エンジェは倒れたリカを見つめていて、はちみつのような甘い勝利感を味わった。
悔しいでしょうね。すべてを奪われたお姫様。
だから、早く諦めたほうがいい。
あたしの優しさに甘んじて、さっぱり消えてて。
それでこそ、いいお友達よ。
今まで、あなたはあたしにどれほどの屈辱感をもたらしたのか、ご本人は知らないよね。
ある親睦会で、エンジェはマサルを見た。
そのきれいな男の子に一目ぼれして、エンジェはさっそく話かけに行った。
マサルは愛想よくエンジェと話しを盛り上げて、連絡先を交換して、一緒に遊ぶことも約束した。
だが、同行の母にその「出会い」を自慢したら、現実という平手打ちを食らった。
「あんなホストみたいな男の話を信じちゃだめよ。あいつは、
「?!リカ、リカは誰なの?なんで彼女の婚約者なの?!」
エンジェは不服そうに問い詰めた。
母はある方向に目線を送った。
その先に、何人の男の子に囲まれている少女の姿がいた。
少女の容姿が整えている。ブランド服を着ているのに、どこか高貴な気品が感じられる。後10年もあれば、絵のような美人になるだろう。
「あれはリカよ。七龍頭の首席、天童大宇の孫娘。未来の七龍頭首席。その父と母も上級の異能力者。あなたとは雲泥の差と言えるでしょう。男なら、当然そのほうがいいのよ」
「七光りかよ!そんなの、ずるいよ!」
「本人もなかなか優秀だわ。今年14歳、裏口なしで一流大学に合格したの」
「!」
「あなたが数学の宿題と戦っているうちに、向こうはもう家の任務を受け始めている。大学生になったら、もっと暇だわ。これから任務でいっぱいスコアを稼げるでしょう。個人素質の加点と家柄の加点もあって、継承人の位置はますます固められるのよ」
「……」
「彼女を睨んでも無駄だわ。あなたのママはダメな人なの。あなたはリカのようないいパパとお爺ちゃんもいないから、自分で頑張るしかないわ」
エンジェの悔しさを目にして、母は適切な助言をした。
「でも、あなたも捨てものじゃないわ。おいしい異能力を手に入れたでしょ。遠いところでリカを嫉妬するより、仲良しになってやるの。リカの周りに数えきれないチャンスがあるはずよ。媚びを売っても、彼女を掴むの」
「なんでそうなるのよ!パーティーでメイクもしない女と仲良しになれないのよ!まして、媚びを売るだなんて……」
エンジェはムカついて、視線を逸らした。
「ただで媚びを売るんじゃないの。売った分を何倍も取り返すのが目的よ。あたしたちのような『下賤』ものは、他人より多く働かなければ上にあがらないの。あなたの名前はエンジェだけど、翼がないの。飛べるかどうか、自分次第だよ。エンジェはママより頭が良くて、ルックスもいい。きっと分かるの」
エンジェは心のなかで思いきりもがいたが、親睦会が終わりかける頃に、やはりもりもりのスイーツプレートを持って、笑顔でリカに向かった……
やはり、母は正しかった。屈辱を我慢してリカに仕えなかったら、彼女のすべてを手に入れるチャンスもなかった。
これからこそ本番よ。
リカに代わって、七龍頭の道を歩むのだ。
異能力で一時的にリカになっていても意味がない。
現実的にリカと人生を入れ替わるの。
リカになりきるのよ!
羨望するすべてを我がものにするのよ!
時間が一分一秒に流れていく。
リカは依然に動かない。
エンジェは「戦利品」のマサルを抱きしめて、満足に笑った。
「あんなたくさんの悲しみや辛さを経験して、あたしたち、やっと、できたのね。あたしたちを傷付けるものは、このガイアリングで『実験の負担に耐えられない廃品』になって、消えてもらうの。彼たちのエネルギーだけが残して、あたしたちのために働く。あたしこそ、いいえ、あたしたちこそ、人生の勝ち組なの」
「ブゥー!!ブゥー!!ブゥー!!ブゥー!!」
エンジェは勝利宣言を発表したばかり、警報が盛大に鳴った。
自動的に飛び出したガイアリングの全体地図で、一点の不気味な赤いライトが点滅し始める。
僅かだが、その警報の音はリカの耳にも届いた。
そう、小さい頃の夢でこの景色を見たことがある。
あの夢日記にも書いてある――
迷路のような森に迷い込んで、黒い石碑に囲まれていた。
人の気配を感じて、助けを呼んでいたが、誰も来なかった……
最後に聞いたのは、爆発の音だった。
その夢の意味は、ガイアリングの実験を受け時に、やっと分かった。
何とかしないと、本当にこの実験で死ぬかもしれないと強く感じた。
相手はエンジェとマサルとこの施設全体。
たとえ一人でも負けるつもりはないが、万が一に備えて、仲間が欲しい。
問題は、その仲間は誰なのか。
一番信頼できる人たちは、皆異世界にいる。
あかりはまだ小さい。これ以上彼女を巻き込みたくない。
そこで浮かんだのはイズルだった。
イズルは自分の部下として万代家に入った。
彼を仲間として認めなくても、ほかの人から見れば、二人は一蓮托生の関係だ。
彼に助けを求めるのは当然なことだけど、どこかそれを拒む気持ちもあった。
最後まで悩んでいで、イズルに「サイン」だけを出した。
助けを求める「サイン」ではなく、危険を伝える「サイン」だ。
イズルはちょっとバカなところがあるけど、勘が鋭くて、頭の回転も早い。
その「サイン」の意味に気づくはずだ。
イズルに関して、リカの気持ちはかなり「矛盾」だ。
イズルは二人が「パートナー」だと言ったから、素直に協力を求めてもいいのに……
なのに、リカは怖がっていた。
信頼を託した仲間が敵になることを、怖がっていた。
イズルはエンジェたちと違うのが分かっていても、踏み切れなかった。
でも逆に、イズルは真の仲間になってくれる場合、反って彼の心配をする。
本当の仲間が自分のせいで危険な境地に落ちるのも怖いんだ。
結局、イズルに具体的な事情を伝えなった。
自分はこんな弱い人間だなんて、リカは初めて気づいた。
昔からそうだったかもしれない。
弱いから、誰も失いたくない。周りの人をみんなも仲間だと思い込んでいる。
しかし、その甘さのゆえに、悪意にも気づかず、本当の大事な人たちを失った。
そんな馬鹿な自分に比べて、イズルはずっと勇敢だ。
自分の仲間たちは生死不明だけど、まだ生還の希望がある。
彼の家族はもう戻れない人になった。
それでも彼は怯むことがなく、容赦なく目的に突き進む。
バカにされても、挫けなかった。
敵側の自分を「パートナー」として受け入れた。
たとえ復讐ための表工作でも、彼には、手を伸ばす「勇気」がある。
状況を伝えるために「ひどい話」を言ったとき、イズルは傷付いたような表情をした。
「気を付けて行ってきてくれ」
万代家に帰る時に、彼は笑顔で自分を送ってくれたのに、自分の帰りの挨拶は、その冷たい言動だった。
もし、彼は本当に自分のことを「パートナー」だと思っているのなら、改めて答えなくてはならない!
その時、リカの頭に不思議な映像が浮かんできた。
マサルは銃を構えて、イズルと自分に狙っている……
リカはどこから力が湧いてくるのを感じた。
拳を強く握りしめて、目を開けた。
「コア」のコントロールセンターで、警報が盛大に歌っている。
もうリカに構う暇がなく、エンジェとマサルは監視カメラを危険信号が点滅している場所に切り替えた。
「シー」を囲んでいる壁に、大きな穴が開いている。
「な、なんなの!!これは、合金の壁なのよ!」
エンジェは信じられない悲鳴を上げた。
その声と共に、監視カメラのほうから何か鈍い音がして、壁の一部は爆発した。
瞬く間に、エンジェが自慢した合金壁は大量な不燃ごみとなった。
それはまだ終わりではない。開けられた壁穴の向こうに、一台の小型戦車の姿が現れた。
隠蔽しやすいために、戦車は迷彩柄のはずだったが、この戦車はわざと存在をアピールするように、明るい銀色になっている。
合金壁を破壊したのは、どうやら戦車の砲台による砲撃だった。
マサルは我に返って、急いで侵入防止モードを起動した。
壁際に電流ネットが張られ、水路周りの土砂が崩れ、道路がひっくり返して鋼針の道となり、地雷も作動し始めた。
しかし、銀色の戦車の前で、すべての障害は無に化した。
水路に落ちた戦車は、70度もある坂から一気に上ってきた。
電撃と爆発を平気に通り、針の道を潰しながら前に進んだ。
「どうして、こんなもの……まさか……?!」
エンジェはやばい予感がしたら、スクリーンで小窓を開けて、監視カメラをリカの倒れたところに戻した。
「いない!!……まだ生きているの!?」
リカの姿が見つからない、エンジェは慌てて全体地図で探す。
リカはコアに向けて進んでいるようだ。
そして、あの戦車はリカに一直線に向かっている。
「やはりリカの増援か?!ちょっと、どうして……どうしてリカの居場所が分かるの?!」
このガイアリングは、外からのすべての信号を遮断できる。
なのに、あの戦車はまるでリカの居場所が見えるように、最短路線で進行している。
そのナビとなるのは、新世界が開発した特別なスマホだったこと、エンジェは知る由もない。