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第三十五話/村の少年

 村の奥へと歩を進める一行だが、人の姿は一向に見かけない。

「マンジュ殿、この村はいつもこんなに静かなのですか?」

「いいえ、少なくともアタシが居た頃は活気のある場所だったっス」

シュテンは辺りを見回す。

「…死臭がねェ」

「確かにそうだな、つまり人がまだ住んでいるという事だ」

シュテンは似た光景を見た事がある。

賊の略奪に遭って潰れた村、流行病に冒された村、そしてならず者の鬼達が暴れた村。いずれもそこらじゅうに死体が転がり、それを片付けられる人力もない、滅びゆく村だ。

それらの村には死体が放つ腐臭が蔓延っていたが、このヘイシ村には全くない。

見た目が似通っているため、シュテンにとってはなんとも気味が悪い感じであった。

「この村はまだ生きているって事ですか」

「着きました、ここっス」

マンジュが指差す先には、こじんまりとした一軒家があった。

「今鍵を出すっス」

マンジュが魔導鞄に手を入れたその時、シュテンの頭に鈍い音が響いた。

「あァ?」

「投石!」

アンナが崩れ落ちる石片に気づき、剣を構える。

メイも刀に手をかけ、構えに入る。

「シュテン殿、大丈夫ですか!?」

「痛くもねェ」

石が当たったこめかみ辺りを摩っていると、誰かが姿を現すのが視界に入った。

「冒険者ども!そこでなにしてやがる!」

現れたのは少年だった。

アンナが前に出て問い返す。

「石投げたのはお前か?」

「だったら何だ!その家に近付くな!」

少年が手を出すと、地面の石ころがふわりと宙に浮かんだ。

「浮遊魔法か!」

「とっとと去りやがれ!」

少年が念じると石がこちらへ飛び出した。

「わっ!」

メイへ真っ直ぐ飛んできた石を、シュテンが掌で受け止める。

「ちょっと!危ないじゃないですか!」

「知るか!お前らが悪いんだろ!」

「おい、私らが何したってんだよ」

「うるせぇ、冒険者のくせに!」

少年が再び石を浮かばせる。

「鍵あったっス!…って何してるんスか?…ん?」

マンジュがシュテンの影から顔を出す。

「ん?んんー?」

無防備に少年へと近付いていく。

「ちょ、危ないですよ!」

「やっぱり、エイジじゃないっスか」

「マ、マンジュ!?」

エイジと呼ばれた少年はマンジュの顔を見るとその場で尻餅を着いた。

「こんな所で何してるっスか?」

「そ、それはこっちのセリフだ!帰ったならそう言え!」

「今来たところっスよ」

しばらく呆気に取られていたアンナとメイだったが、どうやら大丈夫そうだと判断し武器を仕舞う。

「あ、あのーマンジュ殿、その方は?」

「ハイっス!こいつは幼馴染のエイジっス」

「マンジュの仲間だったのか…攻撃して悪かったよ」

エイジは立ち上がると、シュテン達へ頭を下げた。

「怪我ないか?」

「はい、大丈夫です」

「なあ、ひとまず鍵があったんなら中に入ろうぜ。外はなんだか話しづらい」

アンナの提案に乗り、五人でマンジュの家へと入る。

中は長年空けていたとは思えないほど綺麗に保たれていた。

「思ったより、埃っぽくないですね」

「ああ、たまに俺が掃除してるんだ」

メイの疑問にエイジが答える。

「あ、申し遅れました。私はメイと申します。こちらはシュテン殿、そちらはアンナ殿です」

「エイジだ、よろしく。マンジュは今冒険者をやってるのか、迷惑かけてないか?」

「あはは」

メイは笑って目をそらす。マンジュがお尋ね者になっていたのは伏せた方がいいだろう。

「エイジ、なんか村の様子が変じゃないっスか?」

一通り家の中を確認して戻ってきたマンジュが切り出した。

「ああ、その事について話しておこうと思う」

五人がテーブルを囲むと、エイジは頭を下げる。

「改めて、さっきはいきなり攻撃してすまなかった」

「そういえば、えらく冒険者を敵視していたな」

「ああ、最近はガラの悪い冒険者が良く村に来るから、あんたらもそうだろうと思っちまった」

「ガラの悪い冒険者、ですか」

「半年くらい前、この近くに珍しい魔物が出たみたいで、それ目当てに冒険者が集まってるんだ。普通の冒険者なら最寄りの街であるコージツから直行するんだが、ちょうど間にこの村があるんだ」

「なるほどな、わざわざ街まで行かなくてもここに拠点を置けば移動が楽になるって事か」

アンナが腕を組んでそう言うと、エイジが頷く。

「奴らは態度が悪い。宿もないこの村でコージツと同じだけの待遇を求め始めたんだ。耐えかねた多くの住人が村を去ったよ。残ってるのは老人ばかりさ」

「それは由々しき問題ですね…」

メイの言葉に対してエイジは思わずため息が漏れる。

「さっさと魔物が倒されちまえばいいんだがな…」

「エイジ、その魔物って何っスか?」

「さあな、俺は冒険者でもないからな」

「…そうっスか」

アンナが「よし」と言って立ち上がる。

「じゃあコージツのギルドに行って確かめようぜ」

「待つっスお嬢、コージツまで徒歩だと1時間以上掛かるっスよ」

時計を見ると、既に夕方4の刻だ。

今からギルドへ行って戻るとなると夜も更ける。

「今日はもう休んで明日にするっス」

「マンジュ殿、泊まらせて頂いていいんですか?」

「勿論っスよ」

エイジがシュテンの方へ寄る。

「あんたは俺の家に泊まれ」

「んァ?」

「ちょ、エイジ!」

マンジュが慌てて駆け寄る。

「なんでアニキだけエイジの家なんスか!?」

「当たり前だろ、女子3人と同じ家に寝泊まりなんてさせられるか!」

メイとアンナが目を見合わせる。

そういう視点もあるか、という顔だ。

「あの、エイジ殿、我々は構わないのですが…」

「ダメだ」

「お堅いなぁ、別に同衾するわけじゃねぇんだからよ」

「同き…ダメだダメだ!」

マンジュが頬を膨らます。

「じゃあアタシもエイジの家で寝るっス!」

エイジが噎せる。

「も、もっとダメだろ!」

「エイジのケチーっ!」

結局ヒートアップしたマンジュをメイとアンナが宥める形で、男女が分かれる事が決定したのであった。

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