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第三十四話/マンジュの目的地

「姐さん!そっち行ったっス!」

草むらから勢いよくウサギが飛び出す。

「準備出来てます!せーのっおりゃ!」

向かってきたウサギに向かい、メイは広げた麻袋と共に飛び込んだ。

「…あれ?」

手応えなし。

ウサギは股の間をすり抜けていく。

「ああっ!しくじりました!」

「任せろ!」

木々の隙間から飛び出したアンナが、剣を振りかぶる。

突然目の前に現れたアンナにウサギは対応出来ない。

「そらっ!」

振り下ろした剣がウサギの脳天へ直撃する。刃を逸らしていたそれは鈍器となって頭蓋を砕いた。

「アンナ殿、助かりました!」

「ま、想定内だな」

アンナへ駆け寄るメイの後ろからマンジュも顔を出す。

「何にせよ、夕飯ゲットっス!」

メイが麻袋を畳み始めると、近くの草がガサガサと鳴る。

三人が武器に手をかけると、中から大きなシルエットが姿を現した。

「…んァ?」

「なんだシュテンかよ」

「あァ?悪ィかよ」

「あれ?アニキ、何持ってるんスか?」

「これかァ?」

シュテンは持っていたものを適当に放る。

「わっ!」

どすん、と大きな音を立てるそれにメイは思わず仰け反る。

転がったのは大きなイノシシだった。

「うわデッカ…どうしたんだこれ?」

「歩いてたらぶつかってきたァ」

よく見ると頭部が拉げている。

「出会い頭の衝突事故っスか…」

「イノシシすらこの始末かよ」

アンナが分かりやすく呆れる。

「あはは、なんだかこっちの収穫が可愛く見えますね」

「ウサギ一匹に三人がかりじゃ、まだまだって事か…」

「まあまあ、とりあえず火起こすっスよ」




領都シンビを出発して3日、シュテンらオニ党はマンジュの言う「寄りたいところ」を目指していた。

夕方、猪肉を頬張りながらメイが口を開く。

「そういえば、マンジュ殿は何処へ行こうとされてるのですか?」

驚くべき事ではあるが、この3日間誰も行き先についてマンジュに聞くものは居なかった。

元が宛のない旅であることもあり、方角や距離を気にする必要もないと言うのも大きいが、何よりシュテンの存在が大きい。

シュテンの無関心な質が、パーティ内に気にしない雰囲気を作っていたうえ、メイやアンナが多少気にした所で「まあシュテンが気にしてないし」と流してしまっていたのだ。

「あれ、言ってなかったっスっけ?」

そのため、マンジュとしてもこのようや反応にならざるを得ないのだ。

「トリプリファレンス領コージツの街の外れ、ヘイシ村っス」

「ん?コージツだって?」

アンナが眉を顰める。

「どうかしました?距離的にはそんなに離れてもないので良い行き先だと思いますが」

「いや、コージツっつったら確か、今はトリプリファレンス領じゃないぞ?」

マンジュが目を見開く。

「え、そうなんスか?」

「ああ、確か分家のパイナスレングス家が統治を引き継いだ筈だ」

「パイナスレングス…」

マンジュが何か考え込むような仕草を見せる。

「で、そのヘイシ村には何があるんだ?」

「ん?ああ、ハイっス。その村はアタシの故郷なんスよ」

「なるほど!里帰りですか」

メイがポンと手を叩くも、慌ててマンジュが否定する。

「そんな大層なモンじゃないっスよ!自宅の様子を見に行きたいだけっス」

「動機としては十分でしょう!きっと御家族も喜ばれますよ」

「メイ」

アンナがメイを制した。メイはきょとんとするが、マンジュの顔を見てハッとする。

「居ねーっスよ。あるのは家だけっス」

「…すみません、無神経な事を」

アンナは察していたのだろう。思えば、この歳で傭兵などしていた身だ。想像にかたくない。

「気にしないで欲しいっス。アタシはここに居られれば十分なんスから」

「マンジュ殿…」

「…」

シュテンは肉を齧る。

相変わらず、人間の会話は理解が難しい。




それから2日後、やっと案内板に村の名前を見つけた。

「これを過ぎたらもう少しっスよ」

マンジュの歩調が心做しか早くなるのを感じたアンナの口元が思わず緩む。

「ふふっ」

「なんスか」

「いやなんでもねぇよ」

「ふふふ」

「姐さんまでなんスか」

「なんでもないですよ」

「もー!アニキからも何か言ってやって下さいっス!」

「あァ?あー…何かってなんだァ」

そんな調子で笑いながら進んでいた一行だったが、村の入口が近付くにつれ静かになっていく。

というのも、異様な雰囲気を感じたからである。

周囲の警戒を強めつつ慎重に進み、遂に村の門を潜る。

「これは…」

寂れている、といえばそれまでだが、村全体を重い空気が包んでいた。

人気ひとけが無いな…」

「皆様家に籠られているのでしょうか?」

道路脇の雑草は伸びきり、脇道にはゴミが積み上がっている。

マンジュの顔を見るに、昔からこうという訳ではないようだ。

「と、とにかくアタシの家に行ってみるっス」

一行はマンジュを先頭に、村の中へと足を踏み入れた。

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