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第50話



「これが私…?」


クラリスは、鏡に映る自分の姿に驚きを隠せなかった。目を瞬かせ、鏡の前で立ち尽くす彼女の周囲には、数人のメイドたちが期待に満ちた表情で取り囲んでいる。まるでアイドルのファンミーティングのような光景が広がっていた。


「クラリス様、この世で一番美しいと断言できます!」

一人のメイドが声を上げると、他のメイドたちは一斉に同意し、興奮の波が広がった。


鏡の中のクラリスは普段の可愛らしい姿とはまるで違う。頬には淡い紅色がさし、唇は瑞々しいルビーのように艶やかだ。彼女の長い髪は、風に揺れるようにふんわりと巻かれ、ドレスの光沢が美しさをさらに引き立てている。


「美少女降臨ですね!」

一人のメイドが感激のあまり、両手を合わせる。中には、涙ぐむメイドまでいた。クラリスはそんな彼女たちの様子に、胸が少し締め付けられるような感覚を覚えた。


「みんな、ありがとう…」

クラリスが少し照れくさそうに微笑んだ。嬉しさとともに、みんなにこんなにも愛されているのだという実感が湧き上がってきたのだ。



***


遡ること1ヶ月前。

クラリスとアルファンは、静かな午後を共に過ごしていた。窓から射し込む柔らかな日差しが部屋を包み込み、クラリスはその穏やかな光に身を委ねるように、椅子にもたれてリラックスしていた。そんな心地よい静けさの中で、ふわりとした時間が流れていた。


しかし、突然アルファンが真剣な顔でクラリスの前に座ると、その雰囲気が一変する。


「クラリス、君に国王陛下の帰還パーティーに出席してほしい。」


その一言に、クラリスの心臓は一瞬で大きく跳ね上がった。

「え、私が…?」


長い間、部屋の中に閉じこもっていた彼女にとって、煌びやかな会場や華やかな貴族たち――それはまるで別世界の話に思えた。そんな中、自分が再びその世界に足を踏み入れることになるとは、考えただけで不安が押し寄せてくる。


「でも、私にはもう無理だと思う…」

クラリスは震える声で呟き、視線を下に落とした。あの時は、必死で「悪役令嬢」を演じ切ったけれど、元々社交の場が得意ではない。人前に立つ自信など、とうになくなってしまっていた。


自分がまたアルファンに迷惑をかけてしまうのでは――そんな思いがクラリスの胸を締め付ける。


そんな彼女の不安を感じ取ったかのように、アルファンはそっとクラリスの手を握った。

「君がいるだけで、パーティーは特別なものになるんだ。だから、来てほしい。」


その真剣な瞳に見つめられ、クラリスの心臓はドキッと音を立てた。しかし、不安は完全には消えない。

「でも、私が失敗したら?みんなの前で転んだりしたら、もう恥ずかしくて立ち直れないかも…」


アルファンは、まるでそんな心配が無意味だと言わんばかりに、静かに微笑みながら答えた。

「君が転んだら、私も一緒に転ぶよ。」


その言葉を聞いた瞬間、クラリスは思わず吹き出してしまった。

「そんなことしたら、余計に注目されちゃうじゃないの!」

笑いが抑えられず、部屋に軽やかな笑い声が響く。


「でも、ありがとう。」クラリスは微笑んで言った。彼の優しさに胸がじんわりと温かくなった。こんなにも大切に思ってくれる人がいる――その思いが、彼女に勇気を与えてくれた。


***


そして今日、運命のパーティーの日。

メイドたちは朝早くから集まり、クラリスの準備を始めていた。


「クラリス様、今日は私たちも全力を尽くします!」と、まるで戦いに臨むかのように、全員が気合を入れている。


メイドたちは、クラリスをまるで宝石のように扱いながら、手際よく彼女の身支度を整えていく。誰もが真剣な表情で、最善を尽くそうとする気持ちがひしひしと伝わってきた。


アルファンが用意したドレスに袖を通す。クラリスの優雅さを引き立て、裾がふわりと揺れ、風に舞う花びらのようだ。「まるで、天使がこの世に降り立ったかのよう!」と一人の使用人が言うと、また皆が一斉に頷いた。


「もう完璧です!」

「クラリス様の美しさが、国中に響き渡ることでしょう!」

メイドたちは自分たちの成果に胸を張り、微笑み合っていた。


その言葉に、クラリスは照れくさそうに微笑み、そっと鏡に映る自分を見つめたる。


クラリスはまるで別人になったかのようで、内心ドキドキしながらも「こんなの夢みたい…」と照れ隠しに笑った。


その美しい微笑みが、会場に集まるすべての人々の心を奪ってしまうのは、時間の問題だった。


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