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第3話  『上限突破』


「グゴォォアアアアアアアアアアアアッ!!」


 迫る咆哮。

 強大な音の暴力が階段から廊下を駆け抜け、校舎全体をビリビリと震撼させる。


「なん、だこのモンスターはッ!? ハッ、こういう時こそ……鑑定!!」


 俺が現状保有している唯一のスキル。

 豚の顔面と相撲取りのような巨体を誇るモンスターに、ウインドウが表示される。



 名前:オーク

 レベル:9

 腕力に秀でており、打撃系の武器を好んで使用する。



「オーク!? あれが……!? なるほど、ファンタジーゲームの定番モンスターってことかよ!」


 化け物である豚男の素性はオークであると判明した。

 と同時、一階から俺を見上げていたオークは威圧的な叫びと共に階段を駆け上がってくる。


 不味い!

 俺は反射的に反対方向へ、職員室などがある別校舎の渡り廊下へ踵を返す。


「ヤベェヤベェ! これマジでヤベェ! オークってリアルで出くわしたらあんな怖ぇのか!? つーか、今さらだがこれって夢じゃねぇよな!?」

「グガガァァアアアアアア!!」

「ッ!!」


 追跡してくるおぞましい獣声に、背後を振り返る。

 すると、二メートルほど離れたすぐ傍でオークが武骨な棍棒を振り下ろした。

 俺は咄嗟に左へ急旋回。

 ゴロゴロと広い床を転がると同時、つい二秒前まで俺がいたポイントを棍棒が粉砕した。


 ベキベキベキベキィィッ!!!


 これまで数十年にわたり二つの校舎を繋いできた渡り廊下を、軽々と破壊した。


「おいおい冗談だろ……! こんなの食らったら一撃で即死じゃねぇか!!」


 陥没した廊下の穴から棍棒が引き抜かれる。

 ギロリ、とオークが俺を見下ろした。

 直前で回避したせいか、苛立ちが募っているように見える。

 オークはそのまま、廊下の壁にへたり込む俺へ向けて棍棒を振りかぶった。


 ヤバい、次が来る……ッ!!

 早く立って逃げねぇと!!

 だが、次も避けれんのか!?


 いや、余計なことは考えるな!

 今はただ、全力を超えて動かすんだ――――俺の足をッ!!


上限突破ハイオーダーを発動します』


 ウインドウがポップアップされた気がした。

 が、その文章は全く把握できなかった。

 なぜなら。


 ――――ギュゥウウウウン!!


 音を置き去りにする、なんて表現をたまに目にするが、俺は今それを体現していた。


「グガッ!?」


 振りかぶった棍棒を強打者さながらの迫力でスイングしたオークは、むなしく空振りに終わる。

 困惑するのも無理はない。

 本来なら命中していたであろう一撃。


 しかし、俺は突如進化した驚異的な脚力で脱兎のごとく逃げおおす。


「は、あッ!? な、に……!」


 先ほどのオークの攻撃を回避できたのだと、回避してから気がついた。

 明らかに常人が出せる速度を超えている。

 自分の足を見ると、赤っぽいオーラのようなものが漏れ出していた。


「なんだ、これ! もしかして、俺の能力か!?」


 遅れて脳裏に蘇る、自分のステータス画面。

 固有能力の項目にあった、『上限突破ハイオーダー』という謎の文言。


「これが……『上限突破ハイオーダー』の力ッ!?」


 渡り廊下を一息の間に駆け抜けた俺は、背後を振り返った。

 オークは先ほどの地点から動いておらず、呆然と俺を見据えた後、憤怒に燃えるような怒号を叫ぶ。


「この力があればオークから逃げのびることは簡単そうだ。だけど……!」


 逃げてるだけじゃ、終わらねぇ!

 何が何だが分からねぇが、俺の力が発揮されてる今の内に、攻勢に転じるべきだ!

上限突破ハイオーダー』の発動条件や限界点があるのかは分からない。

 だったら、確実に能力が発揮されている今こそ、オークに勝機を見出だせるラストチャンス!


 俺は渡り廊下を抜けて、連結された反対側の校舎へ移動する。

 目的地は職員室の隣。

 歴代の我が校の部活動が各種大会などで表彰された際に獲得した、トロフィーや額縁に入れられた賞状などを飾る棚がある。

 俺はそこに並べて展示されている一つの異色なモノの前に立った。


「あったあった。前からなんであんのか分からなかったが……今は勝利を切り開く栄光の武器になるかもしれねぇぞ――なあ、ボロ刀!」


 トロフィーや賞状が飾られた棚の隣に、一本の日本刀が寝かされるように展示されている。

 ボロボロに刃こぼれした、古びた骨董品だ。

 一斬りでへし折れてしまいそうなほど脆い刀だが、もし俺の『上限突破ハイオーダー』がとしたら――――


 この錆びついた日本刀なまくらも、モンスターを屠る一刀に進化するのではないだろうか?




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