マンションの14階。
イズルは慎重に情報をピックアップして、奇愛と軌跡に一連の事件の「真相」を伝えた。
軌跡と奇愛は返す言葉も忘れて、俄然となっていた。
刺激的なことや、超能力など異常現象がかなり好きな二人だけど、いきなり暗黒組織の陰謀だの暗黒世界の闘争だの……全部本当だよ!と教えられたら、さすが驚くだろう。
「もう分かったかい?」
イズルが確認したら、二人は同時に頭を横に振った。
「正直、オレもよく分からない」
「……はあ?!バカにしているの?!」
奇愛は机を叩いて立ち上がった。
「奇愛、まず隊長の話を聞いてあげるんだ!」
軌跡はさっそく奇愛をソファーに引き戻した。
「分からないから、お前たちを巻き込みたくない」
冗談話に思わせないように、イズルは死ぬほどの真剣さで続けた。
「青野翼の話はどのくらい信じられるのも分からない。あいつはいつももったいぶっている。絶対ほか企みがある。裏社会に詳しそうな人に聞いたけど、みんな『万代家』の名前だけを知っている程度だ。詳細は誰にも分からない。正直、宇宙人を調べたほうがしやすいかもな」
「隊長、一つ…いいか?」
イズルが本人だと確認した以上、軌跡は彼の言葉を無条件に信じる。力になれるように、一生懸命頭を動かした。
「神農グループと、その万代家は、一体どんな契約をしてたんだ?なぜ破棄になった?」
どうやら信じてくれたみたい、イズルは強張っている表情を少し解いた。
「供給契約。お前たちも知っている神農グループの『裏商品』を万代家に提供する契約だ。破棄する理由は分からない。祖父は契約を何より大事にしている人間。結んだ以上、いくら不満があっても破棄しないはず、だが……」
「――あの夜、祖父と父は二人で万代家の人と交渉した。帰ってきたら、万代家の計画が狂過ぎ、高額な違約金を払っても解約すると言った。あの時、オレはその辺のビジネスに興味がなかったので、深く聞かなかった。まさか、世界大戦を発動しても?ってちゃらかしただけだ」
「じゃあ、その前は?最初は、ご家族のみんなで万代家の人に会ったのではないか?本当に、何も覚えていないのか?」
「そう。隕石か何かを探しに山に入って、万代家の人たちに合ったところまでは覚えているけど、その後の記憶が朧になって、祖父と父が戻るまでずっと曖昧だった。青野翼によると、向こうの異能力者の仕業かもしれない」
「万代家の人に会った場所は?調べに行ったのか?」
「場所ならなんとなく印象がある。でも、万代家はオレを監視しているから、何も覚えていないふりをしている。場所を探しに行ったら疑われる。かえって危険だ」
「なるほど……」
軌跡は少し考えたら、ピンっと来たように胸を張った。
「分かった!場所探しは俺たちがやる。見つけたら、隊長をそこに拉致する!拉致されたから、そこに行っても疑われないだろ!」
「却下」
考えもせずにイズルはその提案を断った。
第一、場所探しは危険。
第二、昨日の拉致ではもう十分に恥をかいた。
「……」
提案が瞬殺されて、軌跡はまた別の方向で考える。
「そうだ。さっきにちらっと会った、あの万代家のお嬢様……?一体何しに来たの?契約を結び直すとか言われなった? 彼女から何かを聞き出せないのか?」
「フン」
リカのことに来たら、イズルは鼻で笑った。
「知るもんか。オレが任務の相手と言っただけだ。普段は減点以外何もしない。わざとボケているじゃなかったら……万代家の陰謀と関係なく、単純に家庭教師の違約金を狙ってきたのかも知れないな」
「そうじゃないと思うよ。リカ姉ちゃんはちゃんとした人に見える。ただのお金好きな訳がない……」
昨日リカとのやり取りを思い出して、奇愛はイズルの邪推を否定した。
「行動は素早くて、判断はきれていて、なによりいい目を持っている!」
奇愛の理論はこうだ――
「あなたの軌跡兄ちゃん」と分かってくれる人だから、頭がよくて、自分と気が合いそう→自分と気が合う人だから、凡俗の人の訳がない。
でもイズルにとって、リカは「生きるか、死ぬか、どっちを選ぶ?」みたいな意味不明な言動ばかりする危険で不可解な人物。
奇愛の褒め言葉を無視して、独り言のようにつぶやいた。
「彼女の目的さえ分かれば、誘惑でも脅迫でもできるのに。やっぱり強引的に聞き出そうか」
軌跡は知っている。
イズルが今の表情で話す言葉は真剣なものだ。
放っておけば、本当に非常手段を取るだろう。
「隊長!太陽と北風の話を聞いたことはないか?協力してもらうために、はやり好意で動かしたほうがいいと思う!とくに、相手が女性の場合……」
「太陽でいることはもうゴリゴリだ!」
「は……?」
軌跡はその言葉の意味が分からなかったけど、奇愛は大きな謎を解けたように目を開けた。
「ああ、なるほど!パーティーでリカ姉ちゃんに媚びを売るのはそのためか!王子様がシンデレラに恋したパターンじゃなかったんだ!」
「オレはそんな三流ロマンスのパターンに落ちると思う?」
「思うよ。だって、『新登場』とかと手を組んだでしょ?三流組織じゃないと誰がそんな胡散臭い組織名を使うの?」
「記憶力は金魚か、『新登場』が偽名だと言っただろ」
「偽名のレベルで本名のレベルが分かるよ!暗黒組織はそんなダサい組織名を使ったら……っ!」
イズルをあざ笑うつもりだったが、話の途中で、奇愛はふっと何かを思いついた。
「ちょと待って、新……暗黒組織?……新世界じゃなかった?」
「新世界?」
「新世界という組織なら聞いたことはあるけど……」
「ゲームのギルドとかじゃなかった?」
口では疑ったけど、イズルの心の中で、密かに期待が燃え上がった。
趙氏財団の本部は中国にある。
奇愛は日本育ちだけど、毎年、祖先を祭る儀式を参加するために中国に戻る。奇愛の話によると、百鬼夜行みたいな怪しい儀式だ。
もしかしたら、趙氏財団は神秘な力や裏社会と何かつながりがあるかも知れない。
今までそれを綺麗に忘れたのは、奇愛に関することを意識的に避けたせいかも。
「何がゲームギルドよ。あたしの貴重な記憶はそんなものに使うわけがないでしょ」
「だろな、容量が少ないから」
奇愛は白目でイズルを睨んで、珍しく真面目な話をした。