「それは、全世界が泣くほどの話です!」
出会った日に、青野翼はイズルがCEOになった悲惨な経緯をリカに語った。
「半年前のCEOは、まだ悩みも知らない純粋な少年でした」
プロローグを聞いただけでリカは心底から引いたけど、断ったら青野翼がまた気持ち悪い叫びをあげるだろうと思って、しばらく我慢して話の続きを聞いた。
「あの楽しいはずだったの家族旅行は、彼の人生を変えました――
去年の年末、CEO一家は家族旅行で
「とある夜に、空に流星群が現れました。CEO一家は流星を見に山に出ったら、炎のように燃えている巨大流星が現れて、山の奥に落ちました。それを隕石だと思ったCEO一家は、探索しに行きました。しかし、彼たちを待っていたのは隕石ではなく、暗黒組織の犯罪現場でした」
「その時のCEOはまだイズルおぼっちゃまの祖父、
「年明け頃に、国際展示場付近に爆発があったこと、ご存じですか?それは公表されたガス事故などではありません。暗黒組織が手をかけた異能力による殺人事件でした。CEOは幸運にも逃れましたが、彼の祖父、両親、叔父夫婦、叔母は全部、あの事故で殺されました……」
「あれから、イズルおぼっちゃまは完全に別人になりました。雷霆のごとく動く、稲妻のごとく輝く少年英雄から、甘いものと少女漫画に嵌った中学生になったみたい…神農グループのCEOになっても仕事をしなくて、毎日馬鹿みたいにへらへら笑っています……記憶さえなければ、よくある霊魂交換か転生事件だと思いました」
「ちょっと待って」
リカは青野翼を止めた。
霊魂交換や転生事件がよくあるかどうかはともかく、聞けば聞くほど、微妙なところが多い。
「あなたの話は本当だとすると、今やるべきことは、彼の安全を確保すること、家庭教師ではなく、ボディーガードを雇うべきでしょ。でもその間に、彼はあの暗黒組織から身を守るために、わざと馬鹿を演じているんじゃないの?家庭教師はどうにかできることではないと思う」
青野翼は嘆きながら頭を横に振った。
「話の続きを聞いてください。うちのCEOの運命はお嬢様が思ったよりずっと複雑で、残酷なものです――あの暗黒組織は、しばらくCEOに手を出しません。それは、CEOには、もう一つの神秘組織から『加護』を受けているからです」
「もう一つの、神秘組織……?」
青野翼を変人視する表情は変わっていないが、リカの心の中で少し動揺が生じた。
(まさか、そんな偶然はあるの……?)
「その神秘組織……えっと、便利上に、『新登場』で呼びましょう」
「……」
適当すぎ。
リカは思わず心の中でツッコミした。
「その『新登場』ですね、とある謎のプロジェクトを計画しています。彼らは世界の大財閥のなかで協力者を探しています。そのプロジェクトが成功すれば、世界のとある大事な資源を独占することができます。なので、大財閥たちもまたその運営権をわがものにしようと密かに争っています」
「それをいいことにして、新登場は非人道的な選考方法を決めました。財閥たちから、それぞれ代表を出してもらって、一年後、新登場が決めた場所で殺し合いゲームを行います。最後の生還者の財閥は、そのプロジェクトの運営権を手に入れます」
「残念というべきか幸運というべきか、うちのCEOはその代表の一人です。ゲームの参加者に手を出したら、新登場への挑発になりますので、爆発事件の後、あの暗黒組織はCEOに手を出すことはありませんでした」
青野翼は一度眼鏡を押して、タブレットで何かを書き始める。
「これらの状況を持って分析をしました。二つの暗黒勢力に狙われているCEOの生存率は極めて低いです。しばらく暗黒組織から逃れても、今の間抜けな状態で殺し合いゲームにでたら必ず死にます。脱出するには、一つの道しかありません。それは、新登場のゲームに勝って、プロジェクトの運営権を手にいれることです。そうすれば、完全に新登場の傘下に入ります。そこから、徐々に暗黒勢力に対抗する力を身に着ければ、未来は開きます!」
妄想感95%で、現実感5%。
青野翼の話は、どこかの古い熱血少年漫画の設定に聞こえる。
それでもリカは問い詰めなかった。
ただ眉をひそめて、静かにその話を聞き終わった。
報酬は確かにいい金額だ。
リカにはやりたいことがある。
それをやり遂げるために、お金があった方が有利だ。
ストーリーは現実か非現実か重要ではない、お金は現実であれば、やる価値がある。
それに、イズル一家の件に関して、「自分と全く関係ない」とリカは断言できない……
なぜなら――リカは、いわゆる「暗黒勢力」に所属する人間だから。