「グゴォォアアアアアアアアアアアアッ!!」
迫る咆哮。
強大な音の暴力が階段から廊下を駆け抜け、校舎全体をビリビリと震撼させる。
「なん、だこのモンスターはッ!? ハッ、こういう時こそ……鑑定!!」
俺が現状保有している唯一のスキル。
豚の顔面と相撲取りのような巨体を誇るモンスターに、ウインドウが表示される。
名前:オーク
レベル:9
腕力に秀でており、打撃系の武器を好んで使用する。
「オーク!? あれが……!? なるほど、ファンタジーゲームの定番モンスターってことかよ!」
化け物である豚男の素性はオークであると判明した。
と同時、一階から俺を見上げていたオークは威圧的な叫びと共に階段を駆け上がってくる。
不味い!
俺は反射的に反対方向へ、職員室などがある別校舎の渡り廊下へ踵を返す。
「ヤベェヤベェ! これマジでヤベェ! オークってリアルで出くわしたらあんな怖ぇのか!? つーか、今さらだがこれって夢じゃねぇよな!?」
「グガガァァアアアアアア!!」
「ッ!!」
追跡してくるおぞましい獣声に、背後を振り返る。
すると、二メートルほど離れたすぐ傍でオークが武骨な棍棒を振り下ろした。
俺は咄嗟に左へ急旋回。
ゴロゴロと広い床を転がると同時、つい二秒前まで俺がいたポイントを棍棒が粉砕した。
ベキベキベキベキィィッ!!!
これまで数十年にわたり二つの校舎を繋いできた渡り廊下を、軽々と破壊した。
「おいおい冗談だろ……! こんなの食らったら一撃で即死じゃねぇか!!」
陥没した廊下の穴から棍棒が引き抜かれる。
ギロリ、とオークが俺を見下ろした。
直前で回避したせいか、苛立ちが募っているように見える。
オークはそのまま、廊下の壁にへたり込む俺へ向けて棍棒を振りかぶった。
ヤバい、次が来る……ッ!!
早く立って逃げねぇと!!
だが、次も避けれんのか!?
いや、余計なことは考えるな!
今はただ、全力を超えて動かすんだ――――俺の足をッ!!
『
ウインドウがポップアップされた気がした。
が、その文章は全く把握できなかった。
なぜなら。
――――ギュゥウウウウン!!
音を置き去りにする、なんて表現をたまに目にするが、俺は今それを体現していた。
「グガッ!?」
振りかぶった棍棒を強打者さながらの迫力でスイングしたオークは、むなしく空振りに終わる。
困惑するのも無理はない。
本来なら命中していたであろう一撃。
しかし、俺は突如進化した驚異的な脚力で脱兎のごとく逃げおおす。
「は、あッ!? な、に……!」
先ほどのオークの攻撃を回避できたのだと、回避してから気がついた。
明らかに常人が出せる速度を超えている。
自分の足を見ると、赤っぽいオーラのようなものが漏れ出していた。
「なんだ、これ! もしかして、俺の能力か!?」
遅れて脳裏に蘇る、自分のステータス画面。
固有能力の項目にあった、『
「これが……『
渡り廊下を一息の間に駆け抜けた俺は、背後を振り返った。
オークは先ほどの地点から動いておらず、呆然と俺を見据えた後、憤怒に燃えるような怒号を叫ぶ。
「この力があればオークから逃げのびることは簡単そうだ。だけど……!」
逃げてるだけじゃ、終わらねぇ!
何が何だが分からねぇが、俺の力が発揮されてる今の内に、攻勢に転じるべきだ!
『
だったら、確実に能力が発揮されている今こそ、オークに勝機を見出だせるラストチャンス!
俺は渡り廊下を抜けて、連結された反対側の校舎へ移動する。
目的地は職員室の隣。
歴代の我が校の部活動が各種大会などで表彰された際に獲得した、トロフィーや額縁に入れられた賞状などを飾る棚がある。
俺はそこに並べて展示されている一つの異色なモノの前に立った。
「あったあった。前からなんであんのか分からなかったが……今は勝利を切り開く栄光の武器になるかもしれねぇぞ――なあ、ボロ刀!」
トロフィーや賞状が飾られた棚の隣に、一本の日本刀が寝かされるように展示されている。
ボロボロに刃こぼれした、古びた骨董品だ。
一斬りでへし折れてしまいそうなほど脆い刀だが、もし俺の『
この錆びついた