微かな朝の光が、薄暗い部屋にぼんやりと差し込んでいた。冷たいタイルの床に、鉄格子の窓から細い光が射し込み、無機質な空間をいっそう冷たく、無情に映し出している。目を開けると、その冷たい光景が、今の私の境遇を改めて突きつける。
ここは、まさに「監禁」状態。部屋はベッドとシャワー、洗面所が一体化した簡素な造りで、外には常に護衛が立っている。時が経つ感覚も曖昧なまま、日々はただ無味乾燥に過ぎ去っていく。
気づけば、もう一ヶ月。まともに会話をする相手もおらず、ただ一人、孤独と不安の中で過ごす日々。
鏡を見れば、そこには美しい少女が映っている。長いまつ毛に、くっきりとした二重の瞳、陶器のような白い肌。その顔立ちを見るたび、私は敵国の侯爵令嬢、クラリス・ド・ラフィネとして転生してしまった現実を突きつけられる。
その一方で、心の奥では、愛しのアルファン様と結ばれるかもしれないという希望が高まっていた。彼と共に歩む未来、その暖かな光景が瞼の裏に浮かぶたびに、不安は少しずつ薄れていく。
「アルファン様…」
その名を心の中で呟くだけで、胸の奥にぽっと小さな灯がともる。うん、どんな困難が待ち受けていようとも、私は彼のためにこの手で未来を掴み取る!強い決意が私の中に芽生えた瞬間――
バンッ!
耳をつんざくような爆発音が響き渡り、驚いて身を強張らせた。遠くから大地が軋むような音が聞こえてくる。
「何、何が起きてるの!?」慌てて窓の外を覗こうとするけど、何も見えない。ただ空が一瞬光ったような…雷?いや、違う。もっと大きな爆発のような音だった。
「やっと見つけたぜ。まさかこんなところにいたとはな。」
低く響く声と共に、扉がガチャッと音を立てて開かれる。驚いて振り返ると、そこに立っていたのは長い金髪の男。鋭い目つきに不敵な笑みを浮かべ、銀色の鍵を指先でくるくる回している。なんか、やたらと余裕たっぷりなんだけど…。
「ど、どなたですか…?」
震える声で問いかけると、男はゆっくりと歩み寄りながら、ニヤリと笑って言った。
「そんなに拗ねんなよ、愛しのクラリス。」
必死に問いかける私に、男はまるで全てを知っているかのように微笑んだ。
「あなたは…誰…?」
その瞬間、頭の中でカチッと何かがはまるような感覚がした。
「ジョーカー…」
突然、頭に鋭い痛みが走る。その名前を口にした瞬間、封じ込めていた感情が一気に溢れ出した。鮮明な記憶が押し寄せ、目の前が揺れるように感じる。
転生前の私――クラリスが抱いていた彼への複雑な思いが一気に溢れ出す。敵なのか味方なのか、その曖昧な存在に胸が揺れ動く。
「俺と逃げようぜ、クラリス。」
彼が宝物を扱うかのように優しく名前を囁いた瞬間、胸が不意にきゅんと高鳴った。