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第19話



クラリスはその夜、屋敷の廊下をひっそりと歩いていた。冷たい石の床に足音はほとんど響かず、心臓の鼓動だけが耳に大きく響く。手のひらには冷や汗がじわりと滲み、心の動揺が身体に如実に現れていた。


廊下の両側にはキャンドルの柔らかな光が壁を照らし、長い影を落としている。その影に寄り添うように、イリスの寝室のドアへと近づいていった。


「本当にイリスが殿下(アルファン)を破滅させようとしているの…?」


疑念が心を繰り返し襲い、ジョーカーとの会話が鮮明に蘇る。


「イリスという女性が、アルファン王子の王位継承権を奪う計画を立てているらしい」

その言葉が記憶に深く刻まれていた。


( 何かの間違いよね?だって彼女はこの物語の主人公よ? )


ヒロインがそんな悪事に手を染めるなんて、考えられなかった。目の前に迫っているのはただの悪夢のようだ。


心臓は激しく鼓動を打ち、胸の奥から込み上げる不安が全身を覆い尽くす。ドアの前で立ち止まり、深呼吸をしてみる。手のひらから伝わる冷や汗と震えを抑えながら、ドアノブに触れた。その手が微かに震えながらも、静かにドアを開ける。


わずかな隙間から部屋の中を覗くと、イリスの部屋は予想に反して冷酷な雰囲気に包まれていた。中央には乱雑に積まれた文書が山のように広がり、その上にキャンドルの光が揺らめいている。影が文書の上でゆらりと揺れ、不安を増幅させた。


恐る恐る部屋に足を踏み入れると、心臓が激しく鼓動し、全身が冷たい汗で覆われた。静寂の中で、呼吸の音だけが大きく感じられた。


慎重に机に近づき、文書の束を手に取る。手が震え、指先が冷たく感じる。束を一枚一枚めくっていく中で、その筆跡がイリスのものであることを確認した瞬間、心が凍りついた。


文書には、アルファン王子の暗殺計画が詳細に記されていた。生々しい暗殺の手順や、イリスが共謀している使用人の名前までが記載されている。内容を読み進めるにつれて、目は次第に広がり、手がますます震えていった。


「イリスが…まさか…」その言葉が口をついて出る。


信じられない現実が目の前に広がり、イリスの可憐な笑顔が脳裏に浮かぶ。それは今や、冷酷な計画を隠す仮面に過ぎなかった。


心の中で大きな衝撃が広がり、絶望と怒りが渦巻く。文書を握る手のひらには冷や汗が滲み、全身が震えていた。


『イリスが…これほどまでに…』その思いが胸の中で爆発しそうになる。私の心は破裂しそうなほどの圧力に押し潰され、絶望と怒りが入り混じった感情に飲み込まれていた。


緊迫した瞬間、何とか意識を取り戻そうとするが、その衝撃からただ呆然と文書を見つめるしかなかった。


「だから…すべてアルファン様は死亡ルートだったの?」


そう呟いた瞬間、背後からわずかな物音が聞こえた。振り返ると、暗闇の中で冷ややかな視線を向けるイリスが立っていた。その目には冷徹な光が宿っており、恐怖が走る。全身が硬直する感覚を覚えた。


「あなた…見たわね」イリスの声が冷たく響き、その冷酷さが私の心に深く突き刺さった。


「どうして?!集会に行っているはずじゃ…」驚きと混乱で、頭が真っ白になる。


「私の部屋近くであなたの姿を見たという通達があったから、まさかとは思ったけど。」イリスの声には嘲笑が混じり、その冷酷さが心を一層冷たくする。確信する—イリスが本当にアルファン様を狙っているのだと。


「あなたの悪事は暴いてみせるわ」と、毅然とした決意を示そうとする。


その瞬間、イリスの口から鋭い悲鳴が突き刺さるように響き渡った。金切り声が空気を切り裂き、鼓膜を揺るがす。


突然、廊下から足音が近づいてきた。バンッ、とドアが激しく開く。息が一瞬で止まり、狂気に満ちた兵士たちの姿が目に飛び込んできた。その背後には、鋭い眼差しを持つアルファンが立っていた。彼の瞳には、今にも私を切り裂かんとする殺意が宿っている。


彼のただならぬ気迫に、思わずごくっと唾を飲み込む。


「クラリス、お前を処罰する」と、彼の冷たい言葉が耳に届いた。その言葉には、容赦ない怒りと決然とした冷たさが含まれていた。


「私は何もしていません!」驚きと恐怖で声を震わせながら反論しようとするが、兵士たちは冷静に私の腕を掴み、強引に拘束した。手のひらから冷や汗が流れ、心臓が激しく鼓動を打つ。


「冤罪よ!イリスが…!」必死に自己弁護を試みるが、その声は空しく響くばかりだった。イリスの巧妙な策略によって操作された証拠に対抗するには、私の力はあまりにも不足していた。


イリスの冷酷な微笑みが目に浮かぶ。絶望と悔しさが入り混じり、涙が溢れ、抑えきれない感情が込み上げてくる。


「どうして、どうしてこんなことに…」


怒りがこみ上げ、無力感が押し寄せる中で、涙が止めどなく流れる。


兵士たちに囲まれ、牢獄へと連行されるその瞬間まで、ただ涙を流しながら、自らの無力感と切なさを噛み締めるしかなかった。


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