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ふっふっふ、俺は主人公の中で最弱〜スキル『絶望的な滑舌』で配信を始めよう〜
伊藤ほほほ
現代ファンタジー都市ファンタジー
2024年11月14日
公開日
80,744文字
連載中
技術革新により、超長距離ワープが可能となった日本では、別の世界に行けるようになっていた。
ワープの際に肉体が変質し、スキルと呼ばれる特殊能力に目覚めることが判明した。
別世界での冒険を配信する異世界配信が流行し、
若者達は有名配信者を目指した。

主人公の後藤勇太(ごとうゆうた)もその一人。
一攫千金を夢見て旅に出た。

「よし、やるか! 一発逆転を狙うには異世界配信しかない!」

世界的な異世界配信サイト『ワールドキャスト』に接続し、配信を開始した。

「あ、あー。えっと、初めまして勇太って言います。これから異世界配信を始めます」

コメ:初見です。
コメ:アタリのスキルを引けるといいね!

ワープの光に包まれると、体が浮いたような不思議な感覚に陥る。
脳内にスキルの情報が流れた。

「あなたはスキル『絶望的な滑舌』を獲得しました」

足裏に地面を感じて目を開けると、赤い絨毯が敷き詰められた広い場所に居た。

「じぇちゅびょうちぇきにゃきゃちゅじぇちゅぢゃっちぇ?」
※絶望的な滑舌だって?

コメ:滑舌ワロタwww
コメ:ハズレスキルキターw

どうやら、滑舌が悪くなるだけのスキルのようだ。

「この光は! もしや、伝説の勇者ではないか?」

声の先には王様のような男が座っている。

「世界は魔王により滅亡の危機に瀕している。勇者よ、世界を救ってくれぬか?」

滑舌が悪くなった一般人に何を期待しているのだろうか。

コメ:そのスキルで魔王倒したら三億のマネーチャットやるよw

……三億だと?

「みゃおうちゃおしましゅ!」
※魔王倒します!

コメ:無理だろ!w
コメ:お前に何ができんねんwww

三億のために俺は魔王を倒す!


――――――――――――――――――――――――――
勇太のセリフは、滑舌が悪いため※で翻訳しています。

プロローグ

 百年程前、化石燃料の枯渇、森林伐採、その他様々な影響で地球の寿命が尽きかけていた。

 人間が生活可能な環境ではなくなる寸前だったと表現した方が正しいかもしれない。


 ある日を境に、紫色の葉をつけた新種の樹木が地球上の至る所で発見されるようになった。

 その不思議な樹は、魔樹まじゅと名付けられ、あっという間に勢力を拡大した。

 後に判明した事だが、ほぼ同時期に宇宙全体でこの魔樹という植物が確認されたという。


 魔樹は、月光を浴びると大気中に魔素まそを放出する性質を持っていた。

 魔素は生態系を元通りに整え、地球の機能は正常に戻った。

 それだけでなく、魔素は膨大なエネルギーに変換する事が可能で、魔素の研究が盛んになった。

 魔素には与えられた情報を現実に発現するという特性もあり、まるで魔術のもとかのようであった。

 電気回路が魔素回路に置き換わり、魔素を用いた通信技術が発達し、産業革命を超える技術革新が起こった。


 一番大きな変化は、延髄えんずいにマイクロチップを埋め込むことで人体をコンピュータ化したことだろう。

 ヒューマンコンピュータ、通称ヒューコンと呼ばれるようになる。

 ヒューコン化した人類は、超長距離間ワープを実現させる事に成功した。

 地球上の何処にでも気軽に移動出来るだけでなく、地球とは別の世界へも一瞬で移動出来るようになったのだ。


 ここで、驚くべき事実が発覚した。

 世界で初めて別の世界へ行った人物の発表によると、地球とは異なる生態系の世界に降り立った瞬間に、特別な力を授かったと言うのだ。

 研究が進むにつれ、別の世界を異世界と呼ぶようになり、特別な力はスキルと名付けられた。


 異世界への超長距離間ワープの際に、細胞レベルで魔素と結びついた肉体が宇宙空間を一瞬で移動することで、何らかの力が作用してスキルが身につくという説。

 異なる世界に降りたつ事で、防衛反応のような何かがスキルを芽生えさせるという説。

 全て推論の域を出ない曖昧あいまいな報告ではあったが、それら全ての論証は世界を震撼しんかんさせた。

 異世界から地球に戻る際にはスキルを失い、また異世界に行くと別のスキルを授かるという摩訶不思議な現象を解明出来た学者はまだ居ない。


 まるで小説やゲームのようだと若者達の間で異世界旅行が人気となり、それに目をつけたどこかの国がワールドキャストという動画配信サイトを立ち上げた。

 ヒューコンの視界情報を共有し、誰もが気軽に異世界に行ったかのような気分になれるというものだ。

 魔素投影まそとうえい方式という特殊な撮影技術により、一人称視点の他に、自撮りのような画角や、頭上から見下ろすような三人称視点など、自由な角度から放送することが可能となっている。

 ワールドキャストはワーキャスと略され、配信者はキャスターと呼ばれるようになった。


 異世界に行くのは怖いが、どんなものか見てみたいという層が多く、このサービスは爆発的に人気になった。

 配信画面にはキャスターの状態が分かるヘルスメーターが表示され、感動的な光景やモンスターと出会った時に揺れ動く内面の情報が臨場感を更に高める。

 有名なキャスターになると月に数億稼ぐとも言われ、将来なりたい職業ランキング一位がキャスターになるほどだ。


 そして、主人公の後藤勇太ごとうゆうたも有名キャスターを目指す一人であった。

 短い黒髪に、少し吊り上がった茶色の瞳。

 イケメンでも不細工でもない平凡な見た目だが、 清潔感のある身だしなみだけは意識している。

 身長も一七九センチと高めではあるが中途半端だ。

 コンビニでバイトをしているどこにでも居そうな普通の男。

 いや、普通だった男。


 決まりきった日常を捨て、一攫千金を夢見た勇太は異世界へと旅立つ。

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