大広間には重苦しい空気が漂い、ラウレンツ王も側近たちも落ち着きなく座っていた。視線は何度も扉に向けられ、誰もが「まだか、まだか」と内心そわそわしている様子がありありと見て取れた。
王はしびれを切らしたように手元の時計をちらりと見つめ、ため息をついた。
「クラリスはまだか?」
「はい、陛下…準備にもう少し時間がかかっているようです…」
アルファンは申し訳なさそうに答えたが、内心では「クラリス、頼むから早くしてくれ」と願っていた。
その瞬間、扉が静かに開いた。部屋中に緊張が走る。全員が息をのんでその方向を見つめる。ついに、クラリスが現れたのだ。
彼女は、まるで舞台の主役が登場するかのような堂々たる姿で現れた。高貴なドレスが揺れ、その背筋はピンと伸びている。広間の空気が一瞬で変わり、彼女を中心に集中する。
「ラウレンツ陛下、はじめまして!私はクラリスと申します。」
彼女の声は広間の隅々まで響き渡り、その堂々たる態度に誰もが一瞬呆然とした。まるで悪役令嬢が舞台のスポットライトを浴びるように、その瞬間を支配していた。
アルファンは、そんなクラリスを隣で見て目を丸くする。「え?そんなに気合い入れる場面だったか?」と内心で突っ込むが、口には出せない。彼女がこうしているのには理由があるに違いない、と彼も信じたかった。
「本日はこのようにお招きいただき、感謝申し上げますわ。」クラリスはニコッと微笑んだ。その微笑みが広間に穏やかな空気をもたらしたかのようだった。
しかし、次の瞬間、彼女が口を開くと、場の雰囲気は一変する。
「ところで、陛下。今日はどのようなご用件でお呼びいただいたのでしょう?断罪でも離縁でも、受けて立ちますわよ!」
その発言に、広間が凍りついた。王も、側近たちも、まばたきすら忘れて彼女を見つめている。ざわめきが広がり、誰もが「い、今なんて言った?」と目で問いかけ合っていた。
一方のクラリスは、自分の堂々たるセリフに満足げな表情を浮かべ、再び胸を張る。「どうせこんなに大勢集まっているのだから、今日こそ断罪されるに違いないわ」と、誇らしげに振る舞っている。周囲の反応を見て、彼女は「私、完璧にこなしたわね」とすっかり自信満々だった。
アルファンは額に手を当て、心の中で深いため息をついた。彼女がとんでもない勘違いをしていることに、やっと気づいたのだ。