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第2話  【ファンタジー】たる世界


 突如、花火のように意識が弾けた。


「――っはぁッ!?」


 ガバッ、と上体を起こす。

 突発的な激しい動きに、ガタガタッ! と机と椅子が床を踊った。

 心臓がドクドクと早鐘を打っている。


「ここは――――教室?」


 努めて冷静に周囲を確認する。

 が、あるのはいつもの見慣れた風景。

 窓際の最後列から見渡せる、伽藍堂の教室が広がっていた。


「俺は、机で寝てたのか……」


 足腰を確かめるように、ゆっくりと立ち上がる。

 恐る恐る教室の中を歩くと、黒板に目がいった。


「黒板の数式……さっきの、数学の授業……?」


 公立高校特有の年季を感じる大きな黒板。

 そこにはびっしりと数式や図形、二次関数の放物線などが描かれている。

 内容は三角関数。

 ちょうど俺たちが学んでいる範囲だ。


「これは眠りこけてる俺を置いて全員帰宅済み……ってわけじゃねぇみたいだな。空もまだ青いし、何より時間がさっきと同じだ」


 時計はようやく十五時を過ぎた頃合い。

 本来なら絶賛授業中の時間帯だ。


「なら、これはいわゆる異世界転移というより、パラレルワールドへのワープ、っていう方が近いか?」


 混乱しながらも、どこか妙に落ち着いている。

 いや、今も様々な感情がごちゃごちゃになってるのを頑張って無視してるような状態だが、心理的には高揚感の方が大きい。


「意識を失う前、俺の目の前に現れたウインドウ。あんましっかりと読んでなかったが、【ファンタジー】とかβプレイヤーとかどうのこうのって書いてたような……。もしかして、ここはゲームの世界なのか?」


 ゲームの世界なんだったら、もしや例のアレがあったりするんじゃ?

 俺は咳払いをして、バッと手を前に声高に宣言する。


「ステータスオープン!」


 その瞬間、俺の目の前に半透明のウインドウが現れた。



 名前:神崎遊一かんざきゆういち

 レベル:1

 魔力:47

 固有能力:『上限突破ハイオーダー

 保有スキル:鑑定Lv.1

 称号:アーリープレイヤー



「おお、すげぇっ!! マジでステータス出た!!」


 これぞ噂のステータス画面!

 深夜アニメでは散々見てきたものだが、実際に目の前で拝めるとは感無量だ。


 俺は自分のステータス画面をじっくりと隅々まで眺める。


「ふむふむ、これが俺のステータスか。なんか思ってたより簡素な情報しか載ってないが、リアルだとこんなもんなのかね。まあ、こんなステータス画面が出てくることがリアルとか矛盾も甚だしい表現なんだが」


 各項目の内容はおおむね理解した。

 称号の『アーリープレイヤー』っていうのは、俺がβプレイヤーであることと関係しているのだろうか。

 一部判然としない情報もあるが、最もよく分からないのはこの固有能力である。


「固有能力:『上限突破ハイオーダー』……なんだこれは? 説明とかないのかな」


 もしかしたらウインドウをタッチしたら詳細情報が出てくるかと思ったが、何も反応がない。

 どうやらステータス画面から得られる情報はこれで全てのようだ。


「おいおい何だよ、プレイヤーに親切じゃない設計だなぁ。……まぁ、分からんもんは仕方ない。色々と試しながら探っていこう」


 ステータス画面から意識を外すと、自動的にウインドウが消失した。

 教室内が静寂に包まれる。


「このまま教室に留まってても進展はなさそうだし、外を探索してみるか。あくまでも慎重にな」


 俺は音を立てないようゆっくりと教室の扉を開き、廊下に出る。

 左を見て、右を見るが、どちらも数十メートルの無人の廊下が続いていた。

 まだ昼間なのにも関わらずこれほど人気ひとけがない学校は不気味だな。


 俺は警戒は怠らず、あてもなく廊下を歩いていく。


「つーか、俺はこの世界で何をすりゃいいんだ? 目的とか使命とか何にも伝えられてねぇんだけど。世界を救う勇者とか、そういうカッチョイイ主人公ポジじゃない感じ?」


 ぶつぶつと不安を愚痴として消費しながら、廊下を歩く。

 他の教室の横を通る度に中からゾンビみたいなクリーチャーが襲いかかってきたりしないかと身構えるが、そんなことはなく。

 何の異常も起こらないまま、俺は廊下の中央まで来てしまった。

 十字路の真ん中で、一人佇む。


「左に行けば職員室なんかがある別校舎。真っ直ぐ進んでも行き止まりだから意味なし。右に行けば一階と三階に続く階段が二つ。まずはどこに行くべきか……」


 少し悩んでから、俺は目的地を決定する。


「よし、まずはこの校舎を出るか。地上に降りて、学校を出て、早いとこ街の様子も知っておいた方が良いだろう」


 俺は右に九十度方向転換し、一階へと続く階段へと向かう。

 下へと続く一段目に足を落とそうとした瞬間……一階の廊下からありえない巨体が現れる。

 筋肉質な焦げ茶色の肌を大胆に露出させながら、唇から牙が飛び出したが俺を捉えた。


「あー……はははぁ、ハ、ハロー……?」


 明らかに人間ではない生命体に、俺はひきつった笑顔で挨拶する。

 一拍の

 俺の友好的なファーストコンタクトに、豚の男は手にしていた棍棒を振り回し、ヨダレを撒き散らしながら大口を開けた。


「グゴォォアアアアアアアアアアアアッ!!」


 ビリビリと辺りを震撼する絶叫。


 クッソ!

 やっぱこの世界にはいんのかよ――モンスターがッッッ!!!




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