「かんぱぁい!」
東京だか埼玉だか神奈川だか。どこの都市かという断定はできないがとりあえず豪華で賑やかな都会の地下。とある店の重い鉄のドアをおし開ければ男が精一杯真似した女のような声で景気付けをする声が耳に入るだろう。その店の中のアルコールカウンターにいるその声の主がこの物語の主人公。彼、と言ったらとても憤慨する人間なため、ここでは彼女と呼んでおく。彼女はみるからにゴツゴツとして重そうな瓶を後ろの棚から取り出すと、その常温の瓶の中に幽閉された琥珀色の液体恐らくト○ス・ハイボールを冷凍庫から取り出した凍ったグラスに並々と注ぐ。勿論丸く作った専用の氷も忘れずに。それを目の前で肘を突きながら空っぽになったグラスから溶けかけの氷の滴を飲み啜る客へと出してやった。
そして自分勝手に…いやちゃぁんとお客さまに勧められて、キャストドリンクで同じものを用意した。この店では何も言われなければロックで出すのが王道らしく、薄められることを知らないハイボールが球体の氷と戯れている。
だがここが彼女のちゃっかりしているところ。お客には配分通りのショットグラスだが自身のグラスは生ビールを提供するようなジョッキ。そこに注がれるアルコールはお客の分よりも遥かに多かった。
まあキャストドリンクとして入れてもらえるから自分のお財布には響かないとほくそ笑みながらからりと氷の音を鳴らした。
「カオル子ちゃん結構な量飲むんだねぇ」
「カオル子ちゃんが呑むってわかってたけど改めてちゃんと注目してみるととんでもない量飲んでるよね」
「ヤァだ見られてたの?アタシのこと好きなの?やめてよねセクハラよ」
「手厳しいなぁ、カオル子ちゃんはみんなのアイドルだから独り占めはさせてもらえないかぁ」
「やっぱりオネエが酒豪って都市伝説じゃなかったんだな」
「なぁに?今アタシのことオネエって言った?」
オネエと言う言葉に執拗に噛み付いてカウンターから身を乗り出すこの人間の姿をオネエと言わずしてなんと言おうか。どっからどう見ても筋金入りの美丈夫オネエである。ただ自身のことを完璧でべりーキュートな乙女ちゃんだと自負しており上記で述べた通り『オネエと呼ばれる』と言う地雷を踏めばたちまち辺り一体は焦土と化してしまう。
『1瓶開けるから許して』という謝罪が特に同じカウンターで今こうして飲んでいたのとは全く違うガヤから出ればそれならば仕方ないと満更でも無いような満面の笑みで満足そうに並々とハイボールの入ったジョッキを、マッドな赤リップが艶めかしく似合うぽてりとした唇に当てて一気に飲み干した。
そんな勇姿に彼方此方から感嘆の声と拍手の音が聞こえればこのフロア一帯はたちまち彼女の領域と化す。
そんなフロアのカウンターで讃頌と熱っぽい視線を独り占めにする彼……。いや間違えた。彼女の名前は
ミルク強めのミルクティー色をした長いストレートヘアーはこの業界の女が揃って愛用する夜会巻きで項に堰き止め、罪な程に瞳にしっぱりと影を落とす程の長いまつげにはマスカラとほんの少しのラメを飾って、瞳は青春の色と言われればはんたいする人間なんて1人も出ないのではないかと思うほどに美しいマリンブルーをしていた。
それでいて話し上手で聞き上手で、普段の簡素で灰色で周りと同じことが求められる社会からは逸脱したキャラクターであれば人気が出ない訳がない。そしてそんな社会に疲れ切った人間たちが寄ってこない訳がなかった。毎日社会に疲れた人々の愚痴を聞き時には共に口の悪い口を言い合いながら酒を飲むこの仕事を彼女は心から楽しんでいてまさに天職だと疑うこともなく何年も人を癒す最高の天使、アルコールのナイチンゲールとして夜の町のこの舞台に立ち続けていた。
「カオル子ちゃんって毎日鬼のようにお酒飲むけど限界ってどこなの?」
「知らないわよ試したこともないし限界を知るだけで楽しんで飲めないお酒を外のお店で試すような無駄金ありゃしないわ」
「じゃあさじゃあさ、キャストドリンクとして俺たちがご馳走するから何処まで呑めるか試してみない?」
「でも次の日に響いたら嫌だしぃ」
「今日なら大丈夫だってば忘れちゃったの?明日はオーナーの娘さんのお誕生日だから夜むちゅめたんダイシュキぱっぱが「ご飯食べに行く」ってお店お休みにしたんじゃん」
「あらあらあららら、やだすっっかり忘れてたわ!アタシったらこの間一緒にオーナーの愛むちゅめたんとお誕生日プレゼント選びに行ったばっかりなのに」
「え、カオル子ちゃん俺のむちゅめたんとおデートしたの!!????」
「おデートじゃないわよ女子会よ」
「いやだ!パパ信じない゛ぞ!お前がどんなにいいオネエでもむちゅめたんだけは絶対にやらん!」
「だから女子会だって。それにアタシはオネエじゃないわよ!正真正銘のお・と・め!アンタ何年アタシと一緒に働いてるの?お互いのチンコの形も知ってるのにアタシが乙女だってことは忘れちゃったの?アタシたちの友情ってそんなものだったの?ヤァんカオル子ショックぅ…」
「あー。オーナーがカオル子ちゃん泣かせた〜!!」
「かわいそうだねカオル子ちゃん、キャストドリンク入れるから泣かないでぇ」
「ありがとぉ…オーナーが浮気したぁ」
「おい待て浮気じゃねえし。まなむちゅめたんには純愛だし」
「え〜、カオル子ちゃん俺ともちんちん見せ合おうよ〜」
「いやよ粗ちんなんか興味ないわ」
下品な会話にあっと言う間に花が咲きお酒も限界まで飲むもんで話もあれよあれよと限界アルコールチャレンジから流されていってしまい、完全に今は息子の話ばかりだ。やれマスターのは大きさはいいが見た目が不細工だのやれあの客は短いだのそんなことばかり。今日が金曜日なことも相まって常連客がほぼ全員集合したこの状態でキャストドリンクの大嵐も下ネタも止まるわけがなく。普段大声じゃまともに言えない小学生男子Level40程のお下ネタを良いつまみに運ばれてきた奢られ酒全てを水のようにごくごく飲み干すカオル子の周りにはあっという間に彼女のリップがキスマークを残す大量の空きグラスが塔と壁を作った。
今日の彼女は幾分か飲みすぎているような気もする。彼女の頬は大量のアルコールのせいでいつもよりも明らかに上気し、熱い熱いと服を脱ぎ出す始末。彼女はこの汚い空間の紅一点、アイドル(勿論グラビア)的存在なのでそれにも外野は
「色っぽい!」
「カオル子ちゃんのマジカルストリップショー!」
「親に隠れて見た初めてのビデオレベルの興奮!」
「高いとこからみるここらの夜景の百万倍!」
「姐さん愛してるよー!」
などなどボディービル大会顔負けのコールで反応する。
確かに今日はいつもより飲んでいることが自分でも身に染みてわかっている。楽しくなってついつい飲み過ぎることは今までも何度かあった。そしてそれにしっかり気がついて自分で歯止めをかけることもできていた。だから今回もそろそろ水でも飲んで辞めておこうとお冷をとりに足を動かした時だった。
ぐわん。
大きく視界が歪み重心を置いていたハイヒールの根元から地面にべっきり折れて倒れ込むようなそんな感覚と共に床に落ちた。
異常な量の汗が体中から吹き出し呼吸もままならない。強い吐き気も襲ってきた。もうボロボロ。心配する客の声に返事をしようと口を動かすも呂律の回っていない母音と涎のカクテルがだらりと唇から垂れるばかりだ。誰かが『オーナー!救急車!救急車呼んで!』と大声を出す声が聞こえる。
あらヤダ。アタシもしかしてアルコール中毒ってやつかしら。もうこの年になってそれでぶっ倒れるとか勘弁してよ……。あ、付け爪取れてる。
いつも仕事をするときにつけるお気に入りの黒い付け爪がないことに気がついたが最後、逃れられない眠気に襲われてがっくりと意識を手放した。
なんだか温かいものに包まれている感覚がする。行った事はないけれど五つ星の高級ホテルのベッドってこんな感じなのかしら。包まれているはずなのに自分の服の感覚しかないわ。それに眩しいくらいのいい光。うとうとするのに丁度いい…………
「わけないでしょ!電気消しなさいよアホンダラ!!!」
自分の大声で意識が覚醒させられガバッと起き上がる。折角いい気分で眠っていたのにと周りを見渡せば五つ星の高級ホテルのベッドの上でも無く、自分の家のベッドの上でもなく、バーの仮眠室のベッドの上でもなかっく。ただ一面真っ白な空間が広がっていた。
「なんじゃこりゃ……ドッキリか何かかしら??カオル子ちゃんを真っ白な空間に置き去りにしてみたドッキリ〜…ナンチャッテ。」
どう見渡しても人もカメラもドッキリの大きな立て看板も見えない辺りドッキリではないことは自分でもわかっていた。わかってはいたがドッキリではないのならどうやってこの自分が置かれた意味不明な空間を説明できようか。真っ白などこが壁かも最果てかもわからない異空間に上半身裸のオネエが1人。安いホラー映画よりもホラーかもしれない。
そんな自分の状況を飲み込んで消化することもできず、座ったまま目をキョロキョロさせるしかないカオル子の肩に突然誰かがぽんぽんと触れるのを感じ取ると電気が突然流れたおもちゃのように大絶叫をぶちかました。
「ぎゃぁあああああ!!!?????ナニ!???なになにナニ!!」
「そのように驚かないでくださいまし、薫様」
反射的に振り向いたその先には5.6歳ほどの、おそらく人間の子供がいた。
そんな尊い姿をした子供に驚かないでと落ち着いて透き通った声で言われても落ち着けるわけがない。むしろ逆効果。無理なものは無理だ。今すぐ肩を引っ掴んで揺すぶってしまいたいがその子供の見た目から自分が触れていいものとも思えず顔をグッと近づけるだけで我慢するしかない。
「そんなこと言うんだったらびっくりさせないで欲しかったわ!心臓飛び出るかと思ったじゃない!っていうか出たわよ!のどちんこまで出たわよ!」
「?薫様の心臓の位置は全く変わっておられませんでしたが?」
「モノの例えよ。ジョークよ。伝わらない子ねあなた。」
「申し訳ありません。ジョーク等がわからないモノでして。今後は理解できるように努めさせていただきますね。」
「わかったわ。じゃあアタシがあなたのジョークセンスを磨いてあげるわ!
……じゃないのよカオル子、しっかりしなさいカオル子。目を背けたいのはわかるけどしっかり現実を見なさいカオル子………。聞かないといけないことはいっぱいあるでしょ?そもそもあなたに教えられるジョークって何?こんな可愛らしい子に下ジョークは教えられないわよ。
ねえアナタ?ここって何処でアナタって誰なのかしら。アタシおうちに帰りたいんだけど」
「ここは薫様に贈り物をする儀式の空間でございます。そして私は薫様に贈り物をするように命じられてここに来た唯の召使いだと思ってくださいませ。」
「贈り物?儀式?召使い????よくわからないけどアタシがあなたからとりあえず贈り物を貰わないとここからは絶対に出られないって認識で合ってるかしら。」
「はい。あっております」
「アタシここから出たらどうなるの?これは夢なの?なんなの?」
「ここは正確には夢ではありませんがその認識で大方あっております。薫様にはここから出て頂いた後私を派遣した主が見守る世界に降りて頂きたいと思っております」
「え???待ってわかんないわかんない。主が見守る世界?あなたの派遣元は神様か何かなの?アタシが今まで生活してきた世界と同じところに返してもらえるってこと?どう言うことなの???」
意思疎通はできるが子供の言っていることが理解できない。同じ言語で、普段耳にする単語で話しかけられているのは明白なのに。理解できた言葉はほとんどないくせに質問ばかりが浮かんだそばから足速に口から飛び出していく。
「私の主は神ではありません。私と薫様と似たようなものでございます。」
「どういうこと?ますます意味がわからないんだけども」
「大丈夫ですよ。今回ここはあまり大切な場所ではないので割愛します」
いいの?カオル子。きっと今とっても大切そうなところが割愛されちゃったけど。
ただ彼女は自分自身が馬鹿であることを知っていた。そして馬鹿すぎるが故にこうして情報の波に打ちつけられて質問すら満足に伝えられないことも知っていた。
あまりの情報の多さにポカーンとし続けている間もおそらく子供は熱心に説明を続けてくれているのであろう。これから彼女が降り立つであろう場所の話、なぜ彼女がここにいるかという話、降り立った場所でなにをすれば良いかという話。
しかし上記にある通り彼女の頭では理解できない言葉だった。
水泳の後の国語の授業を聞く子供のように、先生が喋っているのはわかるけどなんて言ってるかわからない状態だった。
ただそんな彼女の耳にもこの最後の言葉だけはしっかりと聞こえた。
「薫様は何が欲しいですか?」
何が欲しいか。貪欲で現金な彼女の弱い頭もこの言葉だけはしっかりと理解した。自分になんの徳もない話ではなく自分に徳がある話だから当然だろう。
「何が欲しい?今そう聞いた?」
「はい。これから旅立つ薫様に我主から贈り物です。ここは贈り物をする場所ですから」
「確かに。あなたそう言ってたわね。贈り物を貰ったら出れる場所だって」
「そんなニュアンスの事はお伝えしましたね。」
「なんでもいいのね!?ほんとに!?」
なんでもいいと言われたら困るという事はきっと多くの人間が経験しているだろう。普段からあれが欲しいこれが欲しいと喚いているもいざ実際『じゃあいいよ欲しいものをあげる。』と言われれば何を買ったらいいのかわからずに悩んだ挙句欲しいものは無いと伝えてしまうあの現象だ。
彼女には日頃欲しいほしいと言っているものが沢山あった。新発売のグロス、消耗品のアイシャドウ、お気に入りのブランドの洋服、少し高いブランドのバッグ、有名なカフェの期間限定のフラッペ。こればっかりは何時間悩んでも『これに決定する!』という一つを導き出すことは不可能ではないかと思ってしまう。
「ここには時間という概念が存在しませんので薫様が生きることを手助けするようなモノをじっくりお考えなさってください」
「アタシが生きるのを助けてくれるモノってアナタ大げさねぇ」
「いいえ、ここでの決断で生死が決まる方もいらっしゃいますから」
「何それ、きっとその人とんでもない決断をしたのね」
「はい。ですので薫様も主様の指し示した世界で生きていけるようなモノを選んだらいいですよ」
「世界で生きていける、ねぇ………」
自分がこの先行くであろう世界。そこが自分が住んでいる日本でもブラジルとかなんかそこらへんのよくわからない国だとしても必要なもの。
もしかして金じゃないかこれ?アタシ正解導き出せてない?このまま自分の住んでるところにそっくりそのまま返してもらえるんだったらただ得するだけだし、座標間違えて国違くなってもお金さえあれば飛行機で飛んで自分の家まで帰ることができる。大正解よカオル子。さっすが1億年に1人の美魔女乙女。
そんなふうに自分を脳内で褒め称えて唇を開いた。
「決めたわ!アタシ百万円が欲しい!」
「百万円ですね。承知いたs………え?」
「え?」
「は」
「え?だめ?」
「え、いや、ダメじゃないですけど」
「じゃあ何よその反応は」
「え、もっと有意義な能力とかじゃなくて良いのか心配で」
「え、能力って何どういうこと」
「え?」
「え?」
「私説明しませんでしたっけ」
「???なんのことかしら」
「私と会って最初に説明しましたよね」
「え、そうだったかしら」
「うんうん言いながら聞いていたじゃありませんか!」
「それは返事じゃなくて多分アタシが唸ってただけよ」
「!しっかりしてください!」
「しっかりしてます!!!」
時を戻すこと数分前。確かにこの使者はしっかりと能力の事とこの後彼女が飛ばされることになる世界について説明していた。だがここでその話を聞いている彼女の顔をご覧いただきたい。
とんでもない阿呆面である。そう、ちょうど水泳の後ウンタラかんたらでまっったく話を聞いていなかった場面だ。これは聞いていないカオル子が100パーセント悪い。
「もしかして薫さん」
「なぁに?」
「私の大事な話聞いてませんでした?」
「……キイテタワヨ」
「絶対聞いてませんでしたよね、そうですよね」
「いや、聴覚にはちゃんと届いてたわよ」
「その感じだと薫さんがもう元いた世界ではお亡くなりになっていることも、その理由が急性アルコール中毒だとも聞いていない感じでしたか」
「うん聞いてないわよ。ッッてアタシ死んだの!!!??嘘!!!?どういうこと!!!?そんなバカで阿保で頭の弱い、お葬式では笑われるようなしょうもない死に方したの!!?嘘よ!!!!やだやだ!
え、じゃあアタシがこれから飛ばされる世界って元いた場所じゃないの!!?ねえどういうこと!?もう一回ちゃんと説明してよ!ねえ!!」
「私は説明しました。それにここまで説明して欲しい願い事も言ってしまった後ではもう遅いです。もう一度説明している時間なんてありません。」
「なんでよ!慈悲はないの!?それに遅くないわよ死んだら時間もクソもないわ!」
「薫さん、ご自身のポケットの中を触っていただけますか?」
「はぁ!?この緊急事態にどういうこと?まあ触るけど…」
文句と困惑と怒りをぐちゃぐちゃ口に出しながら細くて白い陶器のような指先で自身の尻のポケットに触れる。
ここにはいつもタバコとライターしか入っていないはずだが今日はそのどちらとも違う材質を感覚が捉えた。なんだったかしら。こんなものいれたっけ。と不思議がりながら引っ張り出すと紙帯でまとめられた札束が姿を現した。
「!!!???何これどういうこと!!?」
「願い事は聞き入れられたようですね。それが我主が叶えたあなたの願いとあなたへの贈り物です。」
「これって多分100万円よね????」
「正確には円ではなくペカです。」
「ペカ??え、偽札って事?」
「いいえ。紛れもない本物です。これから薫さんが行くことになる世界の通貨です。」
「アタシ円安とか円高とか全くわからないんだけど」
「安心してください。薫さんの世界でのきっちり百万円分の価値です」
「そこ気が効くならもう一回説明してもらっても…」
ね、おねがーいと合わせた両手に普段とは違う違和感を感じる。なんだろうと思ってまじまじ見つめてみると透けているのだ。自分の指の輪郭をうっすらぼんやり介して女の子座りをする自分の足が透けて見えるのだ。もっともそのあしも薄ら消え初めていて膝よりしたはもうほとんどないくらいだ。自分の細胞一つ一つが光の粒になりシュワシュワと何もないこのただ真っ白な空間に消えていく。
「まっッッって!!??アタシ消えてる、!?え、!?どういうことねえ!」
「時間がないと言ったのはこのことです。あなたがお願いを口に出したその時点で、願いか叶ったその時点であなたの体はもうあちら側に転送され始めていたんです。」
「なんでそれ教えてくれなかったの!?」
「これは純粋に私のお伝えミスです。ごめんなさい」
「何それ!そんなのってありなの!?」
今まで経験したことのない体験ばかりで思わず半分泣き声になってしまうがそれでももう自分がこれから行く道は決定してしまったのか体が溶けていくのは止まらない。
自身が今こうして目の前の子供に何やら言っている間にも体の転送という名の崩壊は止まることを知らずに後に残っているのは首から上だけになってしまっている。
「それでは薫様、いってらっしゃいませ。」
「あんたとその主のこと!!アタシの家に戻ったらぜーーーーーったいに訴えてやるんだからねぇ〜っ!!!」
そう叫んだのが最後、残りの顔も微細に輝くダイヤモンドダストのようにぎらきらと散らばり跡形もなく消えてしまった。
「…主様はあんな濃いお方を呼んで、世界を壊すおつもりなのでしょうか…」