「合計点数、マイナス30万。ということは、二週間も同居した結果、CEO様のイメージは上がるどころか、一直線に下がっている――という認識でよろしいですね」
青野翼はイズルに悪魔審判のような笑顔を見せた。
「なんのために動物園映画館プラネタリウム遊園地高級レストランをスケジュールに入れたのか、やはり、CEO様のご知力では理解できないでしょうか」
「オレの知力は幼稚園以下と言いたいならはっきり言え」
リカのいないところで、イズルはを間抜け子犬の設定を維持する必要はない。今まで溜まった分を思いっきり
週一回、
今までの情報を分析して、これからの対策を話し合うためのものだ。
でも、さすがに青野翼もマイナス30万点という点数に手を挙げたようだ。先週マイナス10万点の時点でまだ救いようがあると思って、イズルにいろいろアドバイスをしたが、どうやら、どこかで根本的に間違ったようだ。
「甘いのはお前の計画だ。カラスにお金やったら、鶯のように歌えるとでも思う?」
イズルは冷笑した。
青野翼の計画は、仕事の名義でリカを遊びに連れて行くこと。
楽しい雰囲気に囲まれれば、人の心も開きやすい。そこでイズルが適切にアプローチをしたら、二人の親密度はどんどんあがるだろう。
しかし、それは馬の耳に念仏ということだと、リカからはっきり教えられた。
ROUND1 動物園
仕事目標:軟弱になったイズルに弱肉強食の意味を教える。
―――
楽しい雰囲気を作るために、イズルはまず人気のコアラ館を選んだ。
でも何ゆえか、リカはコアラだけを見ていて、イズルを完全に無視した。
太陽のような笑顔で隣に立っているイケメンがいるのに、ボケ顔のコアラに目線を奪われたとはどういうこと??
イズルのプライドはそんなことを許さなくて、悔しそうにリカに不満を訴えた。
「リカさん、話を聞いていますか?なぜわたしに振り向かないの?コアラよりわたしのことが先でしょ?」
リカはゆっくりとイズルに目線を向けて、残念そうに理由を告げた。
「コアラは無駄な話をしないから」
「……」
リカは採点スマホを出して、「話は無駄に長い、意味が分からない」と入力して、減点した。
ROUND2 遊園地
仕事目標:アトラクションのサポーターになるための下見。
―――
「リカさん、メリーゴーランドを乗りましょう!」
「メリーゴーランド、求められているCEOのイメージと違いすぎ」
減点。
「じゃ、ジェットコースターにしましょう!」
「危険性の高い乗り物。身の安全への考えは不足」
減点。
「お化け屋敷!問題ないでしょ!」
「暗殺多発のところ。狙われている身という自覚がない」
減点。
「じゃパレードや花火を待ちましょう!安全で便利!何があったら盾になれる人はいっぱいいるから逃げやすい!」
イズルは頑張ったのつもりだが……
また減点された。
「……今回はなんのため?仕事になれない?」
「人を盾にするという考え方は、卑怯だ」
「……」
ROUND3 映画館
仕事目標:日頃のストレスを発散。
―――
リカの心を動かせるために、イズルはわざと評価の高い悲恋映画を選んだ。
ティッシュとハンカチもちゃんと用意した。
残念ながら、ヒロインとヒーローが出会ってから、リカは眠りに落ちた。目覚めたのは、エンディングロールの後、老婦になったヒロインはほかの男と生んだ子供に連れられて、車椅子に乗ってヒーローの墓参りをするシーンだった。
「ネットの口コミを軽信し、求められるCEOのイメージと異なる映画を選んだ」
当然に減点。
ROUND4 高級レストラン
仕事目標:重要なクライアントの歓迎宴会で出す予定の料理の味見。
―――
イズルはサーモンの皿をリカの前に置いた瞬間、その戦いが終わった。
「アレルギーです」
「……」
「自分の仕事なのに、他人に味見を任せようとする」
減点。
青野翼はいくつの代表的なコメントをピックアップして詳しく状況を聞いた。
イズルは恥ずかしいところをごまかしながら、ほぼ事実通りに説明した。
「ゲームのハードルが高かすぎるのか、プレイヤーが下手すぎるのか、どのみち、攻略任務は極めて困難であることを理解しました」
青野翼は一度眼鏡を整えた。
イズルが反論する前に、話題をほかの方向にリードした。
「点数に嘆いても仕方ないから、出直しましょう」
「二週間も同居したから、彼女の趣味の一つや二つくらいは掴めたでしょう?」
「趣味?」
イズルは白目で青野翼を一瞥して、屈辱の記憶のなかで情報を探り始めた。
「辛口コメント以外に……コアラかもな。動物園でグッズを買った。ほかに……プラネタリウム?」
「プラネタリウム?」
唯一減点されなかった「デート」は、プラネタリウムの回だった。
仕事の目標は、殺し合いゲームに備えるために、星空で所在地を判断する知識を身に着けることだ。
プログラムの途中で話かけられないから、リカはまた寝ると心配して、イズルは目の隅からこっそり彼女を観察していた。
でもリカは寝なかった。星空に集中して、イズルの目線にも気付かなかったようだ。
コアラを見る目と違い、リカの星空を見る目に何か特別な情緒が含まれているとイズルは感じた。
あの情緒は決して愉快でない。なにか暗くて、重いもののようだ。
せっかく減点されなくて、話をかけるチャンスだったが、イズルはあきらめた。
リカのその情緒に触れてはいけないと彼は直感した。
「コアラと、プラネタリウム……」
イズルはリカの趣味だと考えられる単語を繰り返した。
でも、さっそく違和感に気付いた。
「違うだろう。彼女の趣味を調べて、オレに教えるのはお前の仕事だろ?なぜ逆にオレに聞く?」
問い詰められても、青野翼は余裕そうに微笑んだ。
「女子のプライドや趣味とかを探るのはモラル的に問題があると思うので、深く調べませんでした」
「……」
無責任の上に、気持ち悪い返事だ。
嘘は見え見え。
青野翼のもったいぶりから、イズルは「新登場」のほかの目的に気付いた。
「わざと調べなかったんじゃない?」
その発言で、会議室の雰囲気は一変した。
「腐っても暗黒家族の姫様だ。手に入れない情報は当然にある。オレにやらせたのは、彼女を混乱させ、多く話させるためだろ。話が多ければ多いほど、失言してなにか秘密情報を漏らす可能性が高い。例えば、オレに見せた資料に書かれていない、彼女が失敗した任務の内容とか」
青野翼は一度眼鏡を押して、気前がよく開きなおす。
「まあ、彼女の任務に興味がなくもないが、それはCEOが聞けるならの話です。聞けなくてもそれでいいです」
「お前がそれでよくても、オレはそれでよくない」
イズルは鼻で笑った。
「彼女は周りを警戒して、拒んでいるように見える。暗黒家族の令嬢はああだと普段の仕事ができない。単なる性格の問題ではないと思う。そうなった理由が分からない限り、彼女の信頼を得るのは無理だ。一番考えらる理由は、万代家での立場がやばいから、神経質になったんだ。そもそも、そのやばい立場もあの任務のせいだ。その任務の中身を明かす必要がある」
「それはおかしいですね」
青野翼は頭を傾げた。
「なにがおかしい?」
「そこまで彼女のことを分析できるなら、なぜ真面目に攻略できないですか?」