「え、えっと…殿下?」
「どうした?」
アルファンは平然とした様子で、クラリスを膝に乗せたまま、しっかりと腰に手を回している。彼の手の温もりが伝わるたび、クラリスの心臓は激しく鼓動を打ち、頬はどんどん熱を帯びていった。
「夫婦って…こういうことまでしないといけないんですか?」
クラリスは恥ずかしさのあまり、目を泳がせながら小声で尋ねた。心臓が飛び出しそうな感覚だが、アルファンはそんな彼女の様子を楽しむかのように、余裕の笑みを浮かべている。
「当然だろう。夫婦が円満だというところを、皆に見せつけないとな。」
心臓のドキドキは止まらず、顔が真っ赤になるのを隠せないままだ。
ここは、アルファン専属の騎士たちの稽古場。クラリスは、彼が騎士たちに稽古をつけているところをこっそり見に来たつもりだった。しかし、運悪くというか、運よくというか、彼に見つかってしまい、いつの間にかこうして彼の膝の上に座っている状況に…。
— どうしてこんなことになっちゃったの…?
ふと、クラリスは数日前の出来事を思い出した。
あの日、王宮での謁見が終わった後から、アルファンの態度が急に甘々になったのだ。まるで別人のように変わった彼に、クラリスは戸惑うばかりだった。
「クラリス、今日は特別に美しいな。まるで空から降りてきた天使のようだ…いや、女神か?」
アルファンがふいに耳元で囁いた。彼の吐息がかかり、クラリスの顔はさらに真っ赤になる。
「…急に何言ってるんですか…っ!」
クラリスは照れ隠しにそっけなく返すが、アルファンは楽しげに笑って、さらに近づいてくる。心臓の音がますます速くなり、胸の鼓動が彼に伝わってしまうんじゃないかと不安になるほどだ。
クラリスは朝、メイドたちに身支度を整えてもらったときのことを思い出す。いつもより入念に髪を整えられ、メイクもばっちり。まるで舞踏会にでも行くような気合いの入れようだった。
「えっ、ちょっと派手じゃないかな…?」と心配していたのだが、メイドたちは「大丈夫です、奥様。今日は大切な日ですから!」とやたらに張り切っていた。
そんな風に変身させられた自分を思い浮かべると、余計に恥ずかしさがこみ上げてくる。アルファンが見ていることを意識して、そわそわしながら頬を赤らめていた。
「こんなに美しい妻がいるとは、皆が嫉妬しているだろうな。」
アルファンは、さらに体を近づけ、彼女を優しく抱きしめた。
「もう…恥ずかしい…。」
クラリスは小さく呟いたが、アルファンは優しい笑みを浮かべながら、彼女をさらにぎゅっと抱き寄せた。
「恥ずかしいか?でも、私はキミとこうしているときが一番幸せなんだ。」
アルファンの言葉に、クラリスの胸はさらに高鳴った。彼の低い声と甘い言葉に包まれ、クラリスはドキドキしっぱなしだった。
— 本当に、甘すぎる…!
でも、嫌じゃないなんて、悔しい…。
ちらりとアルファンの顔を盗み見すると、彼はどこか楽しげで、むしろ余裕すら感じる表情をしている。それがまたクラリスを恥ずかしくさせ、ますます自分の体がアルファンに寄り添ってしまう。
一方で、騎士たちは遠くから二人の様子をちらちらと見ながら、微笑を浮かべているのが目に入った。
それに気づいたクラリスは、一気に顔が熱くなり、恥ずかしさのあまりアルファンの腕から逃げ出そうと身をよじった。だが、アルファンはしっかりと彼女を抱き寄せ、逃がさない。
「殿下…みんな見てますわ…」
クラリスはそっと顔を上げ、周りの視線に気づいて顔を赤らめる。けれど、アルファンはまるで気にした様子もなく、穏やかな笑みを浮かべたままだ。
「私たちが仲睦まじい姿を見せれば、皆も安心するだろう。」
— 安心って、これのどこが?
クラリスは心の中で突っ込んだが、アルファンはまるで彼女の動揺を楽しんでいるかのように、さらに優しく彼女を抱き寄せた。
「も、もう…っ、どうにかなっちゃいそうです…」
小声で呟いたクラリスの言葉は、もちろんアルファンには届いているはずだ。しかし、彼は楽しげに目を細め、彼女の額に軽くキスを落とした。
「な...殿下?! 今、なにを...!」
クラリスの顔はまるで火照ったように真っ赤になり、「心臓がいくつあっても足りないわ…!」と心の中で悲鳴を上げた。