振り返った瞬間、思わず息を飲んだ。目の前に立っていたのは――アルファン様だった。
光の中に立つ彼はまるで、神話に登場する英雄のように輝き、視界をすべて覆い尽くしていた。その圧倒的な存在感に、心臓が跳ねるのを感じ、胸が喜びと痛みに引き裂かれる。
アルファン様…!
思わず心の中で声を上げた。涙がにじみ、感情が押し寄せる。何度も夢に見た光景…アルファン様が私を助けに来てくれる――その瞬間が、現実のものとなったのだ。胸が高鳴り、喜びで震える。目の前に、愛しのアルファン様がいる…。
「その手を離せ!彼女を解放しろ!」
ジョーカーの動きに対抗するかのように、アルファンは素早く剣を抜き、鋭い音が空気を裂いた。剣の輝きがジョーカーのすぐ近くで煌めき、ジョーカーの動きが一瞬止まった。
「彼女を離せ!さもなくばこの剣で斬る!」アルファンの言葉は力強く、怒りがはっきりと伝わってきた。
彼がさらに一歩踏み出すと、ジョーカーはクラリスをさらに強く抱きしめた。耳元で彼の囁きが聞こえる。
「1.2.3で飛ぶぞ」
その言葉が耳に残る前に、クラリスは瞬間的にジョーカーを突き飛ばし、アルファンの胸へと飛び込んだ。
「クラリス…なんで…」
ジョーカーの驚きと悲しげな声が後ろから聞こえてきて、一瞬、胸が痛んだ。「ジョーカー、ごめんなさい…でも、私はアルファン様を選ばなければならないの。」と、心の中で謝罪した。
その瞬間、背後で兵士たちの足音が響き渡り、ジョーカーはどうにか逃げ延びたようだった。彼女はホッとし、アルファンに助けてもらったことへの感謝を伝えようと顔を上げた。
しかし、彼は一瞬驚いたようにクラリスを見つめると、すぐにその表情は厳しいものに変わり、彼女に向けられた優しさは一瞬で消え去った。
「…え?」
予想外の反応に、クラリスは言葉を失った。何か間違いでもあったのだろうか。彼は冷たい怒りを宿した目で、こちらを責めるかのように見つめている。
「やっとジョーカーを捕まえるチャンスだったのに…余計なことをしたな。」
その言葉が胸に突き刺さる。私のしたことが間違いだったというの?彼の冷たさに、胸が締め付けられた。何が起こっているのか、なぜ彼がこんなにも怒っているのか理解できず、ただ混乱が広がっていく。
「これから君は私と結婚する。もう逃げられない。」
アルファンの言葉は冷酷で、先ほどの英雄的な姿とはまるで別人だった。守ってくれると思っていた彼の言葉が、まるでクラリスを縛り付ける鎖のように感じられた。胸の中で不安と困惑が渦巻き、彼の本当の気持ちがわからず、ただ震えていた。
後に知ることになるが、この国には「命を懸けて助けた女性を娶る」という古い慣習があったという。彼はクラリスを救ったことにより、彼女との結婚を強いられる立場になり、怒りはその重荷からくるものだったのだ。
それでもクラリスは、なぜ彼がこんなにも冷たく接してくるのか理解できなかった。ただ、これから運命がさらに絡み合い、複雑さを増していくことだけは、はっきりと感じていた。
「どうして…こんなことに…」
こうしてクラリスは、未来の見えない深い闇へと、一歩踏み入れてしまったのだった。