クラリスは、騎士たちに引きずられていく白髪の騎士をじっと見つめていた。彼は何かを伝えたそうにこちらを見つめ、心の中にざわめきが広がる。
「なんだったんだろう…」
ふと、彼にジョーカーの面影を感じてしまった瞬間、クラリスは「まさか…!」と、慌ててその考えを振り払うように首をぶんぶんと勢いよく振った。
「こんな時にまで彼のことを考えてるなんて…!」と心の中で叫び、必死にその想いを振り払った。
気を取り直し、クラリスは優雅に一歩、また一歩と歩みを進めていく。まるでオペラの舞台に立つ主役のように、風を纏うようなその姿に、貴族たちは思わず息を飲んだ。遠くにいる者たちは「何か光が差しているようだ…!」と錯覚するほどだった。
周囲の視線が次々に彼女へと集まり、その瞬間、近くで誰かが小さく呟く。
「まさに…美の化身…!」
その囁きは静かに会場中に広がり、まるで波紋のように会場全体に影響を与えた。あちらこちらから驚きと感嘆の声が上がり始める。
「あの美しい令嬢は、一体どなたなのだ…!?」
その言葉はまるで舞踏会全体を包み込むかのように広がり、クラリスの存在感が会場全体を支配していった。息をのむような静けさが広がり、彼女のただ立っているだけで周囲を魅了する力が発揮される。
そんな視線の嵐に、クラリスは思わず照れてしまい、ほのかな笑みを浮かべた。その瞬間、場内はさらにざわつき、貴族たちは興奮の声を抑えられなくなった。
「眩しすぎて…目が開けられない…!」と叫ぶ者が続出し、まるで魔法でもかけられたかのような現象が広がった。
「クラリス…?」
ふいに、背後から低い声が聞こえた。振り返ると、そこにはアルファン王子が呆然と立っていた。目が釘付けになっている彼に、クラリスは思わず微笑んでカーテシーをした。
「ご挨拶申し上げます、アルファン殿下」
昨日も会ったばかりなのに、再び彼の前に立つと心が高鳴る。だが返事はなく、ちらりと彼を見ると、その目は完全にクラリスに釘付けだった。まるで時間が止まってしまったかのように、ただ彼女を見つめている。
「殿下、どうかされましたか?」
クラリスがきょとんとしながら声をかけると、アルファン王子はハッとして顔を赤くし、慌てた様子で答えた。
「あ、いや、何でもない…その…」
その声には明らかな動揺が含まれていた。クラリスは気遣うように、赤く染まった彼の顔に手を伸ばそうとした瞬間、わっと歓声が上がり、パーティーの主役であるラウレンツ陛下が現れた。
その瞬間、わっと歓声が上がり、パーティーの主役であるラウレンツ陛下が煌びやかな衣装をまとって登場した。堂々とした姿で会場に入ると、その場の空気は一気に張り詰めた。貴族たちは一斉に頭を下げる。
「さあ皆の者、耳を澄ませ!今宵は特別な夜だ、心ゆくまで楽しむがよい!」
満面の笑みを浮かべた陛下が手を振り上げると、会場は緊張と期待で満たされた。クラリスも、少し緊張しながらその姿に見入った。以前、大広間でやらかしてしまって以来なので、少しきまりが悪い。
彼女の視線が陛下とぶつかると、陛下はクラリスを指さし、笑顔で宣言した。
「そして皆の者、ここにおわす美しき令嬢こそ、我が息子の危機を救いし素晴らしき女性、クラリス令嬢である!その勇気と慈愛に心より敬意を表し、皆も共に盛大な拍手を贈られよ!」
会場は驚きの声と共に盛大な拍手に包まれ、「あの方がクラリス様だったとは…!」と、人々がざわめき始めた。
「何をそんなに赤くなっているんだ?」
アルファンが小声で囁くと、クラリスは驚いて彼を見た。
「え、殿下の方こそ赤いですよ?」と、クラリスが言い返すと、彼は慌てて背筋を伸ばし、顔を真っ赤にして言い返した。
「いや、俺は冷静だ…」
「冷静って、トマトみたいに赤い顔で?」
クラリスがくすくすと笑うと、アルファン王子はさらに顔を赤くして「う…うるさい!」とそっぽを向いてしまった。
そのやり取りを見ていたラウレンツ陛下は、笑いを堪えきれず、声をあげて笑った。
「若い恋は素晴らしいな!皆ももっと盛り上がれ!」
その言葉に、会場は歓声でさらに賑やかになった。
「よければ、一緒に踊りませんか?」
アルファンが手を差し出す。彼の瞳は熱を帯び、クラリスを見つめていた。彼女は、その真剣な眼差しに心が揺れる。
「…はい」
彼女が頬をほんのり赤らめながら、はにかんだ笑みを浮かべてその手を取ると、その瞬間、周囲の喧騒が遠のいていくようだった。クラリスとアルファンの間には、まるで時間が止まったかのような静寂が流れる。
この一瞬、世界には二人だけしか存在しない――そんな錯覚さえ覚えるほど、特別な瞬間がゆっくりと幕を開けようとしていた。