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02 彼を救ったのは間違いかも

このおかしい対面のきっかけは、半月前のある出来事だった。

***

スポーツセンターからでてきたリカはリボンを解いて、一日も拘束された長い髪に自由を与える。

肩に乗せているサーブルのカバンを整えて、夕日が消えていく空を見あげた。

梅雨明けばかりで、熱さはまだそんなにひどくない。

いいこともあったし、曇っていた気持ちはやっと少し晴れた。

面接の結果は予想通りの合格。

来週からここのフェンシングクラブに入職できる。

家から追い出される日は遠くないだろう。

その前に、準備をしなくちゃ。

「た、助けて!!」

いきなり、青色スーツの青年は叫びながらリカに飛び込んできた。

「スポーツセンターの人ですよね!あの人たちをなんとかしてください!!」

「逃がすもんかぁぁ――!!」

咆哮が届いた瞬間、青年はリカの後ろに隠れて、彼女のカバンを必死に掴んだ。

咆哮と共に到着したのは、数人のマッチョボクシングマン。

どれも筋肉を鳴らしていて、殺気満々だ。

「お嬢ちゃん、どいてくれないか」

先頭の人はリカに対して割と平穏な態度を取った。

「どかないでください!僕、殺される!」

青年は怯えそうに頭をリカの背中に隠した。

「どういうことですか?」

リカに聞かれたら、マッチョマンたちは相次ぎ苦情を吐き始める。

「こいつ、どっから来たのかわかんないけど、めっちゃうるせぇんだ!俺たちの練習場をさんざん荒らしたんだ!」

「次々と変な話をかけてきて、わざと練習を妨害したぞ!」

「今日見学する人も多くて、我慢するつもりだったが、やぱっりだめだ!俺たちは完全に馬鹿されたんだ!」

「爆発事故で一家心中やら、暗黒組織やら、CEOが危ないやら、そんな馬鹿な話、信じるもんか!」

「チクショウ!うちの嫁は社長小説溺愛漫画鬼畜恋愛ゲームとかに嵌ってから、俺の弁当を作らなくなった!つい……この間、『安い給料』という禁句も口にした……なにが社長だ、なにがCEOだ!!」

ある男は悔しそうに涙をこらえながら拳を強く握りしめた。

「お金と関係ねぇ。これは男のプライドの問題だ!」

まったくまとまりのない苦情から、リカはなんとなく事情が分かった。

「つまり、彼は自業自得とういことですか?」

「その通り!!」

マッチョマンたちは一斉に頷いた。

リカはカバンをおろして、青年の指を一本一本カバンから剥がし、彼をマッチョマンたちの前に送り込んだ。

「どうぞ」

「そ、それは誤解です!」

マッチョマンたちの拳が届く前に、青年は叫びながら、再びリカを盾にした。

「それでは、あんたの言い分は?」

仕方がなく、リカはこちの「証言」も聞いた。

「僕の言ったことは全部事実です!わが社のCEOは暗黒組織に狙われています。CEOの家族はその暗黒組織の秘密を偶然に知ったから、全員殺害されました。CEOはその衝撃でおかしくなっています!殺伐果敢な覇気CEOから、天真爛漫な弱虫になってしまいました。彼に元の属性を取り戻らせるために、覇王のような教師が必要です!その教師になってくれるなら、三食と高級マンション付きで、授業間の給料以外のすべての出費も精算します!願ってもないやりがいのあるスーパーディリシャス仕事です!」

狼狽だった青年は、なぜかいきなり堂々となった。

「おかしいのはおまえのほうだろう!!」

「救急車を呼べ、いや、警察だ!」

もちろん、マッチョマンたちはその話に納得できない。

青年はリカのカバンにしがみついて、真っ赤な目と泣きそうな声で懇願する。

「お嬢様、今日ここであなたに出会ったのはきっと慈悲深い神様の導きです。もし、もしお嬢様は僕を見捨てるようなことをしたら、僕は、僕は……死んでもあなたを恨みます!!」

「……」

懇願というより、脅かしというべきだった。

リカは青年を見る目線の温度は瞬間的に北極圏レベルに入った。

「!」

危険を感じたのか、青年は少しずつ体を後ろにずらして、リカから離れようとする。

しかし、彼の袖ボタンはリカのカバンのファスナーと絡んでいて離れない。

急いで引っ張ったら、リカのカバンを引っ張り開けた。

カバンから銀色に光るサーブルが倒れ落ちた。

「も、申し訳ありません!わ、わざとじゃないです……」

リカは無言にサーブルを拾う。


スポーツのサーブルなら、安全のために、剣の先は丸くなっているはず。だが、リカのサーブルの先はピカッと尖っている――本物の剣だ。

その冷たい光に、マッチョマンたちでさえ思わず後ずさった。

「持って」

リカは剣を青年に渡す。

「殴られたくないなら、自分で解決しろ」

「!!」

青年は驚きながらも、びくびくと剣を受け取った。

その弱弱しい姿を見て、マッチョマンたちは大きいに笑った。

「プッ、ハハハハ!!」

「泣いている!」

「ママはどこだ!」

侮辱の声の中で、青年は誰も予想しなかった動きをした

――剣を自分の頸にかけた。

「……し、死んで見せる!!うちのCEOを救えないなら、僕も、一緒に死ぬ!」

「おい、まじか?!」

「どうなってるんだ!」

死ぬのは本気かどうかわからないけど、この人にはもう関わらないほうがいいとマッチョマンたちは悟った。

「だめだ、いかれたなこいつは」

「ああもう、いこういこう、練習だ練習!」

「今日はついてねぇな……やる気がなくなってる……」


「解決したのね」

 展開がちょっとおかしかったけど、とりあえず一件落着。

リカは青年に近寄って、剣を取り戻そうと手を伸ばした。

けど、青年は剣を返すどころか、真っ赤な目でリカを睨んで脅迫し続けた。

「僕はもう誓いました。今日はCEOの家庭教師を見つけなければなりません!お嬢様は手を出した以上、もうCEOの家庭教師になって、最後まで助けてください!でないと、僕はこのままお嬢様の目の前で命を捧げます!」

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