「ちょっと!ベルちゃん怖いことしないでって言ったじゃない!相手は女の子で怪我もしてるのよ!?」
「じゃあ聞くがお前は家族や友人が女に殺されたら許すのか?か弱いし女だから仕方がないので許します。刑罰は望みませんと」
「なんでそうなるのよ、それとこれとは話が全く違うでしょ?」
「違くはない。僕はそうなるのが嫌だから最初に刑罰に値するかどうか尋問するんだ。」
「アンタがやるのは尋問じゃなくて拷問でしょ」
「あ、あのっ!わたしならいくらでも尋問でも拷問でも受けるので、これだけは言わせて貰ってもよろしいでしょうか!?」
両者睨み合いで一歩も引かないこの空気を破ったのは意外にも今回の議題であるアトラスと名乗った女だった。彼女はベルベットに睨まれても恐ろしがることはなく、いや実際は怖がっていたやもしれないが表情に出すことなく真摯に彼の瞳を見つめて頭を下げた。
「た、助けていただいて…ご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした!」
ベルベットはしばらく何も言わずに彼女を見下ろしていたがカオル子に背中を小突かれて渋々といったように口を開いた…
「『助けていただいて申し訳ありませんでした』というのは言葉的におかしくないかい?『助けていただいてありがとうございました。そしてご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした』だろう?それに過去形ででしたと言っているがこれからも迷惑をかけるんだから『申し訳ありません』だろうに。勇義隊はそんなことも知らんのか」
「ちょっとベルちゃん!せっかくお礼と謝罪してくれてるのにここでも揚げ足を取る必要はないんじゃないのかしらぁっ?」
「別に今回この女から会話を要求されているのは僕だ。お前に関係ないからいいじゃないか。」
「アタシが連れていこうって言ったんです〜だ」
「でも部屋を提供したのは僕だ」
「運んだのはアタシですぅ」
「甲冑を外したのは僕」
「外したけど叩かれてたじゃない」
「君も打たれていたじゃないか。」
「あ、…その節は本当に申し訳ありませんでした…」
「あれは痛かった。不意打ちで来たからな」
「いいのよ〜目が覚めて自分裸で隣にこーんな怖い男がいたら驚いて引っ叩いちゃうのもわかるわよ」
「命の恩人にすべき態度ではありませんでした…アトラス切腹させて頂きます!」
「切腹!!?」
「やめてくれ君の血液で汚れたベッドと君の死体は誰が片付けるんだ。」
「そっち方面のツッコミなのねベルちゃんは。」
「別に切腹したいならすればいいと思っているからね」
「最低…」
カオル子の会話の合いの手というか返しというか。下手くそすぎて一向に本題に入れぬまま少しずつ進路を逸らされている気配がすることをベルベットとアトラスはわかっていた。だが厄災の本人はそんなことなどつゆ知らずアトラスとベルベットの会話に同席して口を挟む気満々なようで『足が痛いから座る』なんて椅子に座り始める始末だ。
「おいお前何座っているんだ。お前がいると会話が進まんから出ていけ」
「いやよ出ていかないわ。アンタ酷いことするんでしょ」
「しない。」
「する」
「しない。」
「いや絶対にするわ。」
「しない。それにお前は魔法石を探さなくていいのか?与えたヒントが頭から抜け出ない内に」
「ヒント?そんなのあったかしら」
「もう既に抜けているじゃないか阿呆」
「アホって何よ!」
「阿呆は君だ。そしてこの女もお前がいない方が話が進むと思っている。僕と同意見。絶対にだ」
「そ、そんな酷いこと言うわけないじゃないアトラスちゃんが!」
「現にもう3回ほど会話の道標をへし折られている」
「え、嘘」
「本当。」
「嘘よねアトラスちゃん、ベルちゃんの思いすぎよね」
「えっと…言いにくいんですが…だいぶお話が逸れるお方だなぁとは」
「なんてこったい…」
なんと。アトラスにもそう思われているとなると本当に話を逸らすプロらしい。
今までちょっと話がそれちゃうなくらいの認識だったがめちゃくちゃ話がそれているという認識に切り替えた方が良さそうだ。
このままカオル子がここにいて話を脱線させまくり自身も経験した圧迫面接の時間を長引かせるのも彼女がかわいそうなのでメソメソ泣きまねをこの部屋から退室することにした。勿論捨て台詞と忠告の意味も込めて『圧迫面接だめ絶対』と一言は残した。
カオル子が退出した部屋は一気に日が陰ったようになりお互い腹の中を探り合うような視線がかち合っている。先に口を開いたのはベルベットだった。
「あのお節介にそう言われてしまってはお前にいま直接手を下したり危害を加えることはないから肩の力を抜いてくれ。嗚呼危害は加えないというのは君が何もしなかったらの話で少しでもこちらが危険因子だと判断した場合は即刻手を下す。いいな?」
「はい。承知の上です。」
「ふん。いい心がけだ。さてと…もう一度聞くが君、名前は?」
「アトラス·レデュルクです。」
「ふむ。年齢は?」
「今年23になります」
「生まれは?」
「生まれも育ちもウェスティアです。あ、トリプトで生まれました」
こんな修羅場に慣れているのだろうか。凍てついた瞳で見下ろされた圧迫面接も彼女は動揺一つしない。カオル子の時とは大違いでベルベットが思わず鼻で笑ってしまえば自身の事を笑われたのか、失礼があったのかとアトラスは身を固くした。
「次から本題のようなものに入るが何故あのオネエと知り合いだ?」
「えっと…話せば長くなるんですが」
「簡潔に話せ。」
「う、えっと私がたまたま入った酒場でカオル子さんがお酒を飲んでいたのがきっかけです。魔法石の話をしていたのが聞こえて入店して彼の名前を知りました。」
「たまたま?君それ嘘は言っていないんだろうな。」
アトラスの瞳が激しく揺れ動いた。どうやら動揺しているらしくたまたま入った訳ではないと自白しているようなもの。こんなに表情に出て大丈夫なのだろうかと心配になる。
「嘘では、嘘ではないんです。元々私達勇義隊はカオル子さんがいらっしゃったマディルドに滞在していました。魔術取り締まりと見回りのために。そこで偶然住人から今さっきまで此処で寝ていた魔法使いが居たと情報をもらったんです。その住人にその魔法使いの特徴を尋ねましたがどうやら魔法を使っていたらしいんですが魔法石が見当たらないと。そこでカオル子さんが向かった方面に散策してみたんですがそれらしい人物は見つからず、喉も乾いて入った酒場で対象らしき人物を見つけたのが出会ったきっかけです。」
「その言葉に嘘偽りは無いか?」
「ええ。私と契約する天使に誓って。」
長い説明を一通り聞けばどうやら嘘は無いようだ。天使に誓って胸に手を当てる彼女に端正な顔は苦虫を噛み潰したように歪む。『天使と言う言葉、私は嫌いなんだ』と吐き捨てながら。それでも今度はアトラスがベルベットから目を離すことは無かった。
「まぁあいつと知り合いな理由とあの村に居た理由は大方聞けたから良しとしよう。あまり圧迫するとあいつが怒るんだ。君、魔法を使えるようだが本当かい?」
「何故知っているんですか?私と貴方は初対面のはずなのに…」
「あいつから聞いた。変な呪文と共に靴が燃えたってね」
「あ…」
「それだけだったら魔術師かとも思ったが君が腰につけていたあの剣の持ち手にやや小ぶり気味の魔法石がついていてね。それで君を魔法使い認定したわけだがこれにたいして異論は?」
「ありません。私は弱いですが魔法が使えますし確かに剣につけているあのオレンジの石は魔法石です。」
「君の給料でか?」
「はい。ですがあまり魔法を使うことが無かったので買い足したことは一度しかありません。」
「ふぅん。何故恵まれて手に入れた魔法があるのに剣を取る?これはさほど重要な質問では無いんだが」
「それは…私の魔法がお世辞にも強いとは言えないからです。小さな魔法を放つにもだいぶ集中して気を貯めないと出せませんし、威力が弱いんです。頑張ったのにこんな物しか身に付かなくて情けないです。」
「それは違うな。どんな術や魔法を身につける為には天使や悪魔に認められるための尋常じゃない努力をする必要がある。天使と交渉できる土台に立っただけ君はあのふんぞり返った勇義隊の隊長よりも遥かに誇れると思うけどな」
「っ!……」
ベルベットの淡々としたもの言いにアトラスは肩を震わせて顔を伏せてしまう。何か今泣かせたり震えさせ恐怖を与えることを言っただろうかと腰に手を当てたまま彼は首をかしげた。
「カオル子さんもそうでしたがお二人は優しいんですね。私の事を擁護して認めてくださる方なんて魔法を身に付けてから貴方達しか居ませんでしたよ…」
「何故?君の両親は。死んでいるのか?」
配慮も何もない。普通肉親が死んだとは聞かない。いや聞くとしてももっとオブラートに包むはずだ。だが気になったことはズバズバ聞いてしまうベルベットにそんな常識は存在しなかった。そんな無礼な質問にアトラスは気まずそうな顔を上げて答えた。
「両親には勇義隊に入ると言った時に絶縁されました。両親はもっと私が身に付けた魔法を活用して良い仕事や役職について欲しかったそうで、野蛮にも武器を振るい肉弾戦を主とする勇義隊に入ることは断固反対でした。まぁ今頭を冷やして考えれば娘が傷付いたりする仕事について欲しく無かったんでしょうね。女らしく身分の高い男と結婚して幸せな家庭を築くか、国の中枢を担う役職について身分の高い男と結婚して…」
「結婚して相手に養って貰うような言い分だなそれは。役職や職業についても結局たどり着く先は結婚じゃないか?」
「両親は私が金持ちと結婚すれば自分達も恩恵に預かって豪華な暮らしができると思っていましたからね。勇義隊入隊が決まった報告をしに行ったら『おまえみたいな貧弱な魔法じゃ魔法使いとは呼ばない』って手のひら返してきたんですけどね。」
「随分自己中な奴らだな。まぁそんなやつから離れたのは懸命だったじゃないか。」
「確かにそうですね。でも勇義隊に入ってからもあの扱いを見ればわかるように私はあまり良い扱いを受けなかった。女と言う事が大きいみたいで。皮肉にも縁を切られて一年以内に両親の言った通りだったと思ってしまいましたね。」
自身を嘲笑するかのようにほの暗く鼻で笑うもベルベットは否定も肯定もしない。ただじっと見つめて話を聞くだけ。
「その扱いが積もり積もって勇義隊に背いたと。」
「はい。それだけではないですがそれも大きいと思います。」
「他にどんな理由が?」
「そうですね…傲慢な態度と残虐な行動に私が目指した天下の誇るべき勇義隊の像が打ち砕かれたからですかね。両親に縁を切られてまで入ったのにいざ蓋を開けてみれば表向きとは全く違う顔。こんなことしているから各国トップの魔術撲滅の記録を持っているんですよ。」
「その言い方だと冤罪ばかりなようだが」
「はい。疑わしいだけで対した調査もせず決めつけで処罰するんです。隊長が魔術師だと決定したらどうやってもそれが裏返ることはありません。最初は私も疑わしい事が罪。罪の芽が成長する前に刈り取ることは治安を守ることだと自分を納得させていましたがもう限界でした。罪の無い人たちが酷い方法で殺されていく。そのうち無実を訴えて泣き叫ぶ人達の声や顔が蓄積して頭から離れてくれなくなっていったんです。」
「それで?」
「それでこんなことしか出来ないし必要もされていないならこんな隊抜けてやると殺される覚悟をもって勇義隊に背きました。」
「それで君がカオル子を庇った理由か?アイツを庇ったのは自分の罪悪感を少しでも薄めるためか?」
「違います!…でも今の話だとそう思われても仕方ありませんね。会話を交わしたのはもう随分前の一度きりだというのにそれでも彼の言葉と笑顔が頭から離れなかった。」
「一目惚れか?惚気はよそでやってくれ」
「恋愛感情は皆無ですよ。ただ何も知らないのに私に笑ってくれたことが嬉しかった。嘘でも何かあったら助けてくれると言ってくれたのが嬉しかった。でもそんな彼を私は隊長に売ったんです。彼が死んだと聞いた時は自分のせいでと本当に悔やみましたよ。私は自分を気にかけてくれた人さえ自分可愛さに殺してしまったと。でも奇跡的に彼は再び私の前に現れた。彼を助けたのは感謝を伝えたかったのと謝罪をしたかったからです。庇っただけで言葉を交わせるかは分かりませんでしたが少なくともまた目の前で見殺しにすることはないですから」
「ふぅん。そうか。」
それっきり二人の間に沈黙が流れる。世間話をするような状況ではないしお互い今日が初対面。カオル子が話を逸らすプロならばベルベットは会話を氷河期にするプロといったところか。
「君勇義隊から抜けてそのあとどうするんだ。」
「え?」
「何か行く当てがあって勇義隊から抜けたんだろう?アイツらは執念深いからな。自身らの尊厳を踏み躙った相手は地獄の果てまで追いかけてくるぞ。そんな奴らから匿って貰える行く当てがあるなんて驚きだね」
「あ…考えてなかったです」
「考えていないのに衝動で動いたのか。呆れる。」
「申し訳ないです、すぐにでももう出て行きます。私がここにいたら貴方たちも危ない。」
「何を言っているんだ。私たち全員終われ人さ。それに怪我人を満足するまで飼い慣らしてじゃあもういいですと追い出すような人間に見えるのかい?一旦保護した人間が散歩途中に死体で見つかったらたまったもんじゃあない。」
「それは…」
「君は安息のために命をかける覚悟はあるかい?」
「命?安息…?」
「嗚呼。君の怪我が回復するまで君に衣食住を与えよう。ただこちらもあのオネエのように考えなしの阿呆ではないのでね。君をここに一旦置いてもいいんだが代わりに君からも危険因子を取り除きたい。住まわせている間に心変わって内通されても困るからね。阿呆じゃないならわかるよな」
「はい。それはごもっともです。私は何をしたら。」
「君と僕とで契約を結ぼう。天使と契約したものと長時間約束を結ぶのも嫌だからい一時的なものだが。君はここに一旦住まわせてもらう。その代わり何か私たちに危険を及ぼしたり敵意を発散させる可能性が見えたら君の命はそこで尽きる。わかったか?」
「危険を及ぼす行為とは具体的に何でしょうか」
「そうだなぁ。寝込みを襲うだとか私と双子とあのオネエに危害を加えたりだとか」
「わかりました。置いてもらう身、一度はあそこで死ぬ運命だったこの身。貴方様の契約を喜んで受けましょう。」
「よし。そうこなくっちゃな。指を切れ。浅くでいい」
契約を結ぶことが決定した。ベルベットは懐から白銀の薄いナイフを取り出すとアトラスに手渡す。契約を結ぶには双方の血液が多少なりとも必要らしく指先を軽く傷つけて滲み出る血液を求めた。彼女は大人しく彼のいうことに従い女性らしい、ただ何度も剣を握ってできた豆のある細い指に強くナイフを押し当てた。ぷつりと薄い皮が切り裂かれると共にチリとした鋭い痛みが走ればぷっくりと丸い宝石のような血液が滲んだ。
「それを私の此処へ。」
契約をするために先刻までつけていた両手の黒いグローブを外して素肌を露出させる。やはり彼の白い肌と両手の甲の刺青は白と黒と大きく対比を見せ、白をより白く、黒をより黒く魅せているようだ。アトラスはそんな彼の手の刺青に息を呑み、指示されるがままに血の滲んだ人差し指を彼の左手の甲の上になすりつけた。それを見届ければベルベットは右の親指の腹を鋭い歯で噛み切れば溢れ出す自身の血液を彼女の血液の上から塗りたくった。
「血液とこの十字架の紋様により甲と乙の契約を証明するものとする。甲、アトラス・レデュルクはこの契約によって保護され乙、ベルベット・ハートはこの契約により甲の契約違反を確認次第その命を屠ることとする。この血液に誓えるか?アトラス・レデュルク。」
「はい。私アトラスはこの血液とベルベット卿の十字架、血液に誓って契約を死守することを誓います。」
「契約成立だ。」
その言葉と共に赤い光がベルベットの刺青の模様を包み目に刺さるような光が生み出された。その光はやがてひとつの塊になるとベルベットの小指とアトラスの小指に絡み付き、太いリング状の模様となってお互いの小指に刻まれた。
「すごい…これどうやって…」
「君たちが毛嫌いしていた魔術でだよ。今日の所の話はもう終わりだ。指の今の傷が痛むようならまた呼べ。手当をさせよう。怪我人は寝ていたまえ」
やることは全て終わったとグローブをはめ直して部屋から出ていく。自身に向いた背中に言葉は漏らさなかったがアトラスは深く頭を下げた。
ところ変わって部屋から追い出されたカオル子はリビングのソファーでお昼寝に入ってしまった双子の隣に深く腰掛けながら考え事をしていた。
勿論会話をずらすプロだと言われたことに関してだ。
生まれてこの方30と数年、自分のこの口の回り方に助けてもらったことはあったが裏目に出る日は無かった。大事な話し合いの場にそれが原因で招かれないとなれば一大事である。ベルベットがアトラスに酷いことをしていなければいいんだがと同席できないことを深く悔やんだ。アトラスにも同意を求めて追い出すなんてなんて人の心の抉り方を知っている人間なんだろうか。一泡吹かせてやりたい。そうだ。彼が降りてくる前に魔法石の場所を見つけてギャフンと言わせてやろうと決意した彼女は双子のふくふくな頬を撫でながら考え事に移った。
『ヒントを与えたって言ってたわよね…ヒントって何かしら。隠し場所のヒント?アタシあの汚い物置が早着替えすることと傷の手当てとビンタしかされてないわよね……。でもヒントって言われるのこれが初めてじゃあない気がする。何処でだったかしら。ほっぺふくふくですべすべね……。じゃなくてヒントヒントヒント………うぅん………』
なかなかピンと来るものが無い。寂しさ紛れに頬を撫でることばかりに集中してしまい頭の中がヒントを探すことよりも双子の頬をこのまま捕食する方に移動してしまっている。真面目に考えないとあっという間にアトラスをボコボコにしたベルベットが降りてきてしまう。急いで双子から手を離して自身の頬を強めに挟んだ。まあカオル子が予想しているベルベットの行動は純粋に思い込みなのだが。
今までの行動を遡ってみる。包帯を巻いている間は顔の布の話。ビンタされた時はビンタだけ。アトラスを抱いていた時は………。おそらくヒント中のヒントが隠されているのは部屋をぶち作った時だと推理できた。
『埃っぽい場所を探せば出てくるのかしら。でもあのベルちゃんが埃っぽいところにゴミ以外を置くなんて思えないわ。じゃあ魔法か魔術をどこかにかけたら出てくるのかしら。いやいやそれもアタシがどちらも使えないことをわかっているから違うかぁ。それじゃあ本のなかかしらね。なぁんてありえないけど…………待って?ありえなくはないんじゃないのかしら。』
下げていた頭をばっと上げて眉間を抑える。もう少しで求めている物が目の前に来る気がする。どうして本の中ではないと言い切れる?ベルベットが家具やらゴミやらを本に収納するのを見た。そのページは見てはいないが本がゴミを処分するということはあり得ない。だって本は知識や文字や心情を留めておく言ってしまえば貯金箱のような、金庫のような物だからだ。ということは恐らく……。
「この館の本の中ってこと?」
しかも文字が書いてあるものではなく新たに情報を覚えさせることができる白紙のページがある本。リビングに置いてあった本を片っ端から捲ってみたが白いページはない。自分の部屋に置きっぱなしになっていた本も何度も読んでわかっているが白紙はない。この本以外に本は無いのか?でも読み終わったら書庫から新しいものを持ってきてやると彼は言っていた。つまり本を保存している部屋がこの館にはある。
1階も2階も騒音で追い出されるほど舐め回すように見た。ただこの館にはさらに上に部屋がある。外に出た時の外見から3階があることは確実だった。恐らくまだ書庫の存在は目に焼き付けていないため書庫があるのは恐らく3階。
考えが、疑問と確信が、点と点がつながってちょっとおっきな点になったところで階段を歩く布ずれの音がした。ここ3週間で嫌というほど聞いたベルベットのスリッパの音。彼が尋問を終える前に魔法石の場所は特定できたから勝ちだろう。何と戦っているのかという話だが……。
「ベルちゃん、ここの館の3階には。ここの館の書庫には、どうやったら行けるの?」
確信を得たマリンブルー色の瞳がベルベットの姿をありありと捉えていた。
カオル子の残金あと98万4400ペカ
第12話 (終)