どれだけの日数が過ぎたのか、クラリスにはもうわからなかった。
薄暗い牢の中で、時間は無情にも流れ続け、昼と夜の区別さえもつかなくなっていた。体は冷たく重く、心もまた冷え切っていく。
石造りの牢の壁には、わずかな湿気がまとわりつき、カビ臭さが漂っている。彼女はその場所に押し込められ、まるで忘れ去られたように孤独を抱え込んでいた。しかし、その沈黙が、外からの喧騒によって打ち破られた。
「ついに…始まったのね。」
彼女の耳に届いた騒がしい声。準備が整ったのだろう。
アルファンを陥れるための策略が、今、動き出そうとしている――クラリスはそれを悟っていた。
目を閉じ、頭の中でその物語を何度も繰り返しながら、冷静に、そして少しの絶望を含んだ感情で、今起こるであろう結末を予感した。
ゆっくりと、彼女は冷たく硬い石の床から起き上がる。
長い間、無力感に押し潰され、ただ眠り続けることで日々をやり過ごしていた彼女だったが、その瞬間だけは、内に残るわずかな使命感が、心の奥底から彼女を奮い立たせた。
「これで終わらせるわけにはいかない…」
自分にそう言い聞かせるように、手足の鈍い感覚を無視して立ち上がる。動くことさえ億劫だったはずなのに、今は何かが彼女を突き動かしている。
冷たい鉄格子に触れると、彼女はそこにまだ残された自分の力を感じ取った。震える指先が、冷たい金属に触れる感覚を伝えてくる。
もう時間がない――
彼女の中で焦りが大きくなりつつあった。
深呼吸をしながら、頭を冷やす。冷静にならなければならない。どうにかして、この牢から抜け出さなければならないのだ。
彼女は周囲を慎重に見回した。遠くから、看守たちの足音や話し声がかすかに聞こえてくる。今が唯一のチャンス。
牢の鍵は固く閉ざされているが、数日前、食事を運んできた看守が鍵を適当に置き忘れたことを、クラリスは覚えていた。あの時は、どうでもよかった。しかし、今はその鍵が彼女の命綱だ。
クラリスは、寝床の藁を手でかき分けていく。手探りで探し、やがて見つけたのは、針金――牢に入れられる前に身に着けていた髪飾りの一部だ。
針金は細く、柔軟性があるが、決して折れない。その針金を手に取ると、彼女は鍵穴に慎重に差し込んだ。ゆっくりと、記憶を頼りに動かしながら、彼女の呼吸は荒くなっていく。
鼓動が耳の奥で強く響き、失敗することへの恐怖が彼女を苛んだ。
――失敗は許されない。
この牢獄から抜け出さなければ、すべてが終わる。彼女が思い浮かべるのは、ただ一人、アルファンの姿だけだ。カチリ、と小さな音が響いた。鉄格子がわずかに動き、クラリスの心に希望の光が差し込む。
「やった…!」
彼女は慎重に、静かに鉄格子を開け、足を外へと踏み出す。通路は冷たく、薄暗い。彼女は息を整え、音を立てないように忍び歩きながら、看守の目を盗む。
彼女の心臓は次第に鼓動を速め、耳鳴りのようにその音が響き渡る。壁の隙間から忍び込む冷たい空気が肌を撫でるたび、全身に緊張が走る。外に出るには、あと少し。
だが、その道のりは危険に満ちていた。見つかれば、すべてが終わる。しかし、進むことを止めるわけにはいかない。
クラリスは身を低くして、慎重に音を消すよう一歩一歩進む。彼女の瞳には、ただ一人の姿が浮かぶ。
アルファン――
「待っていてね…」
彼女(クラリス)の瞳は、怪しく光っていた。