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第53話



パーティー会場は、煌めくシャンデリアの光が優雅にダンスフロアを包み込み、まるで星空が降り注いでいるかのようだった。

色とりどりのドレスをまとった貴族たちが、笑顔を交わしながら華やかに踊る姿は、夢の中の一コマのように美しい。

周囲には楽器の柔らかな音色が響き渡り、心地よいリズムが包み込んでいた。


その中央で踊るのは、クラリスとアルファン王子。

彼の力強い腕に抱かれながら、クラリスの動きはまるで舞い上がる羽のように軽やかだ。彼女の美しい金髪がゆっくりと揺れ、春の風に揺れる花のように美しい。


「クラリス、君とこうして踊る時間が永遠に続けばいいのに。」

アルファン王子の低く優しい声が耳元に響く。

その瞬間、頬が赤らんでいくのを感じた。

彼の瞳は深い色合いを湛え、優しさと情熱が混ざり合った光が彼女を引き寄せる。

クラリスは、まるでその瞳の中に吸い込まれそうな気持ちになった。


「殿下、そんなことを言われたら…」

言葉が詰まり、思わず目をそらす。

内心では彼の気持ちに応えたいと思いつつも、恥ずかしさが勝ってしまう。 二人の恋の行方を見届けるかのように、観客は思わず息を呑み、陶然とその場に立ち尽くしている。


周りの視線が二人に注がれる中、クラリスは心の中で「し…心臓が持たないわ!」と叫んでいた。


その様子を遠くから眺めている陛下は、にこやかに微笑みを浮かべ、まるでこの瞬間が祝福の象徴であるかのようだ。


そんな中、ひとり、ため息をついている女性がいた。

長い黒髪を美しくまとめ、華やかなドレスに身を包んでいたが、その表情には焦りが見え隠れしている。

「どうしてこんなことに…」心の中で呟いたものの、その答えはわかりきっている。

彼女の名はリゼット。


実は彼女はただのメイドである。本来ならここにいるはずのアレッタ令嬢の代わりとして、変身魔法を使って彼女に扮していたのだった。

豪華なシャンデリアが天井から光を注ぎ、金や銀の細工が施された柱が会場全体を一層美しく引き立てている。

その煌めく世界の中で、リゼットはどこか居心地の悪さを感じていた。


彼女の黒髪は丁寧に結い上げられ、ドレスは体の曲線に沿って美しく流れるようなデザイン。どこから見ても高貴な令嬢の姿であり、その立ち居振る舞いからは品格が漂っている。

しかし、リゼットの胸の中は落ち着かなかった。

手元で何度もドレスの裾を軽く握りしめ、そのたびに深呼吸をしようとするが、気持ちが全く落ち着かない。

「お願い、誰か私を助けて…」心の中で叫びながら、リゼットは周囲を見渡した。


目の前には豪華なカクテルを手にした貴族たちが、楽しそうに談笑している。

彼女は自分がその中にいることに、ますます不安を感じた。


「お嬢様、何かあれば絶対に守りますので、私から絶対に離れないでくださいね。」

その声に反応して顔を上げると、目の前には長身の赤髪の男が立っていた。彼はこちらを振り返り、熱い視線を注いでいる。


そんな熱を帯びた視線を送る彼に、思わず「えっ、誰?」と口に出しそうになったが、ハッと我に返る。危ない危ない。この男は――間違いなくリゼットの幼馴染、そう、アルヴィスだ。


彼はアレッタ令嬢の専属騎士であり、その忠誠心はまさに筋金入り。周囲を警戒する姿勢は、まるで「誰か近づけば瞬時に撃退するぞ!」とでも言わんばかり…猛禽というより、もはや番犬に近い。


今日はアレッタ令嬢のエスコート役として舞踏会に参加しているはずなのだが、実際にはエスコートどころか、すっかりガードマンと化している。


アルヴィスは、正直に言えば少しばかりストーカー気味だ。アレッタのためなら命も惜しくないと豪語するその姿勢は、もはや騎士というより、過激なファンそのもの。


リゼットは「え、こんなときくらいそんなに守らなくても…」と内心ツッコミを入れつつ、アルヴィスの真剣すぎる表情に苦笑するしかなかった。


彼の目は見張り番の鷹のようにキョロキョロと動き、完全に周囲を警戒モード。きっと彼の頭の中では、アレッタを守るための無駄に複雑な戦略が次々と練られているに違いない。


そんな彼の真剣な眼差しに、周囲の人々も気づき始め、ちらちらと視線を向けている。

「ここまでくると、もう病的な域よね」とリゼットは心の中でため息をついた。



「どこの令嬢なのかしら…あんな野蛮な相手を連れて」と、周囲からのコソコソ話が耳に届く。

「こちらを睨んでいるわ」「目を合わせないでおきましょう」と周囲の声が聞こえる。


すでにアルヴィスのせいで自分たちが浮いているのは明らかだ。

周囲の貴族たちの疑念の視線が集まる中、彼女は自分の存在がこの華やかな場にふさわしいのか、ますます疑問を抱くのだった。


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