今日は推しとの結婚式。
なのに、まったく心が躍らない。
白い大理石の床は、冷たく無表情に足元に広がり、金色の装飾も、まるで「私はただの飾りです」とでも言いたげに、無機質に輝いている。
天井からぶら下がるシャンデリアも、普段なら「おおっ!」と感動するところなのに、今日はまるで「ごめん、光を放つ気力ないんだわ」と言わんばかりに、その光は虚しく散っていく。
豪華な会場のはずなのに、どこにも温かみが感じられない。
しんと静まり返った空間には、笑い声どころか、息をつく音すら聞こえない。
集まったゲストたちは全員、仏頂面。
なんか、みんな「義務で来ました」って顔してるし、クラリスに向けられる視線が鋭く突き刺さる。
祝福されてる感じじゃなくて、「なんでコイツここにいるの?」っていう無言の圧力がすごい。
ふと前を見ると、アルファン様がそこに立っている。
相変わらず威厳に満ちた立ち姿で、誰もが思わずひれ伏しそうなオーラ。
だけど、その目…やけに冷たい。
いや、冷たすぎない?
この結婚がただの「仕事の一部」であるかのように、完璧に感情を押し隠した顔でこちらを見ている。
「もうちょっと、なんか笑顔とか…ないの?」と心の中でツッコミを入れてしまう。
神父の声が、静寂を破って響く。
「クラリス・ド・ラフィネ、あなたはアルファン・フォン・エルトリアと、喜びも悲しみも分かち合い、共に歩むことを誓いますか?」
その瞬間、心臓がドキッと大きく跳ね上がる。
いやいや、こんな緊張する場面で「誓います」なんて言わなきゃならないなんて!
会場中の冷たい視線がさらにプレッシャーをかけてくる。
しかも、異国の花嫁だし…完全に浮いてる感が否めない…。
でも、私はやるしかない。
深呼吸をして、腹をくくる。
そして、冷静に「誓います」と口にした。
すると、会場はシーンと静まり返る。
周りを見ても、みんな無表情。
心の中では「こんなはずじゃなかったんだけど!」と叫びたいけど、顔には出せない。
アルファン様は今も冷たい目で私を見ている。
その感情を読み取ろうとするのにも、もう疲れてきた。
でもね、これは私が選んだ道だし、アルファンへの愛もちゃんとある。
だから、どんな冷たい視線だって、乗り越えてみせる…はず。
そう自分に言い聞かせながら、無理やり笑顔を作りつつ思う。
「でも、やっぱり『綺麗だよ』とか、一言くらいあってもいいでしょ!」