影でリカとイズルを覗く人がいた。
マサルの執務室に向う途中のエンジェだった。
二人の会話をよく聞こえてなかったが、恋バナに違いないと断定し、歯を食いしばった。
あかりのぬいぐるみに盗聴器を仕組んだのはほかでもなく、彼女だった。
リカの部屋で変な呪札を隠したのも彼女だった。
万代家には確かに、人の強運を自分のものにする邪法がある。エンジェは大金をかけて、能力者にリカの運勢を横取る呪札を依頼した。
だから、盗聴器からリカとイズルの会話を聞いた時、確信を持った。
リカの「人気運」を横取る呪法は成功した。
マサルやようこなど古い仲間だけじゃなく、新しい人が現れても、リカは相手を引き留めるだけの運がない。
リカが独りぼっちになり、自分は人気者になる……
リカが負け犬になり、自分は勝ち組になる……
そんなはずだったのに……
今は、全部元の軌道に戻されているようだ。
リカは、失った地位や仲間を取り戻しつつある!
このままだと、今まで自分が苦労して取ったものは……
「どうして撃たなかったの!!」
マサルに執務室に入って途端に、エンジェは怒りを飛ばした。
「あたしたちの未来のために、何でもすると言ってたじゃない?!どうしてガイアリングを守らなかったのよ!あたしたちの子供のようなものじゃない!」
「そんなにリカが怖いの?!それとも、まだリカのことが好きなの?!」
「……」
マサルは暗い顔色でファイルの山を凝視している。
ガイアリングのクォリティーに関して、彼はいろいろ説明しなければならない。
その「無関心」な態度はエンジェをさらに刺激した。
「マサルちゃんは言ってたじゃない!婚約者なんて、天童大宇から強いられた役目、本当は迷惑だって!神様も果報も信じない、自分の選択だけを信じるって言ってたじゃない! もうあたしを選んだでしょ?だったら、あたしとの未来のためにリカをやっちゃってよ!」
「!」
エンジェの乱れた言葉から、マサルは変な発言に気づいた。
エンジェは知るはずのないことを喋った。
「神様も果報も信じない、自分の選択だけを信じる……そんなこと、いつ俺から聞いたんだ?」
「?!」
エンジェは失言に気づいて、慌ててごまかそうとした。
「そ、そうじゃなかったの?あたしたちの未来のために、なにも恐れない……じゃなかったの……?あたしはそうなのよ!マサルちゃんもきっとそうでしょ!」
部屋内はギクシャクの雰囲気になったら、ドアノックの音がした。
エンジェは救いの藁でも掴んだように、さっそく扉にダッシュした。
ロリィタファッションのようこはサーブルのカバンを抱えて、へらへらと執務室に入った。
「遅れちゃってごめん!!うちのことを罵っているのね! ひど~い」
ようこは遠慮なく、机のファイルの山を払って、ドンとサーブルのカバンを置いた。
「なにを……!」
マサルは不満をあげようとしたら、サーブルのカバンから出されたものに目を奪われた。
それは、宝石に飾られた一本のサーブルだ。
ようこはどこからナイフを出して、一番大きいな紫の石を掘った。
「これでしょ?ホイッと!」
石は飛ばされ、ちょうどマサルの顔に命中。
「……」
マサルは石を手に取ってみると、さらに驚いた。
「これは……!?まさか――」
「そうだよ!それは異世界への鍵だよ!リカは任務に失敗してもずっと持ってたの!いいお爺ちゃんがいって本当にズル~い」
ようこの話はマサルの推測を証明した。
「ああ、今はもう扉を開ける力だないけど、チャージすればいいの!これで、うちらも異世界に行ける!異世界に転生して、溺愛される!」
「……」
「マサルちゃんマサルちゃん聞いて、リカはね、やっぱりバカだよ!これをずっと持ち歩いていたの。わざと目立つようにしてて、これを狙う人の裏をかくつもりでしょう。でも、うちは頭がいいの!騙されなかったのよ」
マサルの厳しい顔に気づいていないように、ようこはペラペラしゃべり続ける。
やばいと感じたエンジェは慌てて弁解に入る。
「し、心配してたのよ!重要な法具を返さないなんてルール違反でしょ!家の重要な財産を守るために……」
「ものを盗んだ?」
マサルは冷たい声でエンジェの言葉を断ち切った。
「そんな言い方はないよ!お爺ちゃんでチートしたのはリカのほうなのよ」
全く空気を読めないように、ようこは火に油を注ぐ。
「うちらは、正当な努力でチートし返しただけだよ!ほら、ほかの宝石を分けようよ、捨てたらもったいない!法具でも作ろう!これはエンジェが大好きなルビーで、これはサファイア、マサルちゃんに……リカって、嫌なお金持ちだよね!」
「出ていけ」
マサルは暗い声を置いた。
「へぇ?なんで?宝石が好きじゃないの?」
「仕事の邪魔だ。二人とも、出ていけ」
マサルはもっと強く命令した。
「……」
エンジェはマサルの性格を熟知している。
ああになったらもう話をしてくれない。
(この花畑脳!)
エンジェはサッとマサルから紫の石を取り返して、ようこを引っ張って部屋から逃げ出した。
「……」
騒がしい二人が去ったら、マサルは長い息を吐いた。
エンジェの毒々しさは昔から気づいている。
でも、それは万代家で上に昇るための必須な素質だと思った。
エンジェは彼と同じ、恵まれてない人間。だから、平等的に手を組める。あるいは、自分が優位に立つ状態で手を組めると思った。
エンジェの描いた二人が万代家の頂点に立つ未来は確かに美しかった。彼女の熱く語っていた愛情もどこかで信じていた。
しかし、今は、どんどん帰れない道に導かれたような気がした。
先ほどエンジェは妙な事を口にした。
あれは、二年前に、彼がリカにぶつけた言葉だ。
その場にいないエンジェは、なぜそんなことを……
リカが教えたのか、それとも……
「!!」
マサルは一番肝心な部分を考え始めると、激痛が頭を貫いた。
破裂しそうになった頭を押さえて、マサルは震えた手で呼び出しのベルを押した。
すぐに、部下のデブ中年男性が入ってきた。
「マサル、どうした?!」
男性は驚いた。
マサルは息を切らせながら、半分うつ伏せの姿勢で体を支えている。
「大…丈夫だ……」
「!!」
マサルが頭を上げたら、男性はびっくりした。
マサルの瞳の形と色はチラチラと変化している。
「村田さん、俺に『全面検査』を予約してくれ、内密で頼む」
「は、はい……」
村田という男はとりあえず、言われた通りに予約をした。
「お茶を入れようか?」
「いいんだ、もう平気だ」
まもなく、変な発作が収まった。
マサルは息を楽にして、椅子に背を持たれ、片手で前髪を掻き揚げた。
「それより、今年の『特別昇進』はそろそろ来るだろ?今回昇進すれば、俺の配下にもう二チームが増える。チームリーダの推薦はいるのか?」
体と気持ちの不快感を追い払うために、マサルは元気づけの話題に移した。
「それは……」
だが、話を振り込まれた村田は渋い顔になった。
「どうした?」
「実は……もう来ている。それを説明するきっかけを探してた」
「きっかけ?何があったのか?」
マサルは村田の態度から妙な気配を嗅いだ。
「……も、申し訳ない!」
いきなり、村田は頭を深く下げた。
「今まで、ずっと隠していた!実は、7年前の『特別昇進組』の試験に、マサルは落ちたんだ。本来、毎年の『特別昇進』をもらえないんだ!」
「!?」
信頼する村田の口から聞いても信じがたい話だ。
マサルは拳を握り潰して、問い詰めた。
「……じゃ、今まで、毎年の昇進は何なんだ?!」
「それは……大宇さんが、マサルに特別代理権限を与えたから……」
「特別代理権限?」
「はい……当時、リカさんは『特別昇進組』の試験に合格したけど、将来の首席としての勉強や任務があって、新しく配下に入るチームをリードする余裕がなかった……大宇さんは、マサルをリカさんの代理人として立てて、リカさんが毎年昇進した権限をマサルに代理させたんだ!」
「!!?」
頭を貫く痛みが止んだばかりなのに、マサルは全身が雷に打たれたように動けなくなった。
「そんなこと、ありえない……」
「本来はありえないことだけど、万代家では、夫婦や親子の間の権限代理が認められている。大宇さんはマサルとリカさんの結婚を保証し、上層部で代理のことを強引に通らせたんだ……」
「!!」
今までの昇進は、自分の能力ではなく、リカの婚約者という身分でもらったものだと?!
「……」
信じたくない。
でも、記憶の中で傍証を見つけた。
彼はリカの婚約者という噂が拡散されはじめたのは、確かに、初めての「特別昇進」の頃だった。
天童大宇の孫になったとはいえ、リカと特別に親しくないのに、そんな噂がどこから来たのかずっと不思議だった。
(そういうことか……)
「じゃ、今まで、なぜ黙っていたんだ……」
無力にも、村田に質問し続けた。
「申し訳ない……これは特例だから、マサルのプライドが傷つかないようにと、大宇さんの命令で……」
「今、教えてくれたのも大宇さんの命令なのか?」
「いいえ……もう、隠しきれないからだ。今年から、マサルには、もう代理権をもらえない……」
「リカと敵対したから?」
「違う、エンジェが……」
「エンジェ?」
マサルの怪訝な質問目線に見られたら、村田は頭をさらに下げた。
「エンジェはマサルとの婚姻届を家に提出した、と担当者から聞いた」
「!!」
「その婚姻届けに、マサルの印鑑と自筆サインが入っている。エンジェと『結婚』した以上、マサルはもうリカさんの婚約者ではない。権限の代理はもう認められない、と……」
思い出せば、去年のエンジェの誕生日パーティーで、酔っぱらった彼とエンジェはようこが設けた罰ゲームで婚姻届けに記入したことがある。
(そういうことだったのか……)
すべてを悟ったマサルは、まるで氷の地獄に落ちた……