アルファンは、小さな丸テーブル越しに座るクラリスから目を離せなかった。彼女がフォークを手に取ると、ふとその手が止まり、目の前の料理にじっと集中している。
一口食べると、クラリスの顔が一瞬、嬉しそうにほころんだ。その無防備な表情に、アルファンの胸はきゅっと締め付けられる。しかし次の瞬間、クラリスはすぐに真剣な表情に戻り、まるで自分の感情を隠そうとしているかのようだった。
(な、なんだ今のは…!)
心の中で叫ぶ彼は、必死に冷静さを保とうとするが、鼓動は抑えられない。ついに、クラリスがふと彼を見つめた。
「殿下、大丈夫ですか?」
彼女が少し首を傾げ、心配そうにこちらを見つめた。アルファンの心臓は、まさに致命的な一撃を受けたかのようだった。
「…いや、何でもない。」
どうにか平静を装おうとしたものの、顔が熱くなり、にやけを抑えきれない。
「本当に?顔が…なんだか苦しそうですけど…」
クラリスが眉をひそめ、彼の顔に近づいた。
( 近い!近い!顔が近すぎる!! )
アルファンは頭の中で叫びながら、完全に硬直したままだった。
「もしかして…食べ過ぎですか?」
心配そうに問いかけるクラリス。焦りすぎて、アルファンは思わず口からおかしな言葉が飛び出す。
「えっ?いや、全然、全然そんなことは…!」
言葉はどんどん混乱し、冷静さはどこへやら。
「まさか…おかしなものでも食べたのかしら?」
クラリスは、アルファンの言動に少し眉をひそめながら、困惑した表情を浮かべた。
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その日の昼、アルファンの側近たちは緊張した面持ちで彼の部屋を訪れた。
普段、アルファンは訓練中こそ厳しいが、その冷静で鋭い判断力と圧倒的な戦闘技術で、彼らにとって絶対的な信頼を寄せる存在だ。
「失礼いたします、殿下。
お時間よろしいでしょうか?」
そんな絶対的な忠誠を誓うアルファンの部屋へと足を運ぶ彼らだったが、今日は少し様子が違った。ある種の緊張が空気を包んでいた。側近の一人が、手に汗を握りながら恐る恐る口を開いた。
「あの…クラリス様が目を覚まされて1ヶ月が経ちましたが…」
彼は周りを見回しながら、顔色をうかがっている。恐らく何か言いたいのだろう。
アルファンは無表情のまま、彼をじっと見つめる。
( 私が怖い顔をしているのか?いや、普通だろう…多分。)
側近は怯えながらも、意を決したように言葉を続けた。「それで、我々もクラリス様にお礼をしたいのですが…」
アルファンは短く答えた。
「それならわたしからクラリスに伝えておく。さがれ。」
「い、いえ、自分の口から言いたいのですが…」
その瞬間、アルファンの目がギロッと鋭くなった。ひいっと声を上げ、彼らが飛びのく。
「クラリスは部屋から出ることはない。」
「えっ…?」
側近たちからは、驚きの声が漏れた。
アルファンは平然と続ける。
「外は危険だ。クラリスはか弱く、あのように可愛らしい。すぐに誰かに連れ去られてしまうだろう。だから、わたしが守ってあげねばならん。」
その言葉に、彼らはただ無言で頷いた。彼の表情は真剣そのもので、冗談の一欠片も感じられない。
「「「殿下、やばい…」」」
その場に居合わせた誰もが、心の奥底でそう思わずにはいられなかった。