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第八話/面会

 テンニンに連れられギルドへ向かうと、神妙な顔をしたゲンオーが待っていた。

「よく来てくれた、三人とも」

「一体どうされたのですか?」

メイの問いかけに対し、ゲンオーはアンナを見遣る。

その視線に何かを察したようにアンナは口を開いた。

「…ケンムか」

「ああ、その通りだ」

ゲンオーはシュテンやメイの方を一瞥する。

「今から君たちには、彼に会ってもらう」

「あ?」

「それって…」

「もちろん、異例中の異例だ。だが私の判断でそう決めた。さあ」

ゲンオーが牢へと続く扉に手をかける。

メイは息を呑んで、アンナはひとつ息を吐いて、シュテンはあまり理解せずに中へ入っていった。





「貴様の要望通り、三人を連れてきたぞ」

ゲンオーが話しかける鉄格子の先には、ケンムが鎖で繋がれていた。

「アンナ…」

「…ケンム」

場の空気が張る。

「よく来てくれたなアンナ、嬉しいよ」

「アタシは嬉しくない、なんだって呼び出したんだ」

ケンムはアンナの目を見ると、笑みを浮かべた。

「明日、僕はきっと死ぬだろうからね。その前に伝えておく必要がある」

「あ…?」

「元々は、君を捕獲するのが作戦だったんだ、だけど僕はしくじった。後ろの2人に護衛をさせて弱りきった君を捕まえる寸法だったけど、君は見つからなかったから、僕の龍に食われてしまったと思い込んだんだ」

「待て、ちょっと待てケンム…一体、何を言っているんだ?お前は、龍の召喚実験の為に私を使ったんじゃなかったのか…?」

「ああ、もちろんそのつもりもあったよ。君は負けないと分かってたから。でも僕は早とちりしてね、君が死んでしまったら、奴らは次の作戦に移る。僕はそれを阻止する為に、黒龍の戦闘データが必要だった」

メイはドキリと心臓を鳴らす。

「それで私たちを…?」

ケンムはこくりと頷く。

「すまないと思っているよ。でも、僕にはあの方法しか思いつかなかった!…僕が捕まった今となっては、どちらも無意味だったわけだけど」

「おいケンム…さっきお前、明日死ぬかもしれないと言ったな…どういう事だ」

「簡単な話だ、僕から奴らの話が出ないうちに、口を塞がれる…そして」

「その奴らって誰だケンム!」

「聞くんだアンナ!」

あのケンムとは思えない剣幕に、アンナですらもたじろぐ。

「奴らの目的は、ヴェイングロリアス領の転覆…クーデターだ!君を捕獲出来ないと悟った奴らは、領地へ直接手を出すはずだ!」

「なっ…」

アンナは格子を掴んだまま言葉を失う。

メイも口元を抑えている。

「アンナ、僕は故郷のヴェイングロリアスを守る為にあらゆる手を使ってきた…だが、もう何も出来ない。今はまだ、この話を信じなくてもいい。だが明日、裁きの時間に僕が無事でいなかったら…僕の代わりに故郷を守って欲しい」

「ケンム…っ!」

「ケンム殿!その不届きな郎党は一体何者なのですか!」

「奴らは…っ」

ケンムがことばを詰まらせる。次第に目を見開いたかと思うと、吐血する。

「かはっ」

「ケンムッ!」

「ぐ…あぁっ!!」

次の瞬間、ケンムの胴から鋭利で巨大な何かが突き出してくる。

「ケンム殿ッ!」

「クソっ!」

ゲンオーが鉄格子を蹴破る頃には、ケンムの土手腹にはぽっかりと風穴が空いており、突き刺さっていた何かは姿を消していた。

ゲンオーとアンナでケンムを壁から引き離す。

壁には、ケンムの腹と同じ大きさの穴が空いていた。

「シュテン殿!壁を開けてください」

「あァ?壊していいのかァ?」

シュテンの問に対しゲンオーが返す。

「私が許可する、急げ!」

「あィよッ!」

シュテンが煉瓦積みの壁を殴ると勢いよく吹き飛んで、壁の外側が露出する。

忘れていたが、ここは地下だ。そんな壁を壊せば当然だが土が舞う。

「がぺぺっ」

シュテンは被った土が口に入り、二、三歩退く。

「これは…」

一方でゲンオー達は壁の向こうを見て戦慄した。

土の壁となっていなければおかしい壁の外側は、空洞が続いていたのだ。

そして薄暗い空洞の先で、シュテンの壁破壊に驚いて尻もちを着いている何者かが見えた。

メイが視認する頃には、アンナが飛び出していた。

「アンナ殿!…シュテン殿、頼めますか!?」

「追いかけるのかァ?」

「追いかけて、向こうの何者かを捕まえてきてください!」

「了解ィ」

シュテンは地面を蹴る。

「ちょ」

一瞬でアンナを抜かし立ち上がり逃げの体制に入った刺客を捉えた。

刺客はそれを察すると迎撃の体制に入る。

「捕まってたまるか!食らえ!」

刺客は右手の得物を先程ケンムを刺した触手に変形させるとシュテン目指して伸ばしてきた。

「うおっ…気持ち悪ィなこれ」

シュテンは勢いそのままにそれを手で払う。

「な、馬鹿な!アタシのテンタクルスコップが!山をも突き通す逸品が!」

「うるせェなァ」

「へ?」

間合いに入った瞬間を見極め、シュテンは軽く顔面を殴る。

「ごっ…!」

そのまま吹っ飛んで気絶した刺客を担いでいると、アンナが追いつく。

「シュテン…はえぇよ…」

「あァ?」

「ケンム殿ッ!しっかり!」

後ろからメイの叫び声が聞こえてアンナはハッとする。

そのまま急いで引き返していった。

「…忙しいやつだなァ」

一応シュテンも走って戻ることにした。


「おい!ケンム!」

牢まで戻ったアンナがケンムに駆け寄る。

「は、ははっ…明日まで、待てなかったか…ぐ」

「もう喋るな!回復師は!?」

「今呼んでいる」

「アンナ…奴らは、ヴェイングロリアスへ、必ず向かう…頼む…故郷を…」

ケンムは目を瞑り、手から力が抜けていく。

「おい!ケンム!」

「まだ大丈夫です!気を失っているだけです!」

メイは傷口を抑え止血を試みていた。

「回復班来ました!」

「担架に載せろ!」

回復師数人がかりで、ケンムは運ばれていった。

「さて…」

ケンムを見送ったところで、全員の視線がシュテンへ集まった。

正確には、シュテンが担いでいる刺客へ、だ。

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