態勢で控えた。


 我ながら完璧な登場シーンだ。

 かなりカッコよく決まったぜ!


「にしても、俺のクエスト最後の一体が巨大スライムとはな!」


 地べたにへたりこんだスク水の女生徒を守るように、スライムへと立ちはだかった。

 チラリと後ろを見る。

 女生徒は呆然と俺を見上げ、俺は肌色成分多めのスク水という恰好を目に焼き付けた。


 うむ。

 なかなか眼福である。




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