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33 誰にも奪わせない

「——」

リカはミルクを飲もうとする動きを止めて、イズルを睨み付けた。

周りの温度は瞬間的に氷点になっった。

「プライベートな質問を受け付けない」

明らかに、リカの機嫌はよくない。

でもイズルはどうしてもそれを知る必要があると判断した。

青野翼の計画によると、イズルはリカの夫になって、万代家に入る。

それなのに、リカの人間関係図についてまだ何も知らない。

ライバルがいるかどうかも分からない。

万代家でリカと関わりたい人がもういないと青野翼は言ったけど、腐っても一族の姫様のような人物、顔もセンスも悪くない、頭も一応冴えている。変なファンの一人や二人がいてもおかしくないだろう。

リカの警戒心を解けるために、イズルは苦笑いして、申し訳なさそうに続けた。

「昨日の夜、わたしの傍で寝て、慰めてくれたでしょ。彼氏さんに知られたら、誤解されちゃうかなと思って」

「脅かすつもりなら無駄だよ。密告しようとも、そのような相手はいないから」

「下種の勘繰りだな……」

思わず本心が漏れて、イズルはさっそくアハハって誤魔化した。

とりあえず、ライバルがいないことが分かった。

ほっとしたところ、リカのほうから不意打ちが来た。

「……そういえば、私の曲は何?」

「何の曲?」

「着信メロディー」

「……」

どうやら、リカは彼の携帯の着信音の「カラクリ」に気付いたようだ……

イズルはまた後めいた笑顔で誤魔化す。

「今度は聞かせてあげるよ、曲名を当ててみてください」

そんな時、また着信音が響いた。

曲はメンデルスゾーンの『春の歌』だ。

その曲を設定したことあったっけとイズルは戸惑ったら、リカはカップを置いて部屋に行った。


「彼女のか……そうだ!」

イズルは我に返って、すぐ自分の部屋にダッシュして、リカに設定した着信メロディー――シューベルトの『魔王』――を『セレナード』に変えた。

やっとセーフと息を吐いたら、部屋の外からまた盛大なメロディーが奏でた。

今度はモニターの来客用メロディー、『闘牛士の歌』。


イズルは嘆きながら、モニターに行って画面を付けた。

台風のようなオーラを身に纏っている軌跡と奇愛がスクリーンに映された。

「……」

昨夜の乱闘の後、イズルはもう観念した。

この二人の妄想力と破壊力はただものではない。

さらに面倒なことになる前に、やはりはっきり言っておかなければならい。


「隊長――!本当に隊長なんだな!!俺たちはなんてことをした!!!」

玄関に入ると、軌跡はイズルに土下座して、泣きながら謝罪した。

「起きろ!こっちまで恥ずかしい!」

「ダメだ。俺は言った。本当に隊長だったら、土下座で謝罪するんだ!」

軌跡はもう一度頭を床に突こうとしたら、奇愛は全身の力で彼を引き止めた。

「軌跡兄ちゃんは悪くない!バカイズルはもったいぶったから!こっちこそ、彼のせいで大変なことにあったんじないの!」


昨日の夜、奇愛と軌跡たちが合流して事情を説明した。

イズルのところに戻るのが危険、できるだけ誤魔化してほしいとリカに頼まれたけど、奇愛は軌跡に嘘をつくはずがない。

知っていることを言いつくした。

思わなかったのは、イズルのことを心配しているある単細胞の隊員は、彼たちを尾行する筋肉ウルフに直接に問いただした。

結果は乱闘になった。

警察が来なかったら、今頃、奇愛は拳銃所持と殺人罪で警察署に送られたかもしれない……


だから、今日の朝っぱら、奇愛と軌跡はイズルの家に殺到して、無理矢理でも真実を聞き出そうとした。

あんまりにもうるさいから、部屋で電話をしているリカはマンションの下に降りた。


「静かになった。続きましょう」

マンションの下の庭で、リカはあかりとの電話を続けた。

「確かに見た。あいつは『霊護れいご』の力を持っている。エンジェの法具はどれもレベル高いもの、それでも防げたから、彼の『霊護』も相当高級なものでしょう。時空移転の『霊圧』に対応できる可能性が高い」

「よかった!」

電話向こうのあかりは嬉しい声を上げた。

「今回エンジェは失算したのね!逆にイズルの力を証明してくれた。イズルは万代家に協力してくれれば、お姉ちゃんも家から追放されない!」

「……たぶん」

あかりと違って、リカは全く興奮しない。

「たぶん?」

「彼は協力に承諾してくれても、その承諾を成し遂げたのは私じゃあい場合、私の『任務成功』にならないでしょ」

「あっ」

リカの話の意味があかりは分かる。

「エンジェは、また任務の横取りをしに来るの?」

「彼女自身はイズルの力を見なかったけど、ようこから私たちが無事のことを知ったはずよ。私には防御の力がないから、もうイズルの能力に気付いたでしょう。美味しい匂いがあるものを、彼女は見逃さない。まして、それは家が必要としている大事な力」

「そういえば、あたしもおかしいと思ったの。お姉ちゃんに任務を申請した時に、意外に順調だった。横から奪いやすい任務だからでしょう。任務の担当者じゃなくても、先にイズルを説得すれば勝ちだから……このイズルは異能力もあるし、社会勢力も持っている。エンジェなら、すでに動きだしたのかも知れない……」

あかりの心配を聞いて、リカは穏やかな声で彼女に伝える。

「大丈夫よ。同じ手段は二度と使わせない。入族の手続きを用意してくれる?近いうちにイズルを万代家に入らせる。『推薦入族』の形で」

「うん!分かった!」

リカの言葉を聞いて、あかりの気持ちが晴れた。

「この前、お姉ちゃんは家のことに全然執着してないから、エンジェはお姉ちゃんが担当していた仕事にどんどん手を出して、あちこち自慢しているの!この任務は絶対奪わせない!絶対見返してやるね!」


執着しなかったのは希望が薄いと思ったから。

イズルの異能力を見るまで、彼の命の安全しか望まなかった。

でも今は違う。

彼は「力」がある。

万代家ではなく、私自身がその力が必要だ。

誰にも奪わせない!



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