「ねえねえ、お姉さん、今日は星よりも綺麗だね~。誰かを惑わすためにここにいるのかな?」
ユリウス・グレン、変装したジョーカーは、パーティ会場で軽い調子で声をかけ続けていた。彼はパーティの雰囲気を味方に、次々と女性に声をかけて回る。
「…はぁ?」と、呆れる女性もいれば、笑って相手をしてくれる人もいるが、ジョーカーは全く動じない。
「そんな冷たい顔しないで、ほら、笑って?」
軽やかにウィンクを飛ばし、彼は満足そうに微笑む。しかし、周りの騎士たちは心の中でため息をついていた。
「また始まったよ、あいつの『女口説き無双』…。」
「どうせまた、終わった後に誰かが謝る羽目になるんだろ…。」
一方で、ジョーカー本人は全く気にせず、次のターゲットに移っていく。
「君はまるで絵画のように美しいね。ずっと見ていたくなる。あ、でも…この目を独り占めしたら嫉妬されちゃうかもな?」
女性が顔を赤らめた瞬間、彼はニヤリと笑い、距離を一気に縮めた。
「どう?僕と一緒に踊って、この退屈なパーティから逃げ出さない?」
女性たちの心をもて遊んでいるように見えるが、不思議と嫌われることはない。その軽薄な態度は一見ふざけているように見えるが、憎めない。むしろ、ふとした瞬間に見せる真剣な眼差しが、予想外にも好感を抱かせるのだ。
「なぁ、嘘じゃないんだよ?本当に、君だけを見てるんだ――今、この瞬間だけはね。」
不意にジョーカーは優しい笑顔を見せ、女性の手をそっと握る。その瞬間、彼女はつい目を逸らし、顔がさらに赤く染まる。
「もう、やだ…!」と照れ隠しに笑いながらその場を去る女性を見送り、ジョーカーは満足げに頷いた。
「ふぅ、俺ってほんとに罪な男だな~。」
ジョーカーは満足げに笑みを浮かべながら、次々と女性にウィンクを飛ばす。背後では、同僚たちが呆れ顔でその様子を見守っていた。
「まったく…新米騎士のユリウスが来ると、ほんと手に負えないよ。」
「まぁ、あいつのナンパ癖は今日に始まったことじゃないしな…。」
上司さえもため息をつきつつ、軽い苦笑いを浮かべながらユリウス(ジョーカー)を見ていた。
「そうそう、これが俺の本来の姿だ!」
ジョーカー――いや、ユリウス・グレンとして、彼は満面の笑みを浮かべ、再び女好き怪盗としての自分を取り戻したことに上機嫌だった。最近の自分は、どうにもおかしかった。やけにクラリスに一途になってしまっていたが、それじゃ駄目だ。自分は、宝物も女性の心も盗んでこそ本物の怪盗だ。このままじゃ、ジョーカーの名が泣く!
「やっぱり俺は、こっちの方がしっくりくるんだよな~!」
クラリスのことなんてすっかり忘れたように、ジョーカーはまたウィンクを飛ばし、目の前の女性の笑顔に満足そうに手を取った。だが、心の奥底では、何かがもやもやと燻り始めていた。ふと頭をよぎるのは、王子と親しげに話すクラリスの姿。その光景を思い出すたびに、心がざわつく。
「なんであんな奴に…? 俺の方がいいに決まってるだろ!」
自分がこんなに嫉妬深いなんて、思いもしなかったジョーカーは、情けなさと腹立たしさで胸がいっぱいになった。「俺、こんなダサい男じゃねーのに…!」そう自分を奮い立たせるほど、クラリスに対する余裕がなくなっていく。
「彼女に一途になるなんて、俺らしくないだろ!」
自己弁護のように、ジョーカーはひたすらナンパを続けた。目の前の女性に軽い口説き文句をささやくと、再び得意げなウィンクを送る。
「お姉さん、このパーティ、退屈すぎない?俺とちょっと抜け出さない?」
『こう言っとけば、貴族の女なんてちょろいちょろい!』と軽い調子で誘いかけるジョーカー。しかし、内心では全く別のことが頭を占めていた。
「…でも、本当に俺が見たいのは、クラリスの笑顔なんだよな…。」
その瞬間、会場が突然ざわめき出した。
「え?何だ?」
ジョーカーはナンパを中断し、扉の方へ目を向けた――そして目が点になった。
「まじかよ…天使か…?」
そこに立っていたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。光を受けたドレスがキラキラと輝き、彼女の存在感を一層引き立てている。ジョーカーは思わず手に持っていたシャンパングラスを落としかけた。
「え、え、なんで俺、急に心臓バクバクしてんだ?」
焦りながら自分に言い聞かせるが、鼓動はますます早くなり、まるで世界から音が消えたかのようにその場に立ち尽くす。目がその美少女から離れず、全身が硬直してしまった。
「ちょ、ちょっと待て!この鼓動…俺が緊張してる?いやいや、そんなわけない!」
自分に言い聞かせるものの、足は勝手にその美少女へと向かってしまう。気がつけばふらふらと近づいていき、まるで引き寄せられるように彼女の前に立っていた。
「お、お嬢さん、俺と――」
お決まりの口説き文句を口にしようとした瞬間、彼女がふわりと優しく微笑み、ジョーカーに視線を向けた。その瞬間、彼の鼓動はさらに乱れ、顔が熱くなる。
しかし――その顔には見覚えがあった。
「ま、まさか…クラリス!?」
そこに立っていたのは、なんとクラリスだった。間違いない、彼女だ。しかし、普段の彼女とはまるで別人のように、大人びた雰囲気を漂わせている。
豪華なドレスが彼女の美しさを引き立て、その姿は息を呑むほどに美しい。まるで舞踏会の主役のように、周囲の視線を一身に集め、彼女の存在感は会場の空気を一変させていた。
「なんでクラリスがここに…しかも天使みたいに可愛いじゃねーか!」
ジョーカーは自分が何を言っているのかさえわからなくなり、普段のような軽口も出ず、ただ呆然と彼女を見つめていた。
「あ、あの…?」クラリスは一瞬、困惑した表情を浮かべた。
そのとき、ジョーカー――いや、今はユリウス・グレンという名の新人騎士に変装していることを、つい忘れていた。
「そ、そうだ!俺は今ユリウスだ…!」
焦りのあまり、さらに鼓動が早くなるのが自分でもわかる。まさかこんな失態を犯すなんて…!
クラリスは驚いた様子で一歩後退し、ジョーカーを見つめた。その視線にさらされ、彼は冷や汗が滲むのを感じる。どうにかこの状況を切り抜けようと頭を回すが、思考は真っ白で言葉が出てこない。
そんな彼のもとへ、突然上司や同僚たちが駆け寄ってきた。
「クラリス様!この者が無礼を働き、申し訳ございません!」
彼らは冷や汗をかきながら平謝りし、すぐにユリウス(ジョーカー)を捕まえようとする。
「ちょ、ちょっと待て!俺はただ――」
弁解しようとした瞬間、上司が冷たい目で一瞥し、低い声で言った。
「黙れ、ユリウス。クラリス様にあんなに近づくなんて…命が惜しくないのか?」
同僚たちも困惑した表情で彼を見つめている。
「お前、クラリス様だって気づかなかったのか?大丈夫か…?」
「まさかあいつがこんな無分別な馬鹿だとは…。」
「だから!俺はただ――」
必死に言い訳しようとするが、ジョーカーはすっかり取り押さえられ、同僚たちに引きずられるように会場の外へと連れ去られていった。