移動中の車の中、コマキさんはずっと無言だった。
私もなにも言えずに、ぎゅっとぬいぐるみを抱き締める。
彼は外資の、高級ホテルのスイートで私を押し倒した。
「本当にいいんだな」
艶やかに光る目が、私を見ている。
その瞳に、心臓がどくん、どくんと大きく鼓動した。
「はい。
私はコマキさんが好き、なので」
キスを誘うように目を閉じる。
この気持ちは偽りではない。
彼が、好きだ。
ただし、まだほのかに好意を抱いている、くらいだが。
このまま付き合っていたら、好きになっていたかもしれない。
その時間がないのが、酷く惜しかった。
「……茜」
甘い重低音が私の鼓膜を震わせる。
すぐに熱い唇が重なった。
何度か啄んだあと、親指が顎を押し、唇を開かせる。
その隙間からすぐに、肉厚なそれがぬるりと入ってきた。
どうしていいのか戸惑っていたら、彼が舌を絡めてくる。
……なに、これ。
気分がふわふわとし、頭がじんじんと痺れる。
私の知らない、感覚。
……コマキさんの熱、移される。
頭がぼーっとして、なにも考えられない。
自然と私からも、彼を求めていた。
最後に私の舌を唾液ごと吸い上げ、彼が離れる。
「とろんとした顔して、可愛いな」
軽く唇を触れさせた彼の手が、私の服にかかる。
そのままされるがままに服を脱がされた。
「綺麗だな」
ふっと薄く笑い、眼鏡を置いた彼が覆い被さってくる。
「なにも心配しなくていい、ただ俺に身を任せてろ」
そのまま――。
コマキさんが最後の砦を取り去り、生まれたままの姿にされる。
「恥ずかしい……」
小さく身体を丸めようとしたが、彼はそれを拒んできた。
「こんなに綺麗なんだから、恥ずかしがる必要はないだろ。
……ああ。
俺も脱ぐか」
テキパキと彼が服を脱いでいく。
その下からは厚い胸板の、引き締まった身体が出てきた。
「凄い……」
「ん?
昔、ラグビーやっててこうなってた。
嫌か?」
心配そうに彼が眉を寄せる。
それにううんと首を振った。
「なんか、安心感があります」
「そうか」
嬉しそうに笑い、彼が口付けを落としてくる。
私が乱れた息を整えているあいだに、彼は下着を脱いだ。
……ちゃんとしてくれるんだ。
彼が少し難しそうな顔で、それを装着しているのを、ぼーっと見ていた。
こんな状況でもきちんと私を思い、気遣ってくれていて、彼に頼んでよかったと改めて思った。
「じゃあ」
ゆっくりと彼が私の中に入ってきて、みしりと音がした気がした。
まだ彼の指しか迎え入れたことのないそこを、彼は進んでいく。
「んっ、んんっ、んっ」
「力、抜け」
そう言われても緊張からか、身体に入った力は抜けない。
「茜。
目を開けろ」
声をかけられて、きつく閉じていた瞼を開けた。
そこには、心配そうなコマキさんの顔が見える。
「もう、入りましたか……?」
「まだ、先っちょだけだ」
困ったように笑い、コマキさんは軽く口付けしてきた。
「ううっ……」
これでまだ先端だけなんて、先はまだまだ長くて挫けそうだ。
「ゆっくり、深呼吸しろ」
促すように彼が私の頭を撫でる。
頷いて言われるように深呼吸しようと努力した。
それにあわせて、徐々に彼が侵入してくる。
「痛いっ……!」
さらに少し進められたところで、激しい痛みが私を襲ってきた。
「いたっ、痛い……」
「やめるか?」
私が痛がり、コマキさんはきつく眉根を寄せて聞いてくれた。
それに涙目で首を振る。
「大丈夫、だから。
続けてください」
正直に言えば、我慢するのがやっとなくらい、痛い。
でも、これは私が、何者にも支配されず私としてやった行為の証し。
だから、最後までやりとおしたかった。
「わかった」
さらに気遣うように、彼が慎重に腰を進める。
「茜」
軽く頬を叩かれ、知らず知らずまた、きつく閉じていた目を開けた。
「全部、入った」
安心させるかのように、コマキさんが私に微笑みかける。
「……はい」
なんだか私も嬉しくて、自然と笑顔になっていた。
私を気遣いながら、ゆっくりと彼が身体を動かす。
私の身体はいまだじくじくと痛んでいたが、先ほどまでの激しい痛みはなかった。
あとは終わるまで、耐えればいい。
そう、思っていた、が。
「ああっ」
痛みが治まるにつれて、甘美な疼きが私を襲ってくる。
「気持ちいい、か」
その問いには答えられず、枕をきつく握りしめた。
……ダメだ、これ。
頭、おかしくなる……!
「……手」
「ん?」
「手、手を握ってください……!」
「いいよ」
さっきと同じように、今度は両手を握ってくれる。
それで安心できるのは、刷り込みなんだろうか。
「イっていいよ、茜」
促すように彼の動きが速くなっていく。
自分でも、そのときが近いのがわかった。
――そして。
「あっ、あっ、ああーっ!」
身体がこわばり、悲鳴じみた声を上げる。
次第に身体から力が抜け、視界が戻ってくる。
「満足したか」
「……はい」
これ以上ないほどの満足感が私の身体を支配する。
結婚前の女性が男性と関係を持つなんて、両親は激怒するだろう。
わかっていて、やった。
そうしたかった。
「コマキさん。
……好きです」
好意はあるが、この言葉に愛だの恋だのはない。
ただ、私は素敵な殿方と恋がしたいという願いを叶えたかったのだ。
「俺も茜が好きだよ」
きっと彼もそれをわかっている。
わかっていて、付き合ってくれる彼は優しい。
私が普通の一般人なら彼との恋もこれからあったかもしれないのにな。
「おやすみ」
優しい口付けを最後に、私の意識は眠りの帳の向こうへと閉ざされた。