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第九話/絡まり

 刺客をゲンオーへ放り投げると、手足を縛った上で聴取室へと引っ立てられて行った。

ゲンオーに待機を命じられたシュテンら三人は、応接室で暇を持て余していたが、アンナは気が気でないのであろう。先程から姿が見えないでいた。

「…あ、そういやこれ忘れてた」

シュテンが懐から取り出したのは、刺客が使っていたテンタクルスコップとかいう獲物だ。

一見、砂場遊びに使えそうな形になっているが、あちこちからウネウネと触手が飛び出していた。

「うわ、なんですかその気持ち悪いの」

「あのモグラ野郎の得物だ、一応拾っといたんだけどよォ」

「うわ、うわぁ…」

メイは恐る恐る触手に手を伸ばしてみる。

「…おィ、これ山も貫くとか言ってたぞォ?」

「えっ!危なっ!?」

メイが慌てて手を引くと、その急な動きに反応したのか触手がメイの腕に絡み付いた。

「へっ?あっ、わあああ!?」

「おォ?」

触手はメイの腕から鎧の中へ入り始め、引っ張られたシュテンの腕を抜けた。

「ひやああああ!し、シュテン殿助けて下さいぃ!」

メイは重そうな鎧でガシャガシャとのたうち回る。

「…しゃーねェなァ」

シュテンはスコップ本体を拾い上げると伸びた触手を乱暴に引っ張る。

「ひゃおおおおっ!?も、もっと優しくお願いしますよぉ!」

「ンな事言ったってなァ」

結局、数分掛けて解ききる頃にはメイは息を切らして遠い目になっていた。

「はぁ…はぁ…あ、危ないところでした…」

「…使い勝手もクソもねェなこれ」

「何やってんだお前ら…」

振り向くと、アンナが怪訝な顔で立っていた。

「あ、アンナ殿…いえ…少し運動を…へへ…ぜぇ」

「そうか…まあいい、お前ら二人ギルマスが呼んでるぜ」

アンナに促され聴取室へと向かうと、困った顔のゲンオーが扉の前にいた。

「おお、来てくれたか」

「どうされたのですか?」

「ああ、それがな…」

ゲンオーは聴取室の扉を少し開け中を覗くよう手招きする。

「だーかーらっ!あの御方を呼べって言ってるんスよ!あの背の高い御仁が来るまで私は何も喋らないっスからね!べー」

中ではギルド職員に向かって舌を出す少女の姿があった。

「あの、あちらは…?」

「シュテンが捕まえた刺客だ」

「えっ!あの子供がですか!?」

少なくともメイよりは上に見えたが、面倒なのでシュテンは何も言わない。

「ん…ああ、私も驚いたがな」

最初言い淀んだゲンオーも同じことを思ったのだろう。

「何故かシュテンを呼べと煩くてな、あの始末なんだ。シュテン、代わりに訊くこと訊いてくれないか」

「あァ?…何を聞きゃいィんだァ?」

「…よし、今から紙に起こそう」

「シュテン殿のサポートで私も同行して宜しいですか?」

メイの申し出にゲンオーは頷き、近くの机で質問リストをしたため始めた。


十分後、ゲンオーが書いた質問リストを手にシュテンとメイが聴取室へ入ると、向かいに座る少女の表情がみるみる明るくなる。

「アニキ!」

「あァ?」

シュテンを認識するや否やそう言い放ち、メイ共々面を食らう。

「シュテン殿、妹君なので…?」

「いや、知らねェ」

「シュテンさんと言うんスね!アタシはマンジュっス!よろしくお願いするっス!」

マンジュと名乗ったその少女は机に思い切り顔面を打ち付ける。

勢いよく頭を下げた、とも言う。

「あ、あァ…?」

「これからはアニキの元でこき使って欲しいと思ってるっス!」

「え、ちょ!貴女!」

思わずメイが割って入る。

「なんスか?」

「貴女はヴェイングロリアス領を狙う郎党の一員なのでしょう!?」

「今まではそうっスね、でももう抜けるんで、関係ないっスよ」

「関係ないって…仲間なんですよね!?」

「仲間と言っても、私は傭兵の斥候っスし、アタシ自身はクーデターに興味もなければ組織の中身もよく知りませんし、それに…」

「?」

シュテンは急に熱い視線を向けられ怪訝な顔になる。

「最強の御仁の側近になるのがアタシの夢ッスから!」

「えぇ…」

メイはその潔さに少し引いていた。

「シュテン殿、どうします?」

面倒な選択を押し付けられる形となったシュテンだったが、不思議と嫌な気はしなかった。

「まァ、俺ァ構わねェぞ」

なにより、このマンジュの態度に懐かしさを感じていた。

「シュテン殿がそう仰るなら…分かりました、では質問には答えてくださいね!」

「はいっス!姐さん!」

「姐さん!?」

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