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31 異世界の夜は甘くない

万代よろずよ家訓よげんしょ

第七章 陰謀論

人々の間で陰謀論が盛んでいる。

この世の科学技術の真のレベルは周知するものより進んでいる。時間旅行、宇宙航行、異世界転移……すでに実現された。

しかし、裏で社会を操る権力者たちはその真実を隠し、技術を自分の統治だけに利用している。

われわれは認める。それは真実だ。

辿

われわれの略奪は、私欲のためではなく、人類を陰謀から解放するためだ。

この世には特権が不要だ。すべての人間は平等的に世界のあらゆる資源を分配されるべきだ。

われわれは同じ志を持つ家族を求めている。

家の者たちよ、もっともっと家族を作ろう。

全人類が一大家族になる時、この世から秘密がなくなる。

われわれは、全人類を解放する救世主になる。


***

(半年前。「異世界」の山森。)

「リカ、大変だ!たくさんの兵士はこっちに向かっている!」

危機の知らせと共に、小屋の扉を破るような勢いで青年は入ってきた。

「私たちの居場所を探しているの?」

リカより早く、ある髪の短い若い女子は聞き返した。

「探すというより、一直線にこっちに向かっているようだ!」

「ありえないわ……通った道を全部戻したの!」

リカも驚いた。

一直線ということは、すでに場所を知っていることだ。

若い女子の名前は安世(やすよ)。彼女は一定時間内で発生した物理的な変化を元に戻す異能力を持っている。

形跡隠蔽のために、皆が道を通ったら、いつも彼女がその場所の変化を元に戻す。

そのおかげで今まで見つけられたことは一度もない。

安世は几帳面で、ミスすることは滅多にない。

なのに、この山奥の小屋に移動した二日目で追手がきた。

「やばいな。『提携』のことを承諾するなら、こんな大勢でこないはずだ。恐らく『提案』が断られた」

「けど、結果は三日後と言ったでしょ?」

「きっと嘘だ。俺たちを掴めるための罠だ。最初からこちらと手を組むつもりなんてないんだ!あの異世界人たち!」

小屋にいる数人は騒いだ。


リカは焦燥感を抑えて、できるだけ平穏な口調で仲間たちに指示を伝える。

「状況はまだ断言できないけど、最悪に備えて準備をしよう。今から全員を集めて、山頂の陣に向かってください。私はエンジェに連絡して、すぐ転送の用意をしてもらう」

リカの指示に従って、みんなは動き出そうとすると、ある背の低い女子は不安そうに口を開けた。

「リカ……カツちゃんは、まだ戻っていないの」

「?!」

それを聞いて、皆は足を止めた。

「欲しいものがあって、晩ごはんの後に買いに行ったの……」

「この三日に絶対山から離れないと言っただろ!何を考えているんだ!お前もだ、レイ!従弟の管理もできないのか!」

ある中年の男は大声で女子を叱った。

「すみません!止められなくて……」

レイという女子は目をつぶして、泣きそうな口調で謝った。

「今はどこにいるの?」

仕方なく、人の居場所を確認するのが先だ。

リカはレイの肩に手をかけて、彼女を落ち着かせた。

レイの目から薄い金緑の光が放たれて、まるで遠いところを見ているように答えた。

「森の西側の出口付近、近道に入った。5、6分があればつけそう」

「皆さんは先に行って、私はここでカツオを待つ」

リカはためらいなく、レイの背中を押して、彼女を扉の外に送り出した。

「でも、リカさんは隊長で、家の継承人です。万が一何かがあったら……」

安世は止めようとしたが、リカは彼女の話を断ち切って、左手首に着けている腕輪を見せた。

「隊長だから、一度自由に『扉』を開くチャンスがある。カツオが戻ったら彼を連れて『これ』で帰る。万が一掴まれても、継承人の身分で交渉できるから、心配しないで」


8人の仲間を送ったら、リカはすぐに小屋の外の馬宿に隠れた。

リカの腕輪に三つの石が装着されている。

一つはルビー色の丸い石、一つはサファイア色丸い石、真ん中にあるのは紫っぽい大きいな楕円形石。

リカはルビーの石を回して、「第一オペレーター」のエンジェに連絡を入れる。


「……反応がない?」

でも、何回回しても、向こうから応答がなかった。

ルビーの石はチラチラと赤い光を放っていて、ブーザのような音が続いている。

待ってはいられない。

リカはサファイアの石を回した。

こちらは「第二オペレーター」のマサルと繋がっている

「…………」

しかし、同じく沈黙の答えしか戻ってこなかった。

その時、小屋のほうから騒がしい音が立てた。


追い手の混乱な足音と叫びが聞こえる。

「誰もいないぞ!!」

「きっと頂上の陣とやらに逃げたんだ!追うぞ!」

(陣のことまで知られたの?!情報が漏れているの……!?)

焦る気持ちを抑えながら、リカは干し草の中で密かに二つの石を回し続ける。

(早くみんなに知らさないと……)

足音が聞こえなくなると、リカは馬宿から飛び出した。

その時、暗闇の中からいきなり人が出てきて、彼女とぶつかった。

「アッ!」

相手は声を上げた。

「……カツ!」

リカとぶつかったのは痩せている少年。

年は中三くらい、身長はリカより頭半分くらい高い。

少年の目は猫の目のように、黒い森の中で緑色の光を放っている。それは彼の異能力。光源がなくても、暗闇の中で物をはっきり見える。

「リカさん、皆どこ?あの兵士たちはどういうこと?」

少年は不安そうにリカに聞いた。

「小屋は見つけられた。説明は後で、今すぐ陣のほうに……」

身を翻そうとすると、リカの神経は何かに刺されて、反射的に一歩後ずさった。

その同時に、冷たい裂傷の痛みが左腕を走って、腕輪は強引的に奪われた。


カツオという少年の目は強く輝いた。

彼の左手に血濡れのナイフを、右手にリカの腕輪を握っている。

顔には歪んだ笑顔。愉快しそうに血に染められたリカの腕を見つめている。

「気持ち悪いな。こっちも命張って家のために頑張っているのに、リカさんだけが救命の法具をもらえるなんて。さすがお一族のお姫様ってことか」

「!裏切り者は……あなただよね」

驚きと共に、リカは状況を理解した。

信じたくないけど、カツオが情報を漏らした裏切ものだと、現実は語っている。

でもどうして?

弟のようにいつも隣で陽気に笑っているこの子は、なぜこんなことをするの?

「俺のせいにするなよ」

リカの問いただす目線に気付いたのか、カツオは肩をすくめた。

「もとと言えば、親のせいだ。無能な親は任務に失敗して底に落ちたせいで、俺までなめられている。本当に、小さい頃から悪いことばっかりだった。人より一倍苦労して、やっと『異能刻印』に成功したのに、手に入れた能力はこの人型懐中電灯だなんて。しかも、この能力のせいでこのゲームも車もない『異世界』に飛ばされた。もし本当に異世界人と手を組むようになったら、帰れる日が分からなくなるじゃないか!」

「でもな、運は俺を捨てなかった。エンジェさんは言った、リカさんを異世界に閉じ込めたら、彼女は継承人になれる。そうなれば、彼女は継承人の権限を使って、俺にもう一度『刻印』のチャンスをくれる。役に立つ異能力がでたら、『七龍頭』の候補にも入れてくれるんだ」

「エンジェが?!」

リカは雷にでも打たれたような気持ちだった。

エンジェとは長年の親友。

家の未来や人生に対する考え方が違うが、遊びも仕事も、いい関係を保っていた。少なくとも、リカから見れば、二人は姉妹のような仲だった。

二人の仲が良かったから、家はエンジェをこの任務の「第一オペレーター」に指定した。

リカが異世界に来る前に、エンジェは彼女の手を握って誓った。

「何があったら、すぐ相談してね!全力で支援するわ。いつでも傍にいるから、リカは余計な事を考えなくていい、勇気をもって前に進んで!」

そして今日まで、エンジェの返事と支援は確かに迅速で適切だった。

リカも彼女を心強い仲間だと思っていた。

エンジェはカツオにそんな話をするなんて、どうしても信じられない。

でも、もしカツオは嘘をついたとしたら、エンジェの沈黙はどういうことでしょう……

熟考する暇がない、リカは出血を抑えながら、カツに説明する。

「誰から聞いたのか分からないけど、継承人にはそんな権限がない」

「お前の場合だけだよ!みんなも知っている。やろうと思えば、継承人はいくらでも特権を使える。俺は何度も頼んだろ!もう一回、『刻印』のチャンスをくれって!でもお前はいつも無視した」

「何回も言ったでしょ。『刻印』は体への負担が重い……」

「言い訳無用だ!お前は俺の親と同じ、無能な臆病もの!エンジェさんは違う。エンジェさんだけは俺に救いの手を差し伸べた。だから、俺はエンジェさんの仲間になる!」

後めいた気持ちが全然ないように、カツオは乱暴にリカの話を断ち切って、狂ったように叫んだ。

カツオの行動はショックだけど、今のリカが心配しているのは陣に向かう人たちのほうだ。

「そんなことを議論する暇がなわい!今すぐ腕輪を返しなさい!兵士は陣に向かっている、扉を開けないと皆は危ない!」

「ちょうどいい。捕まえられたらリーダーのお前の責任だからな。帰ったら、お前が責任を感じてここにに残った、と偉い人達に伝える」

そう言いながら、カツオは血濡れのナイフを腕輪に擦った。

腕輪から真紅な光が広がって、やがて半透明なバリアになり、カツオの体を囲んだ。

カツオはナイフをリカに投げて、その隙に森に逃げようとした。

その時、森から人が現れ、彼を捕まった。

「カツちゃん、どういうこと?!お姉ちゃんを置いていくつもり?!」

皆と山頂に向かったはずのレイは森から出て、ムカムカとカツオに問った。


「レイさん……」

カツが返事に躊躇ったら、レイは彼を地に押し倒して、腕輪を奪い取った。

「知ってるでしょ!この腕輪じゃ、扉は一瞬しか開けられない。二人が集合してから使うと言ったでしょ!」

「!」

レイも、裏切り者……?!

エンジェ、カツ、レイ……

リカが19年で築き上げた人間性への理解は、三分もないうちに崩れた。

「返してレイさん!それを使うにはコツがあるんだ!」

「何がコツよ!エンジェの条件が美味しすぎで不気味だったわ!リカを蹴り落すだけでいいのに、あたしまで犠牲にするなんて許さない!」

二人が争っている間に、隣の空間に大きな穴が現れた。

穴の中に宇宙の星々が輝いている。

レイは腕輪をギュッと胸に抱きしめたら、先ほどカツオを囲んだバリアはレイの体に移動した。

「レイさんよこせ!早く『霊護』を展開するんだ!あれがないと通路で死ぬぞ!」

カツはレイを必死に掴んで、彼女を星穴に行かせない。

「あんたこそ邪魔なのよ!扉は閉まるから早くどいて!」

醜い兄弟喧嘩を目にしたリカは速やかに穴の前に塞いで、レイの頸元にナイフをかけた。

「まだ帰る時ではない。腕輪を返せ」

リカの声に温度がない。

交渉ではない、命令だ。


3人は串刺しの位置で対峙する間に、星穴はだんだん小さくなっていく。

帰る希望が消えていると悟ったレイは賭けてみたいと思った。

腕輪を渡すふりをして、ゆっくりとリカの手を自分の頸から払う――

リカが腕輪を受け取る瞬間、全身の力を使ってリカを横にぶつかった。

リカはバランスが崩れて地に倒れたけど、腕輪をしっかりと手に取った。

目のいいカツオはこのチャンスを逃さなかった。

早速リカから腕輪を奪って、自分を中心にバリアを展開する。

一歩遅れたレイは必死にカツオに抱き着いて、彼の足を止める。

「わ、分かったよ!一緒に帰ろう!」

やむを得ず、カツはバリアを更に大きく展開して、レイを中に入れた。

二人は星穴に飛び込もうとする一瞬に、横から強い風が吹いてきて、二人を穴から何メートルも離れたところに飛ばした。

それから風は向きが変わって、カツオが落とした腕輪を巻き上げ、リカの胸に投げた。

驚く暇もなく、リカ本人までその風に乗せられ、星穴に飛ばされた。

穴が閉じる前に、リカは異国人の少年の影を見た。

「向こうの権力者たちに伝えろ。もう二度と来るな。この土地にあなたたちの暴力が要らない」

その言葉は、リカは「異世界」で聞いた最後の言葉だった。

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