目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第三十七話/村の現状

「勘弁してくれ…もうこれで精一杯なんだ」

すっかり日が暮れた村の真ん中で、老人が膝をついていた。

「ふざけるなよ?俺たちは戦えないお前らの代わりに魔物を狩りに来てやってんだ。もてなしをするのは当然だろ?」

冒険者風の男は持っていた皿を老人に投げつける。

「んなシケたもん食わせやがって」

「おい!何やってんだ!」

エイジが老人のもとへ駆け寄る。

「爺さん平気か?」

「エイジ…」

「あぁ?なんだまた邪魔しに来たのかお前」

冒険者風の男は腕を組んでエイジを見下ろす。

「お前らいい加減にしろ!どれだけ要求すりゃ気が済むんだ!」

「あぁ?何言ってんだコラ、俺らは魔物退治する為の最低限しか頼んでねぇだろうが!」

「お前ら、村全体の何日分の飯食ってると思ってんだ!」

「その村全体で掛かって魔物が倒せんのかぁ?あぁ!?過ぎた口には仕置が必要だなぁ!」

男がエイジの胸ぐらを掴みあげる。

「ぐっ…」

「おお?まだそんな目すんのか、じゃあこれで…」

男が拳を振り上げた時、マンジュが男の腕を掴んだ。

「この手を離すっス」

「あぁ?なんだ嬢ちゃん」

「マンジュ…」

「聞こえなかったっスか?この手を離せっつってるんスよ」

男がニヤリと笑う。

「嫌だと言ったら?」

「二度とスプーン握れなくなるっスね」

「ははっ!おもしれぇ!やってみろ!」

男が拳に力を入れると、マンジュは魔導鞄へ手を入れる。

「マンジュ、やめろ!」

エイジの呼び掛けも虚しく、男の拳はエイジの顔面目掛けて、マンジュが取り出したテンタクルスコップはその男の拳目掛けて、動き出す。

「そこまでだァ」

次の瞬間、拳とスコップの両方をシュテンが止めていた。

「ま、間に合いました!」

後ろからメイとアンナが走ってくる。

シュテンはアンナの機転により、『神出鬼没』にて急行し、戦闘が起こっていたら止めるよう言われていた。

「アニキ…」

「マンジュ、下がれェ」

「…はいっス」

マンジュはシュテンに言われるまま、スコップを鞄に仕舞い後ろへ下がる。

「なに?アンタが晩飯用意してくれんの?」

「…あァ?」

シュテンには男が何を言ってるのか理解する必要があった。

「お前ェ…」

「あん?なんだよ」

「腹減って暴れてたのかァ?」

「はぁ?なめてんの?」

男がシュテンの胸ぐらを掴む。

「…ん、ん?」

ビクともしないシュテンの体に戸惑う。

「おい、どうしたんだよ」

後ろで見ていた男の仲間が怪訝な顔になる。

「い、いや…あれ、おかしいな」

まるで大きなカブでも引っこ抜かんばかりに身体を捩る男を見て、アンナが動く。

「おい」

「あ?なんだよ今忙しいんだよ」

「まだ暴れるようなら、それなりの処罰を受けてもらうぞ」

「あ?」

男がシュテンを離す。

「なに?この女、何様?」

分かりやすくアンナへガンを飛ばす。

アンナは胸元からペンダントを取り出し男へ突き付ける。

「私はアンナ=ヴェイングロリアス。ゲンキ=ヴェイングロリアス白爵の娘だ」

ペンダントには、ヴェイングロリアス家の家紋が刻まれている。アンナが貴族家であることの証拠だ。

「なっ…」

「これ以上続けるようなら、白爵令嬢への狼藉として拘束させてもらうが、どうするよ」

男は少し考えた後、舌打ちをして踵を返した。このまま村から出ていくようだ。

「アンナ殿!大丈夫ですか?」

メイが駆け寄ると、アンナは笑い返した。

「ああ平気だ、シュテンは?」

「どォもねェ」

「シュテン、ああいう時は殺さない程度に吹っ飛ばしていいんだぞ?」

「…あァ」

難しい事を言うな、と思う。

「エイジ、爺さん、無事っスか?」

後ろでマンジュが駆け寄る。

「ああ、俺は平気だ…」

「おお、マンジュか…よく戻ったな」

爺さんがマンジュの頭を撫でる。

「ちょ、よすっス、もう子供じゃないっスよ」

「はっはっは、そうかそうか」

撫で続ける爺さんを横目に、エイジが立ち上がる。

「アンナ…様、まさか白爵家の令嬢だったとは知らず…」

エイジが頭を下げるのを、アンナが慌てて制する。

「よしてくれ堅いのは、アンナ様なんて領民にも言われた事ねえよ。今まで通りでいい」

「…そうか、恩に着る」

「エイジ殿、今のが先程話されていた…?」

メイの問いにエイジは頷く。

「あんなのが連日やってくるんだ。もう半年近い」

「それは…災難でありますね…」

アンナが大きくため息をつく。

「とにかく、この状況含めて明日ギルドを問い質すぞ」

アンナとメイが顔を見合わせて頷く。

「あんな輩を放っておく訳にはいきませんよね、シュテン殿」

「あァ?ん…あァ、そうだな」

肯定してみたものの、シュテンの頭には「?」が乱立していた。

シュテン視点であの冒険者たちは「空腹に任せて暴れている人間」にしか見えなかったのだ。

メイ達がここまで気合いを入れている理由は分からなかった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?