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第9話  戦闘スタイル


 学校の裏庭。

 その一角、生物部が飼育しているメダカの水槽が置かれている草木が生い茂ったエリアで、俺は赤いオーラを放つ果物ナイフを振り下ろす。


「プギュァアアアアア!!」    

「これで九体目、っと」


 学校から調達した果物ナイフを緑色の粘性生物、俗にいうスライムに突き刺した。

 が、これはただのナイフではない。

 元々は百均でも売ってそうなチープな物だったが、俺が上限突破ハイオーダーを付与することで凄まじい切れ味と攻撃力を誇る業物に進化していた。


「おお~! 遊一のナイフ捌きもだいぶ板についてきましたね」

「ま、持ち運びしやすくて最低限の殺傷能力がある道具は限られてるからな。消耗品として使い潰す前提の戦闘スタイルだから、量を担保できる武器となるとナイフが手頃だし」


 俺の固有能力、上限突破ハイオーダーは、指定した物体の性能を引き上げることができる。

 しかし、能力を使用した後はその反動が返ってくるため、あまり自分の肉体には使いたくない。

 そこで目をつけたのが、学校に置いてある軽量武器だ。


 俺は道中でパクってきたポシェットを肩にかけ、ポンポンと叩いた。

 そのポシェットの口を開くと、じゃらり、と大量の刃物が詰め込まれている。


「まずは調理室に行って備品の果物ナイフをありったけ回収して、一応攻撃力が高めの包丁も数本入手。あとは美術室から飛び道具用の彫刻刀を適当に詰め込んでる。問題は、所持してる武器の数が実質的に俺の『持ち弾』になってるってことだが」


 上限突破ハイオーダーを駆使した戦闘は、扱う道具が長持ちしない。

 骨董品として飾られていた日本刀が二振りで寿命を迎えたように、基礎性能が低い物だと一、二回使用したら反動でぶっ壊れてしまう。

 それはこの安物のナイフや彫刻刀でも同じこと。

 スライムにトドメを刺したナイフも、粉砕して跡形もなく消えてしまった。


「ふむふむ。課題は上限突破ハイオーダーの反動に耐えられる武器がないってことですね」

「ああ。だからもうちょっと基礎性能が高い武器があれば助かるんだがな。この《新世界》にはそういうのないのか? 伝説の勇者だけが抜ける聖剣みたいなやつ」

「聖剣かどうかは知りませんが、特殊な武器はありますよ。魔力を通して魔法を放つワンドとか、強大な敵を両断する戦斧とか」

「マジか、やっぱあんだな。それどこで手に入るんだ」


 プリムは目を閉じてうんうん唸った後、残念そうに頭を振った。


「申し訳ないですが、今の私ではアクセス権が解放されていない情報のようです。データベース上では黒塗りにされちゃってて分からないですね。ただ、そういった《新世界》にだけ存在する武器、というものが設定されていることだけは確かです」

「なるほど。ま、今はコツコツ目先のクエストをクリアしていった方が堅実か」

「ですね! ガンガン攻略していきましょう! てか、クエスト達成まであと一体じゃないですか?」

「そうだな。オーク戦の時とは比べ物にならないくらい、スムーズにモンスターを倒せてるぞ」


 ていうか、雑魚しかいないのが理由だが。

 出くわすモンスターもスライムばかりで、そのレベルも一か二、高くてもレベル四くらい。

 いま討伐したスライムもレベル二で、この程度のモンスターであれば上限突破ハイオーダーで強化したナイフ一本あれば簡単に始末できる。


 マジで初手のオークが規格外の強さだっただけか?

 絶対あいつこの学校のボスモンスターだっただろ。

 右も左も分からない初心者プレイヤーが開始二分でエンカウントしていいヤツじゃねぇぞ。

 固有能力なかったらマジで死んでるわ。


 心中で毒吐いていると、不意にウインドウが表示された。


『スキル:「敵感知」のレベルが上昇しました』


「お、敵感知スキルが成長したか」


 早速ステータスを確認してみる。


 名前:神崎遊一かんざきゆういち

 レベル:7

 魔力:101

 固有能力:『上限突破ハイオーダー

 保有スキル:鑑定Lv.1,敵感知Lv.2

 称号:アーリープレイヤー


「敵感知スキルはレベル二に、そんでもって俺個人のレベルも七に上がったか」


 スライムとしか出会っていないが、九体も倒せば少しはレベルアップするらしい。

 俺の今のレベルが低いってこともあるだろうが。


「敵感知スキルが成長しましたけど、なにか変化ありました?」

「試しに使ってみるか。敵感知、発動!」


 脳内に現在地と周辺エリアのマップが現れ、そこにサーチがかけられていく。

『敵感知Lv.1』では、おおよそ俺の半径五メートル圏内に存在するモンスターを捕捉することができた。

 成長した敵感知スキルは、サーチをかける正円がぐんぐん広がっていき、校舎の半分ほどまでサーチ範囲が拡張されていた。


「おお、すげぇぞこれ! これまでの敵感知スキルよりだいぶ索敵範囲が広がってる! 下手すりゃ十倍くらいになってんじゃねぇか?」


『敵感知Lv.1』が半径五メートルの索敵だったので、『敵感知Lv.2』は単純計算で半径五十メートルまで索敵可能範囲が拡張されていそうだ。

 正確に何メートルかは分からないが、体感的にそれくらいが妥当だと感じる。


「やりましたね! それで、どうですか? 近くにモンスターいます? クエストクリアまであと一体ですし、サクッと倒してクリア報酬をいただいちゃいましょう!」

「そうするか。だが、今のところモンスターらしき影は見え――」


 ――ない、と言おうとしたところで、敵感知に反応があった。

 ピコーン! と、脳内でモンスターの位置を示すマーキングが現れる。

 索敵範囲ギリギリに掠める、赤色のマークがのそのそと動いた。


「きゃああああああああああああ!! 誰か助けてぇえええええええええええ!!」


 瞬間、絹を裂くような悲鳴が遠くから響いてくる。 

 俺とプリムは互いに顔を見合せ、頷き、悲鳴が聞こえてきた方へ駆け出していった。




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