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第三十六話/温かい夕食

 その後、夕飯の準備をすると言いエイジは一度帰宅した。

メイが手伝いを申し出たが、「客人だから」と断られてしまった。

「あの言い方、余り外には出て欲しく無さそうに聞こえたな」

アンナが頬杖を付いてそう零す。

「来る時に冒険者の姿は見ませんでしたが、そこまで警戒する程なのでしょうか…」

「ま、明日になればわかるっスよ」

マンジュは椅子で船を漕ぐ。

「そういえばマンジュ殿、こちらに寄った理由というのは?」

「ああ、そうだったっス」

船漕ぎを辞めて立ち上がると、別の部屋へと入っていく。

「先日の戦闘で魔道具がいくつか損傷したっスよね。ここなら修理キットがあるんス」

明かりを付けると、そこは工房のようになっていた。

「へぇ、直せるんですか?」

「まあ、このイアモニ程度なら、何とかなるっスかね」

マンジュの手には、シュテンが壊してしまった魔道具イアモニが握られていた。

「さて、少し集中するんで、姐さん達はそっちで待っててくださいっス」

「わかりました」

メイは部屋を出て扉を閉める。

ほぼ同じタイミングで玄関が開く。

「食材、持ってきたぞ」

そう言うエイジは手ぶらに見え、シュテンは首を傾げる。

「食材…?」

「ああ、ここだよ」

エイジが中に入ると、エイジの後ろを肉や野菜がフワフワと付いてきた。

「おー、これってエイジ殿の固有魔法ですか?」

「ああ、浮遊魔法だ。あまり戦闘の役には立たない生活魔法だよ」

エイジが手を振ると食材が机の上へ着地する。

「何言ってんだ、さっきは見事だったじゃねえか」

そう返すアンナへエイジは苦笑する。

「単なる虚仮威しさ。大岩を動かせりゃ強いだろうが、手で持ち上げられ無いものは動かせない。小石を飛ばすだけなら、投げりゃいいからな」

「でも、正確にメイの頭を狙ってたろ?ありゃ相当訓練したたろ」

アンナの問いに、苦虫を噛み潰したような顔になる。

「まあ、そうだな…って、んな事はどうでもいいだろ!ほら、飯作るからどけよ」

「まあまあ、私らにも手伝わせろって」

「…ちょっとだけだぞ!」

「エイジ殿、塩漬けした猪肉もありますよ!」





「うーん、大方こんなもんっスかねぇ」

一刻ほど後、一通り修理したイアモニを手のひらで転がしていると、どこからがいい匂いが漂ってきた。

釣られるようにリビングの扉を開けると、大鍋のシチューが食卓へ並ぶところだった。

「あ、マンジュ殿!ちょうどお呼びしようかと思っていたところです」

「美味しそうな匂いっスね…」

「当たり前だろ、俺特製のシチューだぞ」

エイジがお玉片手にキッチンから出てくる。

「ほら、手洗って席に付け」

「はいっス…!へへへ」

マンジュはいそいそと手を流し、食卓につく。

「ほら、それをそこに置くんだよ」

「んァ…こォかァ?」

シュテンがウォーターピッチャーを指定された皿の上に置く。

「あ」

だが、力加減が分からず皿を割ってしまった。

「あぁあぁ、何やってんだよ」

「シュテン殿、危ないですので少しだけ持ち上げて下さい、お皿回収しますね」

「あァ…」

「へへへ…」

マンジュが笑い出すのに気づいたエイジが肩を叩く。

「賑やかでいいな」

「そうっスね」

皿の処理を終えてから、改めて仕切り直す。

「さて、食べましょうっス!」

「ああ」

「いただきます、ありがとうございますエイジ殿、マンジュ殿」

「おう、気にするな」

「姐さんもいっぱい食べてくださいっス!」

「あー、久しぶりにちゃんとした晩飯だぁ…」

アンナが噛み締めるように言うと、食卓が暖かい笑いで包まれた。

「…」

シュテンにはそれが、どうにもくすぐったかった。

「あ、そういえばエイジ、村の…」

マンジュが何かを言いかけた時、外で大きな物音がした。

「…今まで静かだったのに、急だな」

アンナが怪訝な顔をしていると、エイジが立ち上がった。

「俺、ちょっと見てくるよ」

「あ、アタシも行くっス!」

エイジの後を追ってマンジュが飛び出した。

「あ、おい!…しゃあねえ、私たちも追うぞ」

「は、はい!」

「…あァ、分かったァ」

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