「ああ…、緊張した」
アルファンはクラリスの部屋を出ると、廊下で思わず息をついた。肩の力がすっと抜け、深呼吸をしてようやく自分を取り戻す。
心臓がずっとバクバクしていたが、今になってようやく静まった気がする。
( なんとか言えたぞ…!)
父、つまり国王にクラリスを紹介する。王に妻を紹介するという重責に、アルファンは知らず知らずのうちに緊張していたのだ。
夫として、彼女を堂々と紹介できる立場にいることに少し誇らしさを感じつつも、どこか照れくさい気持ちも入り混じっていた。
それでも、彼の胸には満足感があった。王も、クラリスのことをすでに知っていた。彼女が自ら悪役を演じてアルファンを救ったその勇敢な行いは、国中に知れ渡っていたからだ。
王はここ最近、しつこいくらいに「クラリスとはいつ会えるのだ?」と聞いてきていた。アルファンはそのたびに、少し恥ずかしそうにして「もう少し、もう少し…」と先延ばしにしてきたが、ついにその日が訪れた。
廊下を歩きながら、アルファンはふと窓の外に目をやった。城の外には、いつものように民衆が集まっている。
彼らはクラリスの名前を呼び、まるで彼女が王国の象徴であるかのように歓声を上げていた。最初は驚いたが、今ではその光景が日常の一部になりつつある。
「そういえば、クラリスのファンクラブもできたとか…」
アルファンはつい笑いをこぼす。まさか自分の妻がここまで人気者になるとは想像していなかった。
だが、それはもはや噂ではなく現実だ。窓から見える民衆の中には、クラリスの顔がプリントされたうちわを持つ人々が集まっている。さらには、クラリスとお揃いの髪型や服装をしている者までいた。
彼女はもうただの王妃ではない。彼女は民衆の希望だ。そして、彼女は私の――
そう思うと、アルファンの胸がきゅんと締め付けられる。
「ああ、私のクラリスが尊い…!」
アルファンは思わず声に出してしまった。その瞬間、後ろから小さな咳払いが聞こえてきた。
振り返ると、側近の一人が困ったように笑みを浮かべている。
「…聞いていたのか?」
「いえ、何も聞いておりません、殿下。ただ、クラリス様への深い愛情だけは十分に理解しました。」
アルファンは顔を手で覆い、壁にさらに深くもたれた。赤面しているのを隠すかのように。
「ああ、そうだよな…お前は何も聞いていない。絶対に誰にも言うなよ?」
「もちろんでございます、殿下!」側近は慌てて敬礼し、その場を足早に去っていった。
アルファンはひとりになり、ため息をつきながら天井を見上げる。
ほんの少しだけ顔に浮かぶ笑みは、彼がどれだけクラリスを愛しているか、何よりも雄弁に物語っていた。