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第七話/ナイフとフォーク

「よー、奇遇だなぁ」

突然声をかけられたシュテンは眉を顰める。

はて、誰だろう。

「しかし丁度良かった、ちょっと付き合えよ」

高そうな服を着た女はシュテンの手を取る。

いや、本当に誰だ。

「ち、ちょっと!どちら様でしょうか!?」

メイが叫ぶ。

どうやらメイの知り合いという訳でも無さそうだ。

「あ?お前ら何言ってんだ…?」

三人が同じ顔になった。

「アタシだよアタシ、アンナだ。昨日森からずっと一緒だったろ」

「あァ?」

「え…えぇー!?」

メイは大袈裟に驚く。

「すみません、昨日とあまりにも印象が違ったもので…」

確かに、昨日はボロボロの服で正に狩人といった様相だったが、今のアンナはまるで豪族だ。

「あはは、驚くのも無理はねーよな。こんな粗暴そうな奴が良いべべ羽織ってたら」

「い、いえそんな事はありませんよ?とてもお似合いです!ね、シュテン殿?」

「あァ?あァ、そうだな」

「お、なんだナンパかシュテン?隅に置けねぇなぁ」

「違いますよ!」

シュテンに言われたはずなのに、何故かメイが食い気味に返す。

当のシュテンは、言葉の意味が分からなかったので助かったところだ。

「まぁ冗談はこの辺にして…なあ、この後時間あるか?昨日の礼にメシ奢るぜ」





「そういえば、アンナ殿は貴族なのですか?」

ステーキを頬張りながら、メイはアンナの服装を見る。

「ん?まぁ、一応な。大した爵位も石高も持たない貧乏貴族の末娘さ」

「領地はこの辺では無いのでは?」

「へぇ、なんかやけに詳しいなメイ?」

アンナの返しにメイはピクリと肩を動かした。

なおシュテンは、ナイフとフォークに大苦戦中で何も話を聞いていない。

「い、いえそんな事は…」

「そうだよ、家名はヴェイングロリアス。遠い僻地だから知らんだろう?まあアタシは末娘だから、比較的自由にさせて貰ってるのさ」

「ヴェイングロリアス…南方で2千石ほどを治める白爵はくしゃく家ですか」

この国では爵位が6つにランク付けされている。白爵は5番目だ。

「…本当に詳しいな、もしかしてアンタも貴族か?」

メイは慌てて顔を上げる。

「そんな滅相もない!」

「まぁいいけどよー、そんなことよりもさ…」

アンナが視線をシュテンの方へ向ける。

シュテンはステーキをナイフで刺して噛みちぎろうとしている所だったが、視線を感じて動きを止める。

「んァ?」

「なぁシュテン、昨日のアレ凄かったよなぁ」

「ああ、それなら私も聞こうと思っていました!一体どんな魔法を使ったのですか!?」

二人の輝く視線がシュテンに突き刺さる。

どんな魔法ねぇ。

「魔法ってなんだァ?」

「えっ?」

場が凍る。シュテンは気づかない。

「笑えない冗談だなシュテン、あれは魔法じゃないって言うのか?」

「あ、でも確かに…冒険者ライセンス登録時の適性検査では、魔力は検出されなかったって」

「なにぃ!?それマジか!?」

二人が何を話しているのか分からないシュテンはひたすら肉を食む。

「でもありゃどう見ても魔法だろ!なあシュテン!」

なあと言われても。

シュテンは回想し言葉を探す。

「あー…魔法が何かは知らんが、あれは鬼道っつってなァ、俺がいたところでは妖力って呼ばれてる力を使った技だァ」

「鬼道…妖力…?」

「あ、そうでした…アンナ殿、実はシュテン殿は…」

「なに?異人!?…規格外だぜこりゃ…」

アンナが椅子にへたり込む。

「タンゴかぁ、東方っぽい地名だな…そりゃ意味不明なわけだぜ」

「まったくその通りですね」

シュテンの話なのに、シュテンが置いてけぼりである。

「ところで、アンナ殿はこれからどうなさるおつもりで?」

「ん?ああ、ケンムの話か」

今頃はギルド地下の留置牢に入っているだろうが、明日には沙汰が下る。

多くの冒険者を危険に晒し、あまつさえ実験道具にしようとした罪は重い。

数十年は出て来れないと考えるのが妥当だろう。

「まー、しばらくはソロで日銭を稼ぎながら考えるさ。腐っても縁だ、アイツとは長いからな」

「そうですか…」

その時、見計らったかのようにテンニンが駆け込んでくる。

「!メイさん!みなさんもご一緒で!」

「テンニン殿?どうされたのですかそんなに急いで」

テンニンは机の前まで来ると、息を整える間もなく告げた。

「三人とも、至急ギルドへご同行願います」

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