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第三十三話/旅立ち

「そうか、旅に出るか」

ゲンオーとの面会が終わった少しあと、三人はゲンキを尋ねていた。

「はい、ギルドマスター殿にも言われた事ですし、街の復旧作業が終わり次第…」

突然、ゲンキが笑い出す。

「はっはっは!そう謙虚な事を言うな。すぐにでも、旅立ちたいのだろう?」

メイとマンジュは顔を見合わせる。

「で、ですが…」

「この街の人間は職人気質でな、冒険者が土木作業に参加なんかしたら滅茶苦茶にしごかれてしまうぞ。案ずるな、この程度すぐ復興してみせるわい」

「し、シュテン殿ぉ…」

何故かこっちへ振られてしまった。

「あァー…いィんじゃねェか?」

鬼の常識に照らすのであれば、相手が邪魔だと言うのなら去るのが普通の対応だ。

ゲンキが旅立てというのは、そういう事なのだろう。

シュテンの許しが出たメイは、それでもオロオロしながら、ゲンキに頭を下げた。

「あ、ありがとうございます」




「…いいのか?」

三人が退室したあと、ゲンキはそう言った。

相手は、柱の影に隠れていたアンナである。

「…なにがだよ」

「一緒に行きたいのではないのか?」

「馬鹿言うな…私は、ケンムを看なくちゃならねぇ」

ゲンキはため息をつく。

「我が娘ながら、頑固よのお」

「な…」

何か言い返そうとした時、横から何かが覆い被さって来た。

「アーンナー」

「ちょ、おいやめろショージ兄!」

ショージがアンナにまとわりつく。

「正直になろうよアンナ、ケンムの事なら心配いらないよ、僕たちが責任もって看とくからさ」

「兄…」

「アンナ、領内の事は俺とショージに任せればいい、お前はまだ、好きに生きていいんだ」

「次ケンムが悪さしても、コテンパンに出来るくらい、強くならなきゃだもんねぇ?」

「……」

テンショウも近づいてくる。

「お嬢、ワシの目はまだまだ黒い。何人たりともお頭には近づかせませぬ」

「テンショウ…」

ゲンキが肩を叩く。

「親父…みんな、ありがとう!」

アンナはそのまま、走って部屋を出た。

冒険者アンナにはやりたいことがあった。

もっと強くなりたい。

大切な物を奪われない強さが欲しい。

間近で見たシュテンの強さ。あの力をもっと近くで、もっと沢山見たい。

シュテン達がまだ強くなるというのなら、自分だって食らいついてやりたい。

「おーい!シュテン!私もパーティに入れてくれ!」





その日は、まだ滞在していたゲンオーにアンナのパーティ加入の手続きをしてもらい、それぞれが旅立ちの準備に入った。

そして翌朝、正門前にて。

「アンナぁ!行かないでー!」

「だーっ!鬱陶しい!昨日のは何だったんだ!」

アンナにしがみつくショージをゲンキが剥がす。

「はっはっは!ほらショージ、それくらいにしなさい」

「手紙書いてね、会いに行くからね」

「来んな!」

「メイ嬢、剣の修行を怠らなければ、必ず結果は付いてきますぞ」

「はい!」

テンショウとメイが固い握手を交わす。

「兵団のみんな、元気に過ごすっスよ」

いつの間にか仲良くなっていたマンジュに対し、兵団員たちが雄叫びを上げる。

「…シュテンくん、娘を頼んだぞ」

「…あァ」

「夜はあんまり妹に近づきすぎないよう」

「チェストォ!」

「あいたーっ!」

「さて、名残惜しいがさすがにキリがない。そろそろ出発したまえ!」

「はい!皆様…ありがとうございました!」

メイが深く頭を下げる。

「では!行きましょう!」

メイが踵を返し歩き始めると、シュテン・マンジュが後を追う。

「アンナ、気を付けろよ」

「ああ…またな親父、元気でな」

数歩遅れたアンナは、急ぎ足で追う。

「…勇者タイカよ、彼らの行先が幸福であらんことを」

ゲンキ達は、その希望に満ちた後ろ姿が見えなくなるまで、目で追い続けた。



「さて、旅立ったのは良いですが、何処へ行きましょう」

「なんだお前ら、行き先も決めてなかったのか」

「あ、それならちょっと寄りたいところがあるんスけど、いいっスかアニキ?」

「あァ?あー…好きにしろォ」

「よし!じゃあとりあえずそこ行きましょう!」

「はいっス!」

「大丈夫かこのパーティ…?」

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