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第二十六話/オニ党の戦い

「はああああッ!」

メイは目の前の黒龍目掛け、ドウジギリを振り下ろす。

硬質な金属音を携えて両腕に衝撃が重く伸し掛かる。思わず歯を食いしばった。

いくらドウジギリとは言えど、相手は最強龍種。刃は簡単には通らない。

少しでも傷を付けようと腕に力を込めた時、首根っこを引っ張られる。

「わっ!?」

直後に空震。

見るとメイが立っていた場所でシュテンが黒龍の爪を受け止めていた。

メイは、シュテンにより後ろへ下げられたのだ。

シュテンは黒龍の爪を弾くとそのまま拳を握り直し黒龍な腹へぶち込む。

黒龍は一瞬の硬直ののち、大きな唸り声を上げて後方へ吹き飛んで行った。

直後、空中に現れた魔法陣より新たに8体の黒龍が召喚される。

「キリがねェぞ…増えるの止められねェのかァ?」

尻餅をついていたメイは、思い付いて視線を横へ向ける。

その先に居るのは、ケンムに強化魔法を掛けた術者ホエン。

彼女さえ制圧すれば、召喚を止められるかもしれない。

「黒龍相手は無理でも、こっちなら…!」

メイは立ち上がると剣先をホエンの方へ向けた。

「シュテン殿、私は強化師を叩きます!黒龍はおまかせ出来ますか!?」

「あァ…こっから前に出さなきゃァ良いんだろ?」

「お願いします!」

メイは横を向いて走り出す。

その間にも、シュテンは2体の黒龍をのしていた。

「あーわかった、ワドゥったらアイツに吹っ飛ばされたんだ」

「うるさいですね」

「はああああッ!」

観客席かのように雑談する二人目掛け、メイは刀を振り上げる。

ガキン、と剣で受けられる感覚。

気づけば、ワドゥが召喚したであろう魔物が対峙していた。

「スケルトン…キング!?」

驚く間もなく鍔を払われ、スケルトンキングが横振りする剣を紙一重で避ける。

「あれ?珍しいじゃん、ワドゥがスケルトンキングを出すなんて」

「ええ、彼女は少し嫌な感じなのでね」

ワドゥの脳裏には、前回感じた違和感が鮮明に焼き付いていた。

「ふうん?ウチには駆け出しの冒険者にしか見えないけどなー」

「ま、警戒する分にはいいでしょう」

メイは構えを直すが、形になる前に間合いを詰められる。

「ぐっ!」

間一髪剣撃を峰で受けきるも、反撃体勢になる前に空いた胴を蹴り飛ばされてしまう。

背中を土に擦り、弾みでドウジギリを落とす。

「あっ…!」

丸腰のメイにスケルトンキングの追撃が、来なかった。

「…姐さん、平気っスか!?」

スケルトンキングの剣を、マンジュがダガーで受けていた。

「マンジュ殿…足はもう良いのですか!?」

「見ての通り、っス!」

マンジュがダガーを弾くとスケルトンキングの姿勢が崩れる。

「イダテンソックス、フルパワーっス!」

そのまま距離を一瞬で詰め、両手に持った二丁ダガーでスケルトンキングを縦横無尽に叩く。

「ぅおららららっ!」

直ぐに胸部の装甲が崩れ始め、魔物の心臓たる核が露出する。

「もらったっス!」

マンジュは左手のダガーを放り捨て、右手のダガーを両手持ちにして核へ突き立てる。

スケルトンキングは苦しみに悶え、間もなく形を失って崩れ落ちて行った。

マンジュはそれを確認すると踵を返しメイへ駆け寄る。

「姐さん、立てるっスか?」

イダテンソックスにより一瞬で目の前まで来たマンジュに面食らう。

「わっ!びっくりした…ええ、大丈夫です」

メイはマンジュの手を借り立ち上がる。

「ところでマンジュ殿、西門は…」

「ヨーローの杖で完治したギルド職員と兵団長が向かってくれたっス、アタシはこっちに行くべきだと」

「なるほど…」

「で、この状態は」

マンジュが見渡す。

「…あのクソ野郎共をお縄にすれば良いっスかね?」

マンジュがワドゥの方へダガーを構える。

「ええ、大体は合ってます」

「了解っス、アタシが前行くっスね」

マンジュは魔導鞄から、眼鏡を取り出し装着した。

「あれー?よく見たら見た事ある子じゃん、斥候で雇った傭兵の子だっけ」

「ええそうですよホエンさん、あたくし達は見事に裏切られたという訳ですねぇ」

「ふーん、じゃあ片付けなきゃねワドゥ?」

「ええ…面倒なことにねぇ!」

ワドゥがハンチングに手を入れる。

「…っ!」

虚空から飛んできた投げナイフをダガーで弾く。

一本、二本、三本目でマンジュが走り出す。

直後、ワドゥが笑う。

「掛かりましたね」

マンジュの軌道上、その上空に巨岩が召喚される。

マンジュが突っ込むと同時に、岩が落下し轟音と土煙を巻き上げた。

「マンジュ殿!」

メイは思わず叫んだが、直ぐに表情は和らいだ。

土煙の中から巨岩の破片がゴロゴロと転がり出てくる。

視界が開けた時、左腕を突き上げたマンジュが姿を現した。

「同じ手を二度食う程、馬鹿じゃねーっスよ!」

その手には、テンタクルスコップが握られていた。

「……」

「あら、破られちゃったね、どうするの」

ワドゥは無言でスケルトンを多数転移してくる。

「おー、椀飯振る舞いじゃん」

「…じきに黒龍を抑えられなくなります、それまで持てば良いのですよ」

マンジュはテンタクルスコップを地面へ突き刺すと、先程投げ捨てたダガーを拾い上げる。

「それなら、そっちの在庫が尽きるまで相手してやるっスよ」

メイもドウジギリを拾い、構える。

「ええ、シュテン殿は黒龍を通さないし、アンナ殿がケンム殿をどうにかしてくれますからね!」

「行くっスか?姐さん」

「ええ、背中は任せます…我等『オニ党』!いざ尋常に、参ります!」

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