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第十話/魔法の鞄

 ひとしきり質問をしたが、本当にマンジュは組織について何も知らないようだった。

とにかく、マンジュの身の振り方も含めて、ゲンオーへ報告する必要がある。

メイが部屋の外へ合図を出すと、ゲンオーが入ってきた。

「どうだ、話は聞けたか?」

「そ、それがですね…」

事の顛末を聴いたゲンオーの顎がみるみる下がっていく。

「お…おいシュテン!どういうつもりだっ」

掴みかからん勢いでシュテンに詰め寄る。

「どうもこうも、聞いたまんまだァ」

「お前さんそれがどういう意味か分かっているのか?」

「あァ、なんか仕出かす様なら頸ィ刎ねりゃいいんだろ」

こちらに付くと言った以上、シュテン達へ牙を剥くのは叛逆行為だ。シュテンは自身と家来たちを守る為にもそれを排除する必要がある、それが酒呑童子としての常識だった。

「ちょ、シュテン殿!?」

何故かメイが慌てる。

対してゲンオーは溜息を吐く。

「…私はそれで納得するかもしれんが、アンナはどうか知らんぞ?」

「…構わねぇよ」

いつから居たのか、ゲンオーの後ろでアンナが返事をする。

「おいお前」

「なんスか」

「今回の事はキッチリ落とし前つけろ、次からはシュテンぶん殴ってやるからな」

「アニキに手は出させないっスよ」

双方の視線が鍔迫り合う。

ゲンオーがひとつ咳払いをした。

「とにかく、大事な証人であるケンムが回復しない以上、下手人のマンジュを解放する訳にはいかないぞ」

「あの男が治ればいいんスか?」

「ん、まあそういう事だ」

「それなら簡単っスよ。アタシをあの男の所に連れてくっス」




マンジュを拘束した上でケンムが居る隔離室へ移る。

もちろん、妙な動きをしたらシュテンが責任を取るという条件付きだ。

隔離室には窓もなければ簡単に外へ出られる場所でもない。

廊下にもギルド職員を配置し、万全の体制で臨んだ。

中へ入ると数人の回復師が処置に当たっていた。

ケンムに意識はなく、いくつかの魔導具に繋がれているようだ。

マンジュはそんなケンムの脇に腰掛けるとゲンオーの方を向く。

「アタシの魔導鞄を貸すっス」

ゲンオーは渋々、押収していた鞄を渡す。

魔導鞄はウエストポーチの形をしていて、その中は別の場所にあるアイテムボックスに繋がっている。何処でもアイテムを出し入れできる優れものだ。

マンジュはそんな魔導鞄を漁る。

その場に居たシュテン以外が少しピリ付くが、取り出したのは杖だった。

「あったっス、ヨーローの杖」

「ヨーローの杖!?」

待機していた回復師の一人が思わず叫ぶ。

「…凄いものなのか?」

ゲンオーの問いに回復師は答える。

「は、はい、幻の魔導具です。回復師の祖、ヨーローの遺産で…」

回復師が話すのを気にもとめず、マンジュは杖をケンムの傷口に当て、魔力を込める。

「…現在では喪われたものも含め、ヨーローの回復術の全術式が込められた、またの名を…」

魔力を込められた杖は仄かに光ると、みるみるうちに傷が塞がって行っいった。

「…全快の杖」

「回復師が数人がかりで塞がらなかった傷がこんなにあっさりと…」

ゲンオーは目を見開いたまま眉間に皺を寄せた。

「マンジュ殿、君は何故そんなものを…」

メイの問いに、マンジュは振り返る。

「あれ、言ってなかったっスか?」

回復を終え、立ち上がる。

「アタシはマンジュ、世界一の魔導具コレクターっスよ!」

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