「リオネル様が黒幕かもしれない?」
クラリスは驚きに目を大きく見開き、目の前で朝食を取るアルファンに問いかけた。
「ああ、裏でイリスに指示を出していたのも、リオネルだろう。報告によれば、イリスとは3年前から接触していて、何度か密会している姿も確認されたらしい」
冷静に話すアルファンの言葉を聞きながら、クラリスの胸は重くなっていった。
「イリス…」
ふと、クラリスの脳裏に、アルファンとイリスが笑い合っていた過去の光景が鮮明に蘇る。
親密そうに寄り添う二人の姿が、今もなお彼女の胸を締めつける。言葉にできない感情が一気に胸を満たし、クラリスは無意識のうちに唇を強く噛みしめていた。
その瞬間、アルファンがそっと彼女の手を握りしめた。
「すまない…過去のことは、どれだけ謝っても取り返しがつかない。」
アルファンはまっすぐ彼女を見つめ続ける。
「でも、今の私には君しか見えない。君だけなんだ、クラリス。それは、これからもずっと変わらない」
彼の声は真剣で、その強い想いがまっすぐにクラリスの心に響いた。
一瞬、心臓が止まったかのような感覚――。
――今は私だけしか見えない?
クラリスの頬が熱くなり、胸がドキドキと高鳴り始める。
全身が熱を帯び、顔全体が赤く染まっていくのを感じながら、言葉をつむぐ。
「な、なに言ってるんですか…」
照れ隠しに呟いてみたものの、赤く染まった頬はどうしようもなく、隠しきれない。視線を逸らそうとするが、アルファンの手がさらに彼女の手をぎゅっと強く握りしめた。
「君を危険に晒すわけにはいかない。だから、しばらくはこの部屋から出ないでくれ」
真剣な彼の表情と、その優しくも力強い言葉に、クラリスの心はじんわりと温かくなった。
また閉じ込められるのか…と、少し不満を感じながらも、彼の過保護さが不思議と愛おしい。
「…わかったわ。でも、殿下も無茶しないで」
小さな声で、精一杯の反抗を見せるクラリス。その言葉に、アルファンが微かに笑ったような気配がした。
「心配してくれてるのかい?クラリス」
突然、アルファンの吐息が耳元に触れた。
驚いて振り向こうとした瞬間、彼はいつの間にか背後に回り込み、優しく囁いている。
「えっ…!?」
クラリスの心臓が一気に跳ね上がる。アルファンの低く甘い声が、まるで彼女を包み込むように耳元に響き渡った。
「君が私のことを心配してくれるなんて、嬉しいよ」
その囁きは、甘くて誘惑的だった。
全身が熱くなるのを感じながら、クラリスは上目遣いで彼を見つめた。瞳がうるんで、今にも涙がこぼれそうになる。
「あなたに何かあったら…私…」
喉の奥で言葉が詰まる。彼女の視線がアルファンの瞳と交わり、彼の目が大きく見開かれる。
そして、クラリスをじっと見つめたまま、彼は何かを決意したように見えた。
その瞬間、二人の間に静寂が訪れた。
息をすることさえ忘れそうなほどの静けさが、まるで世界が二人だけになったかのように包み込む。
クラリスの胸の鼓動が高鳴り、彼の瞳に吸い込まれるように見つめ合った。
アルファンの手がそっと彼女の頬に触れた。
その指先の温かさに、クラリスは息を呑んだ。
「クラリス…」
彼の低い囁きが、耳元に柔らかく響く。
名前を呼ばれるだけで、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚が広がった。
アルファンがゆっくりと顔を近づけ、彼の視線が一瞬、彼女の唇に落ちて、それからまた彼女の瞳を見つめる。
距離がどんどん縮まっていく――。
もう、逃げられない。クラリスは目を閉じるかどうか迷いながらも、その場に固まってしまう。
彼の手が頬を包む感覚だけがリアルで、全身が熱を帯びていくのを感じた。
アルファンの顔がすぐ目の前に迫り、唇が触れるか触れないかのところで、彼の吐息が彼女の唇にかかった。