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第三十一話/拝礼の儀

 呼ばれた三人が通されたのは、昨日到着して最初に案内された広間であった。

メイが何かを察し、慌ててマンジュとシュテンの身なりを整えた。

「さあ三人とも、領主がお待ちだよ」

ショージはメイの察しの良さにクスリと笑い、わざとらしくそう言った。

なお、シュテンはこれっぽちも分かっていないが、マンジュはハッとして改めて襟元を整えていた。

厳かに扉が開くと、一段上がった上座から真正面に、正装をしたゲンキが仁王立ちしていた。

メイは部屋へ入ると浅めのお辞儀のような姿勢を取る。

マンジュも倣うと、それを見てシュテンも真似をした。

後ろで扉が閉まる音がした。

どうやらショージは中に入ったようだ。

「オニ党諸君、貴君らの活躍により我が領民の安全が守られた。領主として、最大限の感謝をここに表明する」

横に控えていたテンショウが、三人へメダルのようなものを配る。

「差し当っては、王国貴族として名誉と褒美を取らせる。心して受け取られよ」

メイが受け取ったメダルを頭の上に掲げる。2人もそれに続く。

数秒の沈黙の後、ゲンキがパンと手を叩いた。

「はい、堅苦しいのは終わりだ。三人とも楽にしてくれ」

「はい、ありがとうございます」

メイが頭を上げ、そう微笑む。

「あのー、姐さん今のは…?」

マンジュが恐る恐るメイに尋ねる。

「拝礼の儀ですよ」

「なんスかそれ?」

「領地で大きな戦いが起こった際に、その最大の功労者を称える儀式です。これを形式的にやる事で、王京へ鎮圧報告として届くのですよ」

儀式という物は、一定の手順に沿って行われる。すなわち、その手順に意味があるという事だ。国が定めたこれらにはそのものに魔法陣としての役割がある。

現代風に分かりやすく言えば、儀式を遂行するだけで自動的に報告書が作られ送信される、といったところか。

「うむ、すまないなこんな時間に。一刻も早く済ませてしまう必要があったんだ」

マンジュはへぇーと感心している様子であった。

シュテンはというと、メダルが気になるようだ。

「ああ、それはヴェイングロリアス家紋が入った手形だ。領内は勿論、我が影響下であれば優位に使えるぞ」

「…ほォん」

よく分からないので、とりあえず仕舞っておくことにした。

「さて、皆疲れただろう。食事は用意してある。ゆっくりしてくれ」

そうして広間を後にし、食堂に入ると見知った人影があった。

「あ、皆さん」

「テンニン殿!」

メイが駆け出した。

「もう身体は良いのですか!?」

「ええ、心配かけたわね」

テンショウの案内で各々席につき、食事を始める。

「ではもう明日、発たれるのですか」

「ええ、ギルドの建物も損傷してるし、報告も沢山あるからね」

「では、私達も…」

「あなた達は拝礼の儀を受けた功労者じゃないの。手形を貰った功労者は少しの間そこに滞在するのが礼儀って、メイさんは知ってるでしょ?」

「むぅ…」

「平気よ、処理が落ち着いたらマスターが直接こちらに報告と依頼完了の処理をしにくるわ。それまでゆっくりしてて」

「…はい」

メイが渋々受け入れると、テンニンは微笑んでマンジュの方を向いた。

「マンジュさん、貴女への今までの態度を改めるわ。ごめんなさいね」

「な、アタシは警戒されて然るべきっスよ!謝ったらダメっス」

「それでもよ、貴女はしっかりパーティを守ってくれたわ」

「そこまで言われると…」

マンジュは髪を触る。

どうもばつが悪いようだ。

「シュテンさん」

「んあァ?」

油断していたら回ってきた、といった声が出た。

「メイさんを貴方に預けて良かったわ、これからもよろしくね」

「あ?あァ」

微笑むテンニンに対し、シュテンは怪訝な顔でそう返した。

「テンニン殿…もうっ…」

メイは何故か、肉を口いっぱいに頬張っていた。


その翌朝、テンニンは早馬に跨ってコーシの街へ帰って行った。

シュテン達オニ党はその後、領都シンビで一週間を過ごした。





「やああああっ!」

「ふんっ!」

メイは、テンショウとの剣の稽古を日課にしていた。

「ふむ、たった一週間で見違えましたな」

「…ありがとうございます」

メイは木刀を構え直し、再びテンショウへ斬りかかった。


その前の晩、西の森。

「…今のところ、これ以上教えることは無いかな」

「な…っ」

襲撃の日の夜出会った謎の少女との、秘密の稽古を続けていたメイだったが、唐突にそう言われ目を見開く。

「何故ですか、まだ貴女の剣には程遠いです!」

「まあそう焦りなさんな、いくら詰め込んだって、肉体の成長には限界があるからね。今は反復あるのみなんだよ」

「ですが…」

「心配せんでもいい。然るべきタイミングで、アタイはまた現れるから」

そう言い残し、謎の少女は消えたのだった。


「ふう、少し休憩に致しましょう」

テンショウが剣を置き、タオルで汗を拭う。

「…」

「メイ嬢、そう急ぐものでは無い。剣の道は、じっくり進むものですぞ」

「…はい」

訓練場の扉が開き、マンジュが入ってくる。

「姐さん、ギルマスが来たっス」

「では、今日はこれまでにしましょうか」

「はい…ありがとうございました」

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