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第10話


今日は推しとの結婚式。

なのに、まったく心が躍らない。


白い大理石の床は、冷たく無表情に足元に広がり、金色の装飾も、まるで「私はただの飾りです」とでも言いたげに、無機質に輝いている。


天井からぶら下がるシャンデリアも、普段なら「おおっ!」と感動するところなのに、今日はまるで「ごめん、光を放つ気力ないんだわ」と言わんばかりに、その光は虚しく散っていく。


豪華な会場のはずなのに、どこにも温かみが感じられない。

しんと静まり返った空間には、笑い声どころか、息をつく音すら聞こえない。


集まったゲストたちは全員、仏頂面。

なんか、みんな「義務で来ました」って顔してるし、クラリスに向けられる視線が鋭く突き刺さる。


祝福されてる感じじゃなくて、「なんでコイツここにいるの?」っていう無言の圧力がすごい。


ふと前を見ると、アルファン様がそこに立っている。

相変わらず威厳に満ちた立ち姿で、誰もが思わずひれ伏しそうなオーラ。


だけど、その目…やけに冷たい。

いや、冷たすぎない?


この結婚がただの「仕事の一部」であるかのように、完璧に感情を押し隠した顔でこちらを見ている。


「もうちょっと、なんか笑顔とか…ないの?」と心の中でツッコミを入れてしまう。


神父の声が、静寂を破って響く。


「クラリス・ド・ラフィネ、あなたはアルファン・フォン・エルトリアと、喜びも悲しみも分かち合い、共に歩むことを誓いますか?」


その瞬間、心臓がドキッと大きく跳ね上がる。

いやいや、こんな緊張する場面で「誓います」なんて言わなきゃならないなんて!


会場中の冷たい視線がさらにプレッシャーをかけてくる。

しかも、異国の花嫁だし…完全に浮いてる感が否めない…。


でも、私はやるしかない。


深呼吸をして、腹をくくる。

そして、冷静に「誓います」と口にした。


すると、会場はシーンと静まり返る。

周りを見ても、みんな無表情。


心の中では「こんなはずじゃなかったんだけど!」と叫びたいけど、顔には出せない。

アルファン様は今も冷たい目で私を見ている。


その感情を読み取ろうとするのにも、もう疲れてきた。


でもね、これは私が選んだ道だし、アルファンへの愛もちゃんとある。

だから、どんな冷たい視線だって、乗り越えてみせる…はず。


そう自分に言い聞かせながら、無理やり笑顔を作りつつ思う。


「でも、やっぱり『綺麗だよ』とか、一言くらいあってもいいでしょ!」

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