その後、夕飯の準備をすると言いエイジは一度帰宅した。
メイが手伝いを申し出たが、「客人だから」と断られてしまった。
「あの言い方、余り外には出て欲しく無さそうに聞こえたな」
アンナが頬杖を付いてそう零す。
「来る時に冒険者の姿は見ませんでしたが、そこまで警戒する程なのでしょうか…」
「ま、明日になればわかるっスよ」
マンジュは椅子で船を漕ぐ。
「そういえばマンジュ殿、こちらに寄った理由というのは?」
「ああ、そうだったっス」
船漕ぎを辞めて立ち上がると、別の部屋へと入っていく。
「先日の戦闘で魔道具がいくつか損傷したっスよね。ここなら修理キットがあるんス」
明かりを付けると、そこは工房のようになっていた。
「へぇ、直せるんですか?」
「まあ、このイアモニ程度なら、何とかなるっスかね」
マンジュの手には、シュテンが壊してしまった魔道具イアモニが握られていた。
「さて、少し集中するんで、姐さん達はそっちで待っててくださいっス」
「わかりました」
メイは部屋を出て扉を閉める。
ほぼ同じタイミングで玄関が開く。
「食材、持ってきたぞ」
そう言うエイジは手ぶらに見え、シュテンは首を傾げる。
「食材…?」
「ああ、ここだよ」
エイジが中に入ると、エイジの後ろを肉や野菜がフワフワと付いてきた。
「おー、これってエイジ殿の固有魔法ですか?」
「ああ、浮遊魔法だ。あまり戦闘の役には立たない生活魔法だよ」
エイジが手を振ると食材が机の上へ着地する。
「何言ってんだ、さっきは見事だったじゃねえか」
そう返すアンナへエイジは苦笑する。
「単なる虚仮威しさ。大岩を動かせりゃ強いだろうが、手で持ち上げられ無いものは動かせない。小石を飛ばすだけなら、投げりゃいいからな」
「でも、正確にメイの頭を狙ってたろ?ありゃ相当訓練したたろ」
アンナの問いに、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「まあ、そうだな…って、んな事はどうでもいいだろ!ほら、飯作るからどけよ」
「まあまあ、私らにも手伝わせろって」
「…ちょっとだけだぞ!」
「エイジ殿、塩漬けした猪肉もありますよ!」
「うーん、大方こんなもんっスかねぇ」
一刻ほど後、一通り修理したイアモニを手のひらで転がしていると、どこからがいい匂いが漂ってきた。
釣られるようにリビングの扉を開けると、大鍋のシチューが食卓へ並ぶところだった。
「あ、マンジュ殿!ちょうどお呼びしようかと思っていたところです」
「美味しそうな匂いっスね…」
「当たり前だろ、俺特製のシチューだぞ」
エイジがお玉片手にキッチンから出てくる。
「ほら、手洗って席に付け」
「はいっス…!へへへ」
マンジュはいそいそと手を流し、食卓につく。
「ほら、それをそこに置くんだよ」
「んァ…こォかァ?」
シュテンがウォーターピッチャーを指定された皿の上に置く。
「あ」
だが、力加減が分からず皿を割ってしまった。
「あぁあぁ、何やってんだよ」
「シュテン殿、危ないですので少しだけ持ち上げて下さい、お皿回収しますね」
「あァ…」
「へへへ…」
マンジュが笑い出すのに気づいたエイジが肩を叩く。
「賑やかでいいな」
「そうっスね」
皿の処理を終えてから、改めて仕切り直す。
「さて、食べましょうっス!」
「ああ」
「いただきます、ありがとうございますエイジ殿、マンジュ殿」
「おう、気にするな」
「姐さんもいっぱい食べてくださいっス!」
「あー、久しぶりにちゃんとした晩飯だぁ…」
アンナが噛み締めるように言うと、食卓が暖かい笑いで包まれた。
「…」
シュテンにはそれが、どうにもくすぐったかった。
「あ、そういえばエイジ、村の…」
マンジュが何かを言いかけた時、外で大きな物音がした。
「…今まで静かだったのに、急だな」
アンナが怪訝な顔をしていると、エイジが立ち上がった。
「俺、ちょっと見てくるよ」
「あ、アタシも行くっス!」
エイジの後を追ってマンジュが飛び出した。
「あ、おい!…しゃあねえ、私たちも追うぞ」
「は、はい!」
「…あァ、分かったァ」