クラリスはベッドから降り、慎重に部屋の扉を確認した。頑丈で重厚なその扉は、まるで「ここから逃げるのは無理だ」と嘲笑っているように思える。自分の心の迷いが、そう見せているのかもしれない。
「さて、鍵はどこだろう…」彼女は自分に言い聞かせるように小さくつぶやき、部屋の隅々を探り始めた。
まるで探偵にでもなったかのように、何か手がかりを見つけるたびにほんの少しだけ心が躍る。
すぐに鍵を見つけ、ついでに「これさえあれば野垂れ死にはしないだろう」と思えるほどの金目のものも掻き集めて荷物に詰め込んだ。
あの夜、ジョーカーと一緒に隠し扉から外へ出たことを思い出す。逃げ道は分かっている。
「生死をさまよって目が覚めても、誰もいないなら… …迎えられてないってことだしね。」 その言葉が、静かな部屋に虚しく響く。
ふと、アルファンの顔が一瞬だけ脳裏をよぎった。
最後に彼が心配そうに彼女を覗き込んでいたあの瞬間が、鮮明によみがえる。
あのとき、少しは私に好意を持ってくれていたのかもしれない――そう思ったけれど、現実はそんなに甘くないわよね。
その顔を振り払おうとするも、頭の中で渦巻く思いが簡単には消えてくれない。
「もう忘れよう、あんな思いはこりごりだ!」
彼女は自分にそう言い聞かせ、無理やり気持ちを切り替えた。
アルファンには死亡フラグが立っている――彼を救おうとすれば、自分がどうにかなってしまいそうだった。
彼に振り回され、自分の命まで削られるなんて冗談じゃない。
今はもう他人として生きていくのが最善だ。
「もともと強引に結ばれた婚姻関係だったし」そう、自分に言い聞かせる。
胸の奥深くには、あの苦しみと絶望の影がまだ色濃く残っていた。
アルファンと共に過ごした日々の中で受けた傷は癒えず、もう誰にも心を開きたくないという気持ちがあった。
彼を救いたい気持ちも確かにあった。だが、同時に、彼を救うほど自分が強くないことを痛感していたのも事実だ。
とにかく、彼女の心は深く傷ついていた。胸を締めつけるようなこの悪夢の場所から、一刻も早く逃れたいというのが正直なところだった。
彼女は深呼吸をし、もう一度扉の方に向き直る。
「さあ、自由になろう!」
クラリスは軽く笑みを浮かべながらゆっくりと動き始めた。