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第三十二話/指令報酬

 シュテン達3人はアンナと合流し、呼ばれた部屋へ入ると、ゲンオーが手を挙げた。

「よお、無事みたいだな」

「ああ、そっちこそな」

皮肉気味にアンナが返す。

ギルドは、ケンムによって建物に甚大な被害を出したと聞いている。

ゲンオーはギルドマスターとして、最前線であの召喚魔法とやり合った事だろう。

「ギルドマスター殿も黒龍の相手をされたのではないですか?」

「ああ、あんな狭いところで召喚されちゃひとたまりもないよな。お陰でこっちはテンニンを遣いに出すので精一杯だった」

ゲンオーはやれやれといった表情で笑い、額をさする。

回復師のおかげで塞がってはいるが、戦闘の際に付いたのであろう、まだ新しい傷跡が見えた。

「黒龍に後れを取るとは、私も歳をとったな」

「…すまなかった、あの時ケンムをもっと厳重に調べていれば」

皮肉を言いながらも責任を感じたのか、アンナの声色が重くなる。

「いや、あれはギルドの判断だ。私の責任だ、気にするな」

ゲンオーはひとつ咳払いをする。

「本題だ、今回はギルドマスター指令でお前達四人をこの街へ派遣した。依頼内容はヴェイングロリアス領内の治安維持だ。襲撃を乗り切り、賊を撃退した今、この依頼は達成されたと言っていいだろう」

ゲンオーが懐から何かを取りだした。

「まず、これは今回の依頼を精査した新しいライセンスだ、受け取れ」

ゲンオーがカードのような物を配る。

見ると、最初にギルドで作った物の色違いのようだ。

シュテンが受け取ったそれは、黒だった所が黄色になっていた。

「え!シュテン殿4級も飛んだんですか!?」

「…あァ?」

よく見ると、前は1と書いてあった場所に5と書かれていた。

「一人であの数の魔物を倒したんだ。本当は一気に8級くらいやりたいが、今回はそれで勘弁してくれ」

シュテンは知る由もないが、冒険者ライセンスには等級があり、1級から12級まである。ライセンスの色は2級に一回変わるらしい。

「凄いですよ!シュテン殿!」

「そういうメイ嬢も、昇級だぞ」

「へ?…あ」

メイも万年初級だったライセンスが2級へ上がっていた。

「頑張ったな」

「…えへへ」

メイは両手でライセンスを大事に握りしめた。

「そしてマンジュ君はライセンスを持ってなかっただろ、初級からにはなるがこれで晴れて冒険者だ」

「恩に着るっス!」

「…ギルマス、私は?」

アンナが手を挙げると、ゲンオーは「うむ」と言ってライセンスを出す。

「アンナ嬢も、6級へ昇級だ」

「6級!?」

アンナはライセンスをじっくり見る。

ちなみにアンナは元々4級だ。

「おい、なんかの間違いじゃ…」

「いや、君は緑尾龍を倒した時に5級昇進が決まっていた。そこへの今回の成果が加味され、6級で受理されたんだ」

「マジかよ…」

各自、ライセンスとにらめっこをしていると、ゲンオーは屈んで荷物を漁り始める。

「そして、ここからが本番だぞ」

巾着を四つ取り出し、シュテン達の前へそれぞれ置いた。

「これが今回の報酬だ」

「え!?」

メイがぎょっとした顔でゲンオーを見る。

「なんですかこの量!?ギルマス指令だとしても多すぎます!」

巾着袋は、マンジュ、シュテン、アンナ、メイの順に大きくなっていた。

「メイ嬢には色を付けてある。アンナ嬢は満額支給、シュテンのは訓練場の壊した壁の修繕費が抜いてある」

「…?」

シュテンは話を理解出来ないまま、巾着を振ってみる。ジャラジャラと良い音がした。

「ちょ、アタシのはなんでこんな少ないんスか」

マンジュが軽そうに巾着を持ち上げた。

「マンジュ君、キミはそもそも人斬りをやったのを忘れてないか?」

「あー…」

マンジュの顔が引き攣る。忘れていたようだ。

「君の報酬からは、処理にかかったコスト分、少し引かせてもらった。だが十分な量のはずだぞ」

マンジュはチラッと中を覗く。

「…っス」

どうやら納得はしたようだ。

「ちょ、ちょっと待って下さい!それにしたって多すぎます!」

メイが慌てて立ち上がる。

「言っただろう、君のには色が付けてあるんだよ」

「何故ですか!?私は戦闘の役にも立ってませんし…こんなに貰う覚えはありません!」

捲し立てるメイに対し、ゲンオーは微笑んだ。

「メイ嬢、私は嬉しいのだよ。ずっとソロで、パーティを転々として定着出来なかった君が、ようやく仲間と呼べる者たちに巡り会えた事がね」

「…ギルドマスター殿?」

「テンニンを君の担当に付けてもう何年も経つが、先週ギルドに帰ってきた時、彼女は「もう大丈夫だろう」と言ったんだ。あれほど君を心配していたテンニンが、だ」

「テンニン殿が…」

メイは気恥ずかしいのか、少し俯き気味になる。

「今君達が戻ってきても、ギルドには依頼を出す余裕はない。街周辺の魔物は、住み込みの冒険者だけで事足りるしね」

ゲンオーは肘を付いて身を少し乗り出すと、メイの巾着袋を指さした。

「それはギルドからのお祝いと餞別だ。その金で、仲間たちと共に旅に出なさい。幸い君のパーティメンバーは、さすらい者の異人とお尋ね者の傭兵だ。ひとつの町に留まる理由も無かろう。それは君の目的にも合致するんじゃないか?」

「ギルドマスター殿…!」

震える声でゲンオーの方を見る。

ゲンオーは微笑みを崩さず頷いた。

「他の街のギルドには、私から宜しく伝えておこう。君達も、それでいいね?」

「勿論っスよ!ね、アニキ!」

「んァ?…あァ」

よく分からないが、シュテンはメイに付いていく以外に行くところが無いし、拒む理由も無い。

「お二人とも…ありがとうございます!」

程なくして、ゲンオーとの面会は終わった。

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