アレッタはその知らせを耳にした瞬間、全身が震えた。
目の前に立っているのは騎士団長のエイデン。彼の顔は蒼白で、目は虚ろ。何度も口を開こうとするが、言葉が出てこない様子だ。
「リゼットがドラゴンに攫われた…だと?」
アレッタは唇を震わせながら、ようやくその言葉を口にした。言葉の端々に震えが混じり、彼女自身もその意味を理解するのに時間がかかっていた。
エイデンの胸は激しく上下し、息が詰まっているのが見て取れる。こんな彼を見るのは初めてだった。普段は冷静で頼りにしていたはずの彼が、今や全てを失ったかのように見える。
だが、アレッタはその様子を見ているだけではいられなかった。心の中で怒りが膨れ上がり、制御できなくなった。
「お前がついていながら、なぜ…!なんでリゼットを守れなかった?」
アレッタはエイデンの胸ぐらを掴み、力いっぱい引き寄せた。自分でも驚くほどの力が込められており、エイデンの体がわずかに揺れるのが感じられる。
その瞬間、エイデンの目が見開かれ、震える声で叫んだ。
「そもそも、あなた様とリゼットが入れ替わっていて、連れ去られたのがリゼットだなんて…!頭がおかしくなりそうだ!」
拳をぎゅっと握りしめ、その手は白くなるほど力を込めている。指の関節が浮き上がり、まるで限界までその怒りを押さえ込もうとしているのが伝わってくる。
その姿を目の当たりにして、アレッタの胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
「入れ替わった?なぜリゼットをそんな危険にさらすようなことを?あなたのわがままにリゼットまで付き合わされてこんなことになった。どう責任を取るつもりだ?」
彼の目には、怒りがみなぎっていた。普段は冷静で忠実なエイデンが、こんなにも怒りを露わにしていることに、アレッタは驚きを隠せなかった。その怒りに、胸が重くなる。
全て自分のせいだ。自分のせいでリゼットは今、命の危険にさらされている。
部屋の中には、重苦しい沈黙が広がった。
その沈黙を破るように、アレッタは突然、服を素早く脱ぎ始めた。
「…な?!」
予想外の事態に、エイデンは驚き、思わず顔を背けて手で顔を覆った。目の前でアレッタの華奢なドレスが次々と脱ぎ捨てられ、その下に隠されていたものを見て、エイデンの心臓が一瞬止まったかのような感覚を覚えた。
「アレッタ様…なにを…?」
エイデンは言葉を発しようとしたが、喉が詰まり、言葉が続かない。
最後の衣服が脱ぎ捨てられると、アレッタは振り返った。その瞬間、エイデンの目に飛び込んできたのは、まるで別人のような姿だった。
長く束ねた髪、顔立ちはそのままだが、今は戦闘用の軽装が体にぴったりとまとわれている。女性らしさを捨て去り、男らしい体つきが際立っていた。
「この姿をお前に見せるのは、初めてだったな?」
エイデンは息を呑んだ。アレッタが男であることは知っていた。しかし、実際にその姿を目の当たりにすると、予想以上の衝撃が彼を襲った。その美しい顔立ちからは想像できなかった力強さ、冷徹さが漂っている姿に圧倒される。
「ドラゴンということは、魔王の城だな。リゼットを今から取り返しに行くぞ。」
その言葉には迷いも躊躇もなく、どこか優雅で強い決意が宿っていた。