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73 女神に花火を

ほぼ同時に、リカと銀色の戦車は「コア」のガラス窓の外に到着した。

ガラスの内側にいるエンジェとマサルは、最大な警戒を持って窓の外を注目している。

強化された防弾ガラスとはいえ、合金壁でも一発で壊せる砲台の威力でなら、窓如きは紛れもなく粉々になる。

しかし、彼たちは逃げられない。このガイアリングは彼たちが地位と権力を得るための重要な資源、やっと手に入れた強力な駒だ。


リカは隣に止まった戦車を見上げて、少し戸惑った。

これもガイアリングのものなのか?

でも敵意はなさそうだ。

すぐに、戦車の扉は開かれた。

「!」

イズルは戦車のタイヤに立っていて、さわやかな笑顔でリカに手を伸ばした。

「戦車でお姫様を迎えに来た。かっこいいだろ。加点してくれ」

「……」

「予言の映像」を見たばかりとはいえ、実際にこの場面を目にしたら、リカはやはり驚いた。

ここで登場するのは、あまりにも反則だ。

ツッコミところ、疑問が山ほどある。

でも、目を移すことはできない。

彼の言った「かっこいい」という単語も否定できない。

胸の温度が上って、ぽかぽかになって、何か強張っている苦い感情が消えていく。

この場面にどう対応すればいいのか分からなくなったリカは、やがて採点スマホを出して、言われた通に加点をした。

「……本気にやっているのか……」

イズルは苦笑でため息をついた。

「まあいい、お前が空気を読めないのは昨日今日のことじゃない」

「とりあえず、上がってこい」

リカは引き付けられたようにイズルに手を伸ばしたら、イズルに手首を引っ張られ、腰を掴まれて、戦車に持ち上げられた。


イズルはリカを腕に囲んだまま、ガラスの窓に挑発的な笑顔を見せた。

それを見たマサルの目は、黒い影に染められた。

隣のエンジェの目は真っ赤になった。

小さい頃からいろんな男を見てきたエンジェは、イズルの行動の意味が分かる。


「ガラスの向こうにいるはあの妖怪か?お前を殺すつもりか?」

リカ全身の掠り傷と泥を見て、イズルは心底から怒りを感じた。

「というより、妖怪たちよ……殺したいのは、私だけじゃないみたい」

リカは声を沈ませて、見えない「妖怪」たちに鋭い視線を送った。

すぐに、エンジェの叫び声がアナウンサーで響いた。

「イズルちゃん!どういうつもりよ!家の大事な施設を壊すなんて、重罪なのよ!早くやめて!イズルちゃんのために言ってるのよ!」

「イズルちゃんって誰の事?」

イズルは鼻で笑った。

「オレは、七龍頭の許可でやったけど」

「嘘よ!七龍頭はこんなことを許すはずがないわ!」

「今朝もらったばっかりだ。うちの会社が新しく開発した商品は海外から到着したので、お土産として持ってきたいと七龍頭に電話をした。ついでに万代家の場所を借りて、商品の威力を試させてほしいと頼んだ。すると、偉いお方たちは喜んで、実験可能な地域をいくつか教えてくれた」

「この施設の隣は一番人の少ないところで、最高な実験場だと思ったそこにした。たまたま、射撃が外れてこの施設の壁を壊しちゃった。賠償しようと思って、こうして様子見に入ってきたんだ。ああ、これは申し訳ないな。おいくらになる?」

「嘘、嘘、嘘なのよ!!」

エンジェは細い腕で何回もコントロールパネルを叩いた。

七龍頭はなんであんな無理な要求を飲んじゃったの?!

「貴人」はなんで止めなかったの?!

絶対どこか間違っているのよ! 

リカはもう袋のネズミ、再起するチャンスはもう絶対ないのに!!


マサルも驚きと苛立ちでかなり取り乱したが、さすがエンジェのように表に出さなかった。

リカの生死はもうどうでもいい。

もっと手ごわいのは、このイズルだ。

このイズルはいろんな面で自分と似っている。

若い男性、狡猾、きれいな皮の下に潜んでいる凶暴、上に昇る意欲、万代家に見込まれた異能力、後ろ盾の天童大宇……

それに加えて、彼は自分のない個人産業を持っている。ガイアリングを破壊できる戦車まで作った……

イズルが万代家に入れば、自分は完全に上回される……

そんなこと、許すもんか――!

マサルは音もなく、コントロールパネルで森に配置された狙撃銃を起動して、イズルにロックオンした。

その時、彼の行動を見たかのように、リカは大声で呼び止めた。

「マサルさん、そんなことしないほうがいい!」

「!」

マサルはビクッと震えた。

リカはビスケットの小パック上げた。

破れたビスケットのパックから、リモコンのような小さな機械が見える。

「私は触ったすべての石碑に、チップ型のマイクロ爆弾を着けた。これを押せば、全部爆発する」

「!!……どうするつもりだ!!」

本当かどうか分からないが、リカならできるとマサルは無意識に認めた。

冷汗が背中に昇った。

「この施設を破壊する」

リカは静かに答えた。

「バ、バカなの?!あんた、万代家の人でしょ!!」

リカが冗談を言わないくらい、エンジェも分かっている。

不服そうな二人に、リカは落ち着いた声で説明した。

「万代家に建設物の基準がある。S級の建設物は、既存の携帯可能な小型危険物による損害を耐えられなければならない。もしも、ガイアリングは私が持ってきたマイクロ爆弾を耐えられない場合、不合格品となり、これからの使用が禁じられる。私が受けたもう一つの任務は、ガイアリングの検証だ」

「そ、そんな任務はないわ!」

「ガイアリングは重要な施設、事前に情報を漏らして、建設側の小細工によって誤魔化せられたら困る。だから、検証は極秘で行われる。七龍頭から直接に依頼を出す。その上に、建設のすべての関係者にも一切情報を漏らさないようにしている。あなたたちが頼りにしている落合も例外ではない。彼は一部の建材を調達したから、関係者の一人だ」

「!!」


あの日、武内からガイアリングの地図をもらった後、リカは武内のビデオ通信機から祖父の天童大宇と短く対面した。

天童大宇は七龍頭として、「ガイアリング検証」の任務をリカに依頼した。そして、リカにこの件に関して最大な権限を与えた。

リカは分かっている。祖父が自分にやってほしいことは、権力を虎視眈々する落合が注力したこの施設の破壊だ。


一族の人たちの異能力を強化する「ガイアリングプロジェクト」、

異世界から異能力人材を輸入する「星空プロジェクト」、

この二つのプロジェクトの目的は同じ――もっと多くの強い異能力人材を確保することだ。

二つとも大きなプロジェクトで、莫大な人力と財力を使う。家の資源が限られているから、二つのプロジェクトは相殺の関係。

異世界の任務が一度失敗し、ガイアリングが完成された。ガイアリングが存在する限り、家の重心を再び「星空プロジェクト」に移転させ、異世界の扉を再開させるのは難しい。

異世界にいる仲間たちを助けるためにも、このガイアリングを破壊しなければならない。


「嘘よ、あり得ないの!!」

現実を受け入れないエンジェは悲鳴を上げた。

(あたしはもう勝ったのよ!もう勝ち組になったの!)

(これまでの努力は、全部無駄になるの?!そんなの嘘よ!!!

「念のため、助言をあげる。途中で遭った障害物にもありだけの爆弾をばら撒いた。今頃あの障害物たちはどこに移動されたのか、早く確認したほうがいい。あなたたちはすでに爆発範囲内にいるかもしれない」

リカの真剣な目線に痛く刺さられ、マサルはもう黙っていられない。

「検証とはいえ、やりすぎだ!継承人順位一のお前は、みんなの『夢』を壊すつもりか!家もみんなも、ここにどれだけの希望を託しているのか、お前は知らないのか?!それでもこの家の未来を率いる継承人なのか?!」

「みんなの夢、家の希望……?」

リカは滑稽と思った。

万代家では、「みんなの夢」、「家の希望」、そんな「偉大なる話」の前で、人の命は微塵のように扱われる。

そんな家、そんな人たちを率いるものか……!

異世界に捨てられた仲間たちも、このガイアリングの副反応で苦しんでいる人たちも、ただの「あたりまえの犠牲」にされていた……

そして、彼たちの犠牲で引き換えられたのは、家の希望なんかじゃない、醜い人の欲望だ!

初めて、リカの顔に皮肉の笑顔が現れた。

エンジェとマサルのきれいない皮を剥がすように冷たく笑った。

「あなたたちだって、一度『家の希望』を破壊したんじゃない?」

「!?」

「不服なら、星空プロジェクトを破壊したお返しだと思え」

「あ、あんた……それ、公私混同よ!自分の恨みを晴らすためにここを破壊しようとするのね!」

エンジェは後ろめいて、さらに尖った声で叫んだ。

「責任を取るとか言いつつ、こそこそこんなことを企んでいるのね!今日のことを家中の皆に教えたら、皆もあんたのことを危険な卑怯者だと知るわ!あなたを継承人として認めないわ!!」

罵声の中で、リカは表情が動かないまま、二人を凝視しながら言葉を置いた。

「勝手に思っていい。これで少しでも覚えてもらえるなら」

「な、なにを覚えるのよ……」

「私に手を出した代償、そして――私の大事な人たちを傷付けた代償よ!」


「!」

マサルの記憶は裂けられた。

あのあかりというガキがいじめられた時、リカは万代家の異能力訓練所に突入して、あかりをいじめた奴を思いきり懲らしめたことがある。

家のルールを違反した故に、リカはいじめの奴たちと一緒に罰を受けた。それでも、いじめが再発したと聞いたら、リカはまた同じことをした。その後、自ら家の事務所に行って、罰を求めた……

普段のリカは穏やかだったが、黙って理不尽を耐えられる柄じゃなかった。代償を払っても、必ず反発をする人だ。

エンジェと手を組んで、エンジェが描いた「美しい未来」に魅入られ、つい、リカの本当の姿を忘れてしまった。

リカを潰し、天童大宇の影から逃れる願いは、もう叶えられない。

リカは、追いかけてくる。

自分のやったことを懲罰しに……くる!


「マサルちゃん……マサル!!何か話してよ!」

マサルは失神して過去の記憶に溺れて、エンジェの叫びを聞こえなかった。

「早く、早く彼たちを撃ってよ!!」


アナウンサー内の騒ぎに構わず、リカはイズルに振り向いた。

「この戦車、爆発に強いの?」

「……」

イズルはさっきの会話を見ていて、やっと、リカという人が分かったような気がした。

リカの姿に、心が揺れているのを感じて、目を移せなかった。

ぼうっとしたせいで、返事が二秒くらい遅れた。

「もちろんだ」

イズルは笑顔でうなずいて、戦車の扉を開けた。


イズルは先に入ってから、両手を伸ばして、リカを戦車内に迎えた。

扉が閉じたら、リカは迷いなく、リモコンのスイッチを押した。

爆発音は花火のように、この「女神」の腕のなかで盛大に打ち上げられた。


爆発が続いている間、イズルはずっとリカを抱きしめていた。

一番巨大な爆発音が迸る瞬間、イズルは腕を引き締めて、顔をリカの肩に埋めた。

「!」

リカはふっと気づいた。

イズルの家族は、万代家の法具で起こした爆発によっていなくなったのだ。

「……」

強すぎる抱擁から痛みを感じたリカは、静かに両手を上げて、イズルの背中と頭に優しく包んだ。



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